かつて、「アジア最後のフロンティア」と高い注目を集めていたミャンマーですが、政治的な混乱が生じたことで経済活動に影響が出ています。不動産市場も例外ではなく、2021年のクーデター前後に大きな変化がありました。
そこで、ミャンマーへの不動産投資を検討している方や、ミャンマーの不動産市場が気になる方向けに、最新の不動産情報を解説します。ミャンマーの不動産は今後伸びるのかどうか、最新情報を踏まえたうえで考えていきましょう。
ミャンマーの不動産最新情報(2021年のクーデター後)
ニュースでも報じられたとおり、2021年にミャンマーではクーデターが発生しました。国民民主連盟(NLD)から軍事政権に逆戻りした結果、ミャンマーの不動産にも大きな影響が出ています。
不動産販売はクーデター発生後に30%減少
2021年のクーデター以降、ミャンマーの不動産市場では取引件数が約30%減少しました。首都ヤンゴンを中心とした都市部では、外国人投資家の撤退や地元経済の停滞が影響を与えています。
なお、不動産業者は価格を下げて販売促進を試みていますが、政治的な不安定さから買い手の心理的ハードルは高くなっています。この状況を打破するため、政府はインフラ開発や法整備を進めていますが、短期的な回復は難しいと見られています。
駐在員帰任に伴い家賃収入が期待できにくい
クーデター後、多くの外国企業が撤退し、それに伴って駐在員も帰国を余儀なくされました。高級住宅地の賃貸市場は大きな打撃を受け、家賃の相場は30~50%減少しているのが現状です。
一方で、現地の中間層をターゲットとした賃貸物件には一定の需要が残っているものの、収益性の低下が避けられません。投資家にとって、短期的な家賃収入を見込むのは困難な状況が続いています。
不動産に関する法整備が進んでいる途中
ミャンマーでは、不動産に関する法整備が遅れており、透明性や信頼性の低さが市場の課題となっています。近年では、コンドミニアム法が制定され、外国人も一部の物件を購入可能になりました。
しかし、具体的な規制や手続きの詳細が明確でないため、多くの投資家が慎重な姿勢を取っています。さらに、土地の権利や税制の複雑さも市場の成長を妨げる要因となっています。
ミャンマーの不動産投資で注意すること
ミャンマーの不動産投資は、情報が入りにくいということから多くの注意点があります。今後、ミャンマーでの不動産購入を検討している方は、本項の注意点を確認しておくようにしましょう。
2018年よりコンドミニアムの所有が可能に
2018年のコンドミニアム法の制定により、外国人がコンドミニアムの所有権所得が可能になりました。ただし、「6階以上の建物」かつ、「各階で40%までの購入」という条件付きです。
本法律の導入は、外国人投資家の関心を引きましたが、実際の取引数は想定を下回っています。市場の不透明性や物件価格の割高さが、参入を妨げる要因となっています。
コンドミニアム法により売買の制限がある
コンドミニアム法は外国人の所有権を認める一方で、売買に関する厳格な制限も設けています。売買契約の際には現地の不動産業者や弁護士を介入させる必要があり、手続きが複雑化する場合があります。
また、所有権の証明や税金の申告が正確でない場合、後々のトラブルに繋がる可能性があるため、慎重な対応が必要です。
外国人による土地の購入は不可
外国人でも不動産の購入が可能な一方、土地の購入に制限がある点に注意が必要です。ミャンマー連邦共和国の憲法には、「すべての土地は国家に帰属すると規定されており、個人や企業が土地を所有することは認められていない」という旨があります。つまり、外国人の名義や企業の名義などでミャンマーの土地を保有することはできません。
各種税金が発生する
ミャンマーの不動産売買でキャピタルゲインを狙いたい方は、税金にも注意しましょう。不動産に関する主な税金に、「キャピタルゲイン税」、「印紙税」、「賃貸借契約書の印紙税」の3つが挙げられます。なお、ミャンマーと日本は租税条約を結んでいないため、外国税額控除が適用されず、二重課税される可能性があります。詳しくは、税理士までご相談ください。
・キャピタルゲイン税
キャピタルゲイン税とは、不動産の売却益を指します。ミャンマー国内では、取引額が1,000万チャット(約72万円)を超える場合にのみ、10%の税率で課税されることとなります。ミャンマー居住者・非居住者に関わらず、キャピタルゲイン税を納めなければなりません。
・印紙税
