マレーシアで不動産を売却する際には、現地の法律や税制度に関する知識が欠かせません。外国人オーナーの場合、手続きの流れや規制に対する理解が売却に向けたポイントです。
また、売却には費用や税金が発生するほか、資金の国外送金や契約面での注意点もあります。本記事では、マレーシア不動産の売却手順とあわせて、発生するコストや注意すべきポイントをわかりやすく解説します。
マレーシア不動産の売却に関する基礎知識
マレーシアの不動産を売却する際には、現地の法律や市場特性を理解しておくことが重要です。特に外国人オーナーにとっては、売却可能な物件の条件や手続きの流れを把握することで、スムーズな取引が実現できます。
マレーシアでの不動産売却は外国人も可能
マレーシアでは外国人が所有する不動産の売却が法的に認められており、マレーシア国外に在住していても売却手続きは可能です。ただし、州によって手続きや許可の条件が異なる場合があり、売却前に確認が必要です。
たとえば、外国人が保有可能な不動産には最低価格の規定があるほか、一部の物件カテゴリー(ブミプトラ向け物件など)は売却先に制限があるケースもあります。また、外国人名義の不動産を売却する際には、法定手続きや印紙税、税務申告なども必要となるため、現地の不動産エージェントや弁護士との連携が不可欠です。
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売却対象となる主な物件タイプと市場動向
マレーシアで売却対象となる主な物件は、コンドミニアム、サービスアパートメント、土地付き住宅(バンガローやセミD)などです。都市部ではコンドミニアムの需要が根強く、外国人投資家からも注目されています。
一方で、地方の不動産や高価格帯の物件は売却までに時間がかかることもあります。近年の市場動向としては、クアラルンプールやペナン、ジョホールバルなど主要都市圏で価格が横ばい〜やや下落傾向にあるため、早期売却を希望する場合は価格設定やリフォームなどの工夫が必要です。
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売却のタイミングを見極めるポイント
マレーシア不動産の売却を成功させるには、売却のタイミングが重要です。一般的には、購入後5年以上経過してからの売却が、キャピタルゲイン税(RPGT)の軽減につながるため有利と言われています。
また、為替レートも考慮する必要があり、売却時のマレーシアリンギットと円(または他通貨)とのレートが利益に大きな影響を及ぼします。現地の経済情勢や住宅ローン金利の動向、不動産市場の需要と供給バランスを見極めることで、より有利な売却条件を引き出せます。
【10ステップ】マレーシア不動産売却時の手順
マレーシアで不動産を売却する際は、事前準備から契約・資金移動まで複数のステップを慎重に進める必要があります。不動産の売却をスムーズかつ確実に進めるための流れを「10ステップ」で紹介します。
1.不動産売却時の査定
マレーシアの不動産に限らず、売却する物件の相場価格を把握することが大切です。物件の査定を依頼するにあたっては、複数の不動産会社に問い合わせするのが望ましいです。所有不動産の情報やその説明が面倒な場合は、信頼できそうな不動産会社1社を選び、その会社に査定してもらうのもよいでしょう。
なお、マレーシアを含む東南アジアでは、無免許のまま不動産業を営んでいる業者も少なくありません。査定を依頼するときには、不動産会社が持つライセンスの確認が重要です。また、多くの不動産会社が適正価格を調査せずに売却額を提示してくるため、売主も自ら不動産の周辺相場を把握しておく必要があります。
2.不動産会社の選定
複数の不動産会社から物件の査定を取得したあとは、査定額や対応の質などを考慮して不動産会社を選びます。不動産会社を選ぶ基準としては、マレーシア現地に法人もしくは拠点を持っている会社を選ぶのが望ましいです。
現地に活動拠点を持たない不動産会社を選ぶと、再委託という形で現地の不動産エージェントに対応を丸投げされることもあります。現地の不動産エージェントに実務を再委託されることは、売主が直接現地の不動産エージェントをコントロールできないので、望ましくありません。
3.不動産会社との契約締結
