不動産投資を行っていくなかで、「法人化」をするか迷われている方も多いのではないでしょうか。しかし、不動産投資の法人化にはメリットも多くある一方で、デメリットにも注意しなければなりません。
今回の記事では、不動産投資における法人化のメリット・デメリットに加え、法人化した方がいいタイミングや目安を紹介します。最後に、法人化の流れも解説しているので、最後まで御覧ください。
不動産投資で法人化するメリット
「不動産投資の法人化にはメリットがある」と聞くことがありますが、実際にどのようなメリットがあるのでしょうか。不動産投資における法人化のメリットを4つ紹介します。
節税スキームを活用できる
1つ目のメリットは、節税スキームを活用しやすいことです。現行の所得税率では、個人の所得税率が最大45%(住民税と合わせて最大55%)の税率が課せられています。また、累進課税方式が採られているので、不動産投資で利益を出すほど、納税額も増えてしまうのが現状です。
・個人所得税税率
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円を超え 330万円以下 | 10% | 97,500円 |
330万円を超え 695万円以下 | 20% | 427,500円 |
695万円を超え 900万円以下 | 23% | 636,000円 |
900万円を超え 1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
1,800万円を超え 4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
一方、法人税の税率は、個人所得税の税率よりも低く、資本金1億円以下であれば最大でも23.2%(法人実効税率は最大34.59%)です。つまり、個人で不動産投資を行うよりも、法人化をした方が納税額を安く済ませられる可能性があります。
・資本金1億円以下の法人税税率
年800万円以下の部分 | 下記以外の法人 | 15% |
年800万円以下の部分 | 適用除外事業者 | 19% |
年800万円超の部分 | 23.2% |
損失の繰越が最大10年まで認められる
個人事業主の場合、青色申告を使って確定申告を行っていても、最大3年間しか損失の繰越が認められません。一方で、法人化することで、最大10年間も損失の繰越が認められることとなります。
たとえば、購入費用や経費でお金がかかってしまいやすい初年度に500万円の赤字が発生したとすると、2年目以降の年度に任意で赤字分を計上できます。つまり、利益が多く出た年度で損益通算し、最終的な納税額を減らせるのがメリットです。
金融機関から融資を受けやすい
不動産投資で法人化すると、金融機関から融資を受けやすくなると言われています。これは、個人事業主の場合と比較して、法人の方が決算書の枚数が多く、金融機関側で法人に関する情報を多く得られるためです。
もちろん、個人事業主として不動産投資を行っている場合に、融資の審査に落ちるわけではありません。とはいえ、なるべく審査に通りやすくしたいのであれば、法人化するのも1つのアイデアです。
不動産相続がスムーズになる
個人という形で不動産を所有していると、家族に相続する際に相続税が発生します。また、相続人が複数いる場合、どのように分割するかでトラブルになることがあります。
一方、法人化しておくと、不動産の所有者が「法人名義」であるため、相続税が発生しません。さらに、個人での不動産相続と異なり、移転登記する手間が省けるほか、登録免許税や不動産取得税の節税にもつながります。
法人名義で不動産を所有していれば、オーナーが存命中に家族に対して「給与」という形で早い段階から資産を分割できます。税金や移転の手間などを考慮すると、法人化した方がメリットになる可能性が高いです。
不動産投資で法人化するデメリット
不動産投資の法人化には多くのメリットがある一方で、デメリットにも注意しなければなりません。メリットと同時に、5つのデメリットも押さえておきましょう。
会社設立の手続きに手間を取られる
はじめに、法人化に伴う会社設立の手続きに手間がかかることです。自分しかいない会社を設立する際にも、定款の作成・認証や、司法書士への相談、登記手続きなどに多くの時間を取られてしまいます。
また、会社設立に関する手続きの煩雑さだけでなく、コストもかかります。会社の規模にもよりますが、一般的に30万円ほどの費用が必要です。得られるメリットに対して、時間や費用をかけられるかが法人化するポイントとなります。
法人の維持・経費にコストがかかる
会社設立時のコストに加え、会社を維持するために費用が発生します。個人事業主と比べて、法人の税務処理や会計処理は難しく、税理士に記帳・申告代理を依頼するのが一般的です。
また、赤字が発生しているときでも、法人住民税を納めなければなりません。ランニングコスト以上に、節税効果やメリットを享受できるかを精査する必要があります。
長期保有による税率優遇を受けられない
不動産投資は、5年を境に「不動産譲渡税」の税率が変わります。下記の表のとおり、不動産の保有期間が5年以下だと、短期譲渡という形で所得税と住民税の39.63%が課せられます。一方、5年と1日以上の長期譲渡であれば、所得税と住民税を合わせて20.315%まで税率を下げられます。
