マレーシアへの企業進出、移住に際し「マレーシアの税金はいくらかかるのか?」と疑問を持っている方が多いです。本記事では法人と個人に分けて、マレーシアでかかる税金についてわかりやすく解説します。(RM1=35円で換算)
【法人】マレーシアで税金がかかる法人とは?
マレーシアで法人税の対象となるか否かは「マレーシア企業としての居住資格の有無」によって決まります。これはマレーシア所得税法第8条1項にて定められている内容です。
事業の管理および統制がマレーシア国内で行われている企業の場合、マレーシア居住者とみなされ法人税課税の対象になります。具体的には、取締役会などの意思決定がマレーシア国内で年1回以上行われていれば、その企業は税務上のマレーシア居住者とみなされます。
また、課税対象となる所得は「マレーシア国内を源泉とするもの」と「国外から送金されたマレーシア国内で受領したもの」です。2021年12月31日まで、マレーシア国内で受領した国外源泉所得は免税されていましたが、2022年1月1日からは国内源泉所得同様に課税対象となります。
ただし経過措置が施行されており、2022年6月30日までは3%の税率で課税されます。また、法人等が経済的実体要件を満たす場合において、マレーシア国外で生じた資産の処分益でマレーシアに持ち込んだ所得については、2024年1月1日から2026年12月31日まで非課税となります。
出典:税理士法人山田&パートナーズ|マレーシアにおけるキャピタルゲインタックス(国外源泉所得)
【法人】マレーシアで法人にかかる税金について
それではマレーシアで法人にかかる税金について、3つ解説します。
・売上税、サービス税(SST)
・印紙税
・源泉税
売上税+サービス税(SST)
SST(売上税+サービス税)とは、特定の物品・サービスに対して課税される税金のことです。2018年5月にマハティール政権が発足されると日本の消費税にあたるGST(物品サービス税)が撤廃され、新たにSSTが導入されました。
SSTのうち売上税は、マレーシアの関税コード(HSコード)に基づき省令で指定されている物品(建設材、アルコール飲料など)で5%、それ以外には10%がかかります。また、以下に該当する企業には売上税の登録義務があります。
<売上税の登録義務がある企業>
- 過去12ヶ月以内の売上高がRM50万を超える課税対象品を生産する製造業者
- 過去12ヶ月以内の下請け業務の総人件費がRM50万を超える下請け製造業者
一方、サービス税は特定地域・自由地域・保税倉庫・保税工場・共同開発地域を除くマレーシア国内で適用され、以下の課税対象サービスにて一律6%が課税されます。
<課税対象サービス>
宿泊、飲食、保険、通信、広告、駐車場、賭博、専門サービス、ゲームサービス、プライベートクラブ、ゴルフ、ヘルス・ウェルネス、ナイトクラブ、ダンスホールなど
印紙税
日本における印紙税は不動産売買契約書や領収書など、取引に伴い作成される文書に課税されます。一方、「土地、営業権、売掛金などの資産譲渡に関する文書」に課税するのがマレーシアの印紙税です。税率は次のように変化します。
資産価額 | 税率 |
---|---|
〜RM100,000 | 1% |
RM100,001〜RM500,000 | 2% |
RM500,001〜RM1,000,000 | 3% |
RM1,000,000〜 | 4% |
印紙税はあくまで文書を法定証拠として有効とする場合に課税される税金のため、文書を作成せずとも取引が有効な場合は印紙税を支払う必要はありません。
一方、サービス契約と借入契約においては0.5%の税率が適用されます。ただし、下記の場合において税率は0.1%に減税されます。
全てのサービス契約 | 従価税率にて0.1% | |
多段階のサービス契約 (サービス提供者と民間企業) | 第一段階 | 従価税率にて0.1% |
その次の段階 | RM50を上限とする | |
多段階のサービス契約 (サービス提供者と政府) | 第一段階 | 免税 |
第二段階 | 従価税率にて0.1% | |
その次の段階 | RM50を上限とする | |
要求払い返済、一括返済のローン契約 | 0.1%の軽減税率 |