次に、印紙税は、ミャンマー印紙税法に基づき、不動産譲渡を含み、サービス契約やリース契約等、一定の課税文書について印紙税を納付する必要があります。不動産譲渡に関する契約書の場合、契約金額の3%が課されるほか、「ヤンゴン、マンダレー、ネピドー」に所在する不動産については、追加で2%の印紙税が必要です。
・賃貸借契約書の印紙税
最後に、賃貸借契約書の印紙税は、「1年以上3年以下の賃貸借契約で、年平均賃貸料の0.5%」、「3年超過の賃貸借契約で、年平均賃貸料の2%」です。
ミャンマーの不動産が伸びにくい理由
ミャンマーの不動産は、今後成長する可能性が低い状況にあります。どのような理由から、ミャンマーの不動産が伸びにくいのかを解説します。
外国人がミャンマーの不動産情報を入手しにくい
1つ目の理由は、外国人がミャンマーの不動産情報を入手しにくいことが挙げられます。これは、ミャンマーの不動産を扱っている日系企業が少ないことや、不動産情報や法律の内容が現地語(ビルマ語)で発信されることなどが原因です。
また、クーデター後は、ミャンマー国内で情報統制も行われており、不動産の領域に限らず、ミャンマーの正確な情報を得にくい状況が続いています。今後、ミャンマーの不動産を購入するうえで、情報不足が懸念点となります。
政治的な不安定要素がある
冒頭でも解説したとおり、2021年にミャンマー国内でクーデターが発生しました。アウンサンスーチー氏が率いる国民民主連盟(NLD)から、軍事政権に移行し、ミャンマー国内でも大きな混乱を招いています。
従来の国民民主連盟時代は、積極的に海外からの直接投資を呼び込んでいましたが、軍事政権に切り替わったことを受けて、投資額が激減しました。JETROの情報によると、2024年度4~10月における外国直接投資額は、前年同期比60.2%減の2億2,608万1,000ドルでした。
また、10月の投資認可額は302万7,000ドルで、2024年度に入って最も低い額となっています。同年度最高額である6月の投資認可額(9,399万1,000ドル)の1割にも満たない金額であり、ミャンマーへの投資が激減している状況です。
出典:JETRO「2024年度4~10月の外国直接投資認可額、前年同期比60.2%減」
このように、軍事政権が今後も続くとなると、外資系企業からの投資が減少し、不動産開発にも影響を及ぼす可能性があります。
将来的なミャンマーの経済成長が不透明
ミャンマーは、「アジア最後のフロンティア」とも呼ばれていたように、今後の経済発展が期待されていた国でした。1987年に国連から「最貧民国」と指定を受け、アジア通貨危機後も対外開放を続けた結果、2000年代に成長率10%を記録しました。(※ミャンマーの公式発表ではあるものの、信頼性に疑問が持たれている)(※3)
しかし、2021年のクーデターで軍事政権に移行したことで、ミャンマー経済が1980年代まで逆戻りする可能性が高まっています。すでに、世界銀行の「ミャンマー経済モニター」では、2021・2022年度の実質GDP成長率が前年度比1%になるとの予測を発表しました。同じ東南アジアのタイやマレーシア、フィリピン、カンボジアなどでは、新型コロナウイルス対策規制も緩和し、GDP成長率も上向きに動いています。(※4)
ミャンマーでも、新型コロナウイルスの感染も一段落し、経済活動が戻りつつある一方で、治安の悪化や、インフラのコスト高、投資意欲の減少などが経済に影響を与えています。将来的な経済成長が不透明な状態が続いており、不動産投資に関しても明るい兆しが見えにくいのが現状です。
銀行ローンの利用が制限されている
ミャンマー現地の銀行制度は発展度合いが低く、不動産購入のためのローン利用が制限されています。そのため、多くの投資家が全額現金での支払いを余儀なくされ、高額な資本が必要で、不動産市場の活性化を妨げる大きな要因となっています。
ミャンマーで不動産投資を始めるならヤンゴンがおすすめ
ヤンゴンは、ミャンマーの不動産投資において唯一発展が見込まれるエリアです。都市部では不動産需要が根強く、特に商業施設や住宅が整備されたエリアでは将来の価格上昇も期待されています。ここでは代表的な3つのエリアを紹介します。
1.ダウンタウンエリア
ダウンタウンエリアは、ヤンゴン市内の南部に位置し、ミャンマーの行政やビジネスの中心地として機能しています。このエリアには市役所をはじめとする主要な行政機関が集まっており、ビジネスを展開する外国企業にとっても重要な拠点です。