しかし、長期譲渡による税率の優遇は、個人で不動産を保有している事業者に対する優遇制度であり、法人には適用されません。法人実効税率は最大34.59%であり、5年と1日以上保有する場合は個人の方が税金を安く済ませられます。
所得税 | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
短期譲渡(5年以下) | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡(5年と1日以上) | 15.315% | 5% | 20.315% |
途中から法人化する場合に不動産取得税と登記費用が発生する
法人化を検討している方のなかには、現在個人として不動産事業を行っており、今後の収益額に応じて法人化を進めるか考えている方も多くいます。しかし、事業の途中で法人化すると、個人名義の不動産を法人名義に切り替えるための登記費用や、不動産取得税、登録免許税などがかかります。
また、司法書士に依頼する費用も発生し、最初から法人化するよりも費用がかさんでしまう可能性があります。
赤字の場合でも法人住民税の支払いが必要となる
個人で不動産事業を行っている場合、赤字が出ている際に所得税や住民税を納める必要はありません。一方で、すでに解説したとおり、法人では赤字が発生していても法人住民税の納付が義務となっています。なお、住民税均等割という形で最低でも年間7万円ほどかかります。
不動産投資で法人化した方がいいタイミング・目安
不動産投資の法人化によるメリット・デメリットがあるなかで、どのタイミングで法人化するのが適切なのでしょうか。
サラリーマン大家で給与所得が900万円以上かつ、所有物件が黒字
不動産投資で法人化するべきタイミングは、「サラリーマン大家で本業での給与所得が900万円以上かつ、所有物件が黒字化」しているときです。個人所得税率の表を参考に、900万円以上の給与所得がある場合、所得税率と住民税率は合わせて43%です。
一方、法人実効税率は、最大でも34.59%であるため、給与所得900万円以上の税率(所得税率+住民税率)よりも低くなります。この場合、個人で不動産投資事業を行うよりも、法人化した方が節税効果を期待できます。
不動産投資法人化の流れと手続き
現在、個人という形で不動産投資業を行っている場合、どのような手順で法人化を進めればよいのでしょうか。一から会社を設立する流れと手続き方法を紹介します。
1.会社の設立準備
最初に、会社設立の準備です。具体的には、社名の決定、代表者印・社印・銀行印の作成、本店所在地の設置、事業目的の設定などが挙げられます。
また、このときに「株式会社」や「合同会社」といった法人格も決めます。株式会社であれば、合同会社よりも知名度が高く信頼性を得やすい点がメリットです。ただし、合同会社よりも、設立費用が高く、決算を公告しなければなりません。
合同会社は、株式会社よりも法人設立費用が安く、比較的自由度も高いのがメリットと言えます。とはいえ、合同会社の社会的な知名度はまだまだ低く、信頼を得られにくい可能性があります。
2.定款の作成と認証
次に、定款の作成と認証です。定款とは、会社のルール・規則を定めたものであり、必ず作成し、公証人役場にて認証を得なければなりません。
また、絶対的記載事項と呼ばれる、「目的」、「商号」、「本店所在地」、「設立に際して出資される財産の価額またはその最低額」、「発起人(投資家)の氏名または名称、住所」の記入が必要です。
3.資本金の払込み
定款の作成と認証が済んだあとは、資本金の払込みです。このときに、発起人名義の口座に資本金を払い込みますが、法人設立後は法人口座に資本金を移します。
なお、現行の会社法では、資本金1円から株式会社、合同会社を設立できます。ただし、資本金1円だと、金融機関における信用を得られにくくなる可能性に注意が必要です。
4.登記書類の作成と申請
会社所在地を管轄している法務局にて登記書類を提出します。以下の登記申請に必要な書類一覧をもとに、不備がないようにしましょう。書類に問題がなければ、申請から約10日で登記が完了します。
・登記申請書
・登録免許税納付用台紙
・定款
・発起人の決定書
・設立時取締役の就任承諾書
・設立時代表取締役の就任承諾書
・設立時取締役の印鑑証明書
・資本金の払込みがあったことを証する書面
・印鑑届出書
・「登記すべき事項」を記載した書面又は保存したCD-R
5.各種書類の提出
登記が完了したあとは、各種書類を提出します。まず、登記してから2ヶ月以内に、納税地を管轄する税務署に「法人設立届出書」を出します。法人設立届出書は、都道府県税事務所と市区町村役場にも提出しなければなりません。
また、青色申告での確定申告を希望する場合には、同じく管轄する税務署に「青色申告の承認申請書」の提出も必要です。その他、「給与支払事務所等の開設届出書」と「源泉徴収の納期の特例の承認に関する申請書」も必要に応じて提出を忘れないようにします。
まとめ
不動産投資における法人化は、メリット・デメリットをしっかりと把握してから進めるようにしましょう。自身の状況によっては、法人化をしても節税効果を得られないだけでなく、ランニングコストが収益を上回ってしまう可能性もあります。
まずは、法人化するべきタイミングを確認し、シミュレーションを行うことが大切です。不動産投資の専門家にも相談しながら、法人化するべきかを検討してください。