不動産会社へ売却を依頼する書面にサインをし、売却活動をスタートします。不動産会社と契約するときには、下記3つの書類をあらかじめ不動産会社に確認してもらうと、その後の対応がスムーズです。
・物件購入時のSPA(Sales and Purchase Agreement=売買契約書)の写し
・売主のパスポート
・住宅ローン償還表(物件購入時に住宅ローンを利用した場合)
なお、日本国内で不動産を売却する場合は、複数の不動産会社へ並行して物件売却を依頼することもできます。しかし、マレーシア不動産を売却する場合には、不動産会社は極力1社に絞るほうが無難です。複数の不動産会社に依頼すると、手数料の獲得を優先するあまり、不動産会社が売り急いで指値交渉になることも少なくありません。結果的に当初の想定よりも売却額が安くなってしまうことも起こり得ます。
4.不動産売却活動
不動産会社との契約が完了したら、不動産会社は買主を見つけるために売却活動を開始します。広告掲載から買主候補者への提案、内覧、買主との交渉も基本的には全てやってくれることがほとんどです。
なお、大半の場合はいくつかの方法を並行して買主を探します。代表的な方法の1つは不動産ポータルサイトに物件情報を掲載し、買主からの問い合わせを待つことです。そのほか、同業他社へ物件情報を流して紹介を受けるなどの方法もあります。
5.購入申込書の受け取り
物件の購入希望者が現れたら、購入の条件が書かれた申込書を購入希望者から受け取ります。購入にあたっての条件が記載されているので、内容の精査が重要です。
また、購入申込書を受け取ったら、同時に購入希望者から予約金の支払いを受けます。多くの場合は、予約金は物件売却額の2〜3%です。
6.売却申込書の提出
購入条件を確認後、その条件で売却するのであれば、買主に対して売却の申込書を提出します。申込書を提出する時の注意点は、物件の故障や不具合をあらかじめ修繕するか、付帯設備や家具などを買主に引き渡すかどうかです。
7.売買契約書へのサイン
売主と買主との間で売却条件がまとまったら、SPAと呼ばれる売買契約書を作成します。売買契約書を作成するのは現地の弁護士で、売主は弁護士に契約書作成などの業務を委託する必要があります。
なお、委託先の弁護士については、担当の不動産会社が紹介してくれるのが一般的です。弁護士に業務委託したら、再度買主から手付金が支払われます。手付金は、物件価格の10%から支払い済みの予約金を差し引いた金額です。また、手付金を受領したら不動産会社へ仲介手数料を支払います。
8.買主の購入許認可申請
買主が外国人の場合
外国人がマレーシア不動産を購入する場合は、物件が立地する州の政府に対して許可申請を行い、承認の取得が必要です。申請から承認まで3~4ヶ月かかるので、その間はしばらく待ちの状態となります。
買主がマレーシア人の場合
州政府等への申請は不要です。売買契約を締結したら次のステップに進みます。
買主がローンを組んで購入する場合
買主の購入申し込み後、買主は銀行へローンの申込手続きを行います。ローンの申請手続きから審査の完了までに必要な期間は1~2ヶ月です。
買主が現金購入する場合
買主が売買代金をいつでも支払う準備ができているのであれば、即手続きも可能です。
9.買主の残金支払いと決済
州政府からの許可がおり、ローンの審査も完了したら残金の決済に進みます。買主が残金を弁護士の口座へ送金した後、弁護士が所有権移転に関する手続きを行います。
弁護士から売主へ残金が支払われるのは、所有権移転の手続きが完了した後です。なお、残金決済日を起算日として、税金や物件運用の諸経費を買主と精算します。コンドミニアムなど管理組合が組織されている物件の場合は、管理費および修繕衝立金の精算も必要です。
10.買主への引き渡し
残金決済および諸費用の精算が完了したら、鍵の一式を買主に引き渡します。また、事前に決めておいた、修繕や家具の引き渡し有無についても確認し、後のトラブルにならないようにすることが重要です。
マレーシア不動産売却時に発生する費用と税金
マレーシアで不動産を売却する際には、さまざまな費用や税金が発生します。事前にこれらのコストを把握しておくことで、予期せぬ出費を避け、より効率的な売却計画が立てられます。
不動産売却にかかる費用
・不動産仲介手数料
・弁護士費用
・印紙税(一般的に買主負担)