日系企業が建設した「Sakura Tower(サクラタワー)」は、ヤンゴンにおける外資系企業のオフィスが多く入居するランドマークとなっています。また、ダウンタウン北部にある「ヨーミンジー通り」には外国人向けのコンドミニアムが多く、住環境の良さから長期滞在者にも人気です。今後も商業施設や住宅需要の高まりが期待されています。
2.ヤンキンエリア
ヤンキンエリアは、ヤンゴン市内の中央に位置する住宅エリアで、高級コンドミニアムが多数立ち並んでいます。この地域には、大型ショッピングモール「ミャンマープラザ」や「ジャンクション・スクエア」があり、生活の利便性が高い点が特徴です。
また、交通アクセスの良さや治安の良さから、地元富裕層や外国人駐在員に人気の高いエリアです。不動産市場においても安定した需要があり、賃貸収入を狙った投資にも適しています。都市開発が進むにつれ、さらに高級住宅街としての地位を確立する可能性があります。
3.スターシティ(タンリンエリア)
ヤンゴン市内から川を隔てた南東部に位置するタンリンエリアは、「スターシティ」と呼ばれる大規模な開発地域が注目されています。このエリアには、高級コンドミニアム、商業施設、オフィス、ゴルフ場などが整備されており、都市型ライフスタイルを提供する場所として注目を集めています。
スターシティは開発が進む地域であり、現在の不動産価格は他エリアに比べて比較的手頃ですが、将来的な価格上昇が見込まれる投資先です。特に、周辺のインフラ整備や新規開発プロジェクトの進展に伴い、魅力的な投資機会が広がると予測されています。
東南アジアの不動産領域で成長性が高い国
ミャンマーは、政治的な不安や、経済の先行きが見通しにくいことから、現時点では不動産投資を積極的に行うことは推奨しません。とはいえ、東南アジアには、今後の経済成長が期待されている国が多くあります。そこで、不動産領域での投資を検討している方向けに、東南アジアでおすすめの国を3つご紹介します。
カンボジア
カンボジアは、外国人でも不動産が購入しやすい国の1つです。ミャンマーのコンドミニアム法同様に制限があるものの、「2階以上の住居が購入対象」、「建物全体の70%まで保有可能」など、厳しいルールは設けられていません。また、カンボジア国内に居住していない外国人でも、現地の銀行口座を開設できます。
カンボジアの経済成長も著しく、2024年の成長率は6%の予想です。また、首都プノンペンには、1,000万円台で購入可能な不動産も多く、経済成長に伴い、将来的なキャピタルゲインを狙えます。
出典:JETRO「東南アジアの経済成長、2024年は4.6%前後の見通し」
マレーシア
マレーシアは、東南アジアのなかでも若者が多い国の1つです。平均年齢は28歳(日本は48歳)と若く、賃貸需要による家賃収入にも期待できます。また、依然として経済成長は伸びており、2024年第2四半期実質GDP成長率が前年同期比5.9%でした。経済成長によるキャピタルゲインも狙える国です。
ただし、外国人向けの不動産売買ルールに基づき、「100万リンギット(約2,900万円)」の不動産のみが購入の対象となる点に注意しましょう。
出典:JETRO「第2四半期のGDP成長率は5.9%に加速、1年半ぶり高水準」
フィリピン
日本から3時間ほどのフライトで行けるフィリピンも、不動産投資におすすめの国です。経済成長に欠かせない人口の伸びが著しく、2020年5月時点で1億903万人を突破し、過去5年間で800万人も増加しました。
とくに、労働生産人口(15〜64歳)の割合が高く、2020年の労働生産人口は6,900万人(全体の約64%)、そして2050年には9,800万人(全体の約66%)にも上る予測があります。労働生産人口が増加することで、不動産価格上昇に伴うキャピタルゲインだけでなく、賃貸需要も狙えます。
出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「生産年齢人口(15〜64歳人口」
まとめ
ミャンマーの不動産投資は、2021年に発生したクーデターに伴い、民主政権から軍事政権に移行したこともあり、政治的な不安定さがネックとなっています。また、現地の情報が入りにくいため、現時点ではミャンマーへの不動産投資は難しい状況です。
今後、東南アジアでの不動産投資を検討している際には、カンボジアやフィリピン、マレーシアといった成長性の高い国もおすすめします。当社は、カンボジアとマレーシアに現地法人を設立し、最新の不動産情報をお客様にお届けできます。少しでも気になることがありましたら、当社までぜひお気軽にご相談ください。