・土地登録料(一般的に買主負担)
マレーシアで不動産を売却する際には、いくつかの費用が発生します。代表的なのが不動産仲介手数料で、通常は物件価格の2〜3%程度が相場です。不動産手数料は売主が負担することが一般的ですが、契約条件によって異なる場合もあります。
次に、弁護士費用や事務手数料があり、売買契約書の作成・確認や、登記関連の手続きのために必要で、弁護士費用は物件価格に応じた段階的な料率で計算されることが多いです。
その他にも、印紙税や土地登録料が発生しますが、これらは買主側の負担となることが一般的です。ただし、契約によっては交渉により一部を売主が負担するケースもあります。
キャピタルゲイン税(RPGT)
マレーシアでは不動産を売却した際の利益に対してキャピタルゲイン税(Real Property Gains Tax:RPGT)が課されます。RPGTは、不動産を売却するまでの保有期間によって税率が異なります。
たとえば、2024年時点のルールでは、物件を3年以内に売却した場合の税率は30%と高く、4〜5年以内では20〜15%に軽減され、6年目以降であれば10%となります。つまり、長期保有後に売却した方が税負担を抑えられるメリットがあります。
また、自己居住用の住宅であれば、一定の条件下で一度だけRPGTの免税特典を利用できる制度も存在します。なお、非居住外国人に対してもRPGTは適用されるため、売却計画を立てる際は事前に税務上のシミュレーションを行うことが重要です。
マレーシア不動産売却時の注意点
マレーシアで不動産を売却する際には、外国人ならではの制限や手続き上の注意点があります。安全かつ確実に売却を進めるためには、事前に法的リスクや資金移動に関するルールを理解しておくことが重要です。
外国在住者が売却する際の制限や条件
外国に在住している不動産オーナーでも、マレーシア国内の物件を売却することは可能です。ただし、いくつかの制限や手続き上の条件があります。
不動産売却は、マレーシア国内における「弁護士代理人」を通じての手続きが必要です。また、物件の種類や所在地によっては、売却時に「外国人向けの最低価格規制」が影響することがあります。
たとえば、州によっては100万リンギット以上の物件でなければ外国人が購入できないため、買主の選定に制限が生じる場合があります。こうした要素を事前に確認し、売却可能な対象者や販売戦略を明確にしておくことが重要です。
資金の国外送金と為替リスク
不動産売却で得た資金を国外へ送金する場合、マレーシアの外貨管理(Foreign Exchange Administration)ルールに従う必要があります。売却資金をスムーズに送金するには、正規のルートで売買契約と納税手続きが完了していることが前提となり、送金時には銀行側から関連書類の提出を求められることが一般的です。
また、現地通貨のリンギットを自国・他国通貨に換える際には為替相場の影響を受けるため、送金のタイミング次第で実際の手取り額に大きな差が生じることが考えられます。可能であれば、送金計画と為替ヘッジを専門家に相談し、損失を抑える工夫も重要です。
トラブルを防ぐためのリーガルチェック
売却時に思わぬトラブルを防ぐためには、契約内容の法的確認(リーガルチェック)も重要です。物件に抵当権や未払いの管理費、固定資産税などが残っていないかを事前に調査し、すべて解消した状態で売却を進めることが求められます。
特に、外国人所有の不動産に関しては、売却先や契約条件に対してマレーシア政府や州政府の承認が必要となる場合もあり、それらの確認を怠ると後に契約が無効と判断されるリスクがあります。信頼できる不動産弁護士に依頼し、契約書の作成から引き渡しまで法的リスクを最小限に抑える体制を整えることが、安心・安全な売却実現に大切です。
まとめ
マレーシアの不動産を売却するには、現地の不動産市場や法律、税制について正確な理解が求められます。特に、外国人が売主となる場合は、売却可能な物件の条件や州ごとの規制、キャピタルゲイン税(RPGT)の仕組みなどを把握しておくことが重要です。
売却にはエージェント費用や法的手続き費用などのコストがかかるほか、売却益の送金や為替の影響にも注意が必要です。信頼できる専門家のサポートを受けながら、計画的に進めることで、安全かつスムーズな売却を実現しましょう。