文書に対する印紙税が未納、または印紙税額が不足している場合は法定証拠として有効とみなされないので注意してください。
源泉税
マレーシアにおける源泉税(源泉徴収税)は、非居住者(※)が国内で得た所得から税金を徴収するための税制です。マレーシア居住者は、非居住者に対して行った特定の支払いの総額に応じて、一定の割合で源泉税を控除し、マレーシア財務省の一部局である内国歳入局(日本でいう国税庁にあたる)に納付しなければいけません。※1暦年のうち滞在が182日未満
源泉税の課税対象と税率は次のようになります。
源泉税の対象 | 税率 | |
---|---|---|
利子 | 15% | |
ロイヤリティ | 10% | |
マレーシア国内で提供されたサービス | 請負業者相当分 | 10% |
被雇用者相当分 | 3% | |
マレーシア国内におけるテクニカルサービス (マレーシア国内で提供されたサービスのみ) | 10% | |
動産使用料 | 10% | |
事業・雇用以外を源泉とするその他の所得 | 10% |
「マレーシア国内におけるテクニカルサービス」とは技術的・管理的なサービスに限らず、マレーシア国内で行われたあらゆる助言・支援・サービスを対象としています。また、マレーシアは二重課税を回避するための租税条約を、日本を含む76ヵ国と締結しています(2024年11月時点)。
【法人】マレーシアで税金優遇を受けるには?
マレーシアでは法人税の優遇措置が用意されているため、有効的に活用することで節税対策を実施できます。下記は主な優遇措置です。
優遇措置 | 詳細 |
---|---|
パイオニアステータス | 奨励事業(製造業、農業、観光業など)に該当する事業を行う会社や、奨励品を製造する会社に与えられる優遇措置。生産開始日と認定された日から5年間、法定所得の70%が免税。 |
ITA(投資税額控除) | パイオニアステータスに代わり申請可能な優遇措置。ITAを認められた企業は、最初の適格資本的支出が発生した日から5年間、適格資本的支出総額の60%が控除される。これにより法定所得の70%を相殺可能。 |
RA(再投資控除) | 操業開始から36ヵ月以上が経過しており、既存事業の拡大・近代化・自動化のため、あるいは既存事業の活動を関連製品に広げるために適格資本的支出が発生している製造企業に適用。発生した適格資本的支出に対して60%が控除される。これにより法定所得の70%を相殺可能。 |
この他、マレーシアではさまざまな優遇措置が用意されているため、自社事業の適用可否を事前調査しておくことが大切です。
【法人】マレーシアの税金手続きと申告期限
続いて、マレーシアにおける法人税の手続きや申告期限について解説します。日本の法人税手続きや申告期限と比較しながら、対応プランを立てておきましょう。
法人税の手続き
マレーシアの法人所得税手続きは日本における確定申告とは異なるので注意してください。マレーシアでは、事業年度を開始する日から起算して30日前までに、当該事業年度における年間の法人所得税見積額をマレーシア国税庁に提出します。
事業年度開始日から数えて6ヶ月目と9ヶ月目には、法人所得税見積額の変更ができます。ただし、見積額に基づいた累積納付額が、確定ベースで最終税額を30%下回ってしまうと、ペナルティとして30%を超える法人税不足額の10%が課せられます。
ちなみに、次年度の法人所得税見積額は今年度の見積額または修正見積額の85%を下回ってはいけないルールもあります。
このようにマレーシアの法人税手続きは日本の確定申告とは全く異なる手順を踏むため、手続き方法や納税スケジュールなどを事前に把握しておくことが重要です。
法人税の申告期限
日本の確定申告・納税期限は原則として毎年2月16日〜3月15日の1ヶ月間ですが、マレーシアでは「事業年度末から7ヶ月以内」と、申告期限が長期で設けられています。また、インターネット申告を活用すると1ヵ月の延長措置があり、「事業年度末から8ヶ月以内」に変更されます。
2021年には新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、決算日が2020年10月1日〜2021年1月31日の企業において、3ヶ月の延長措置が適用されました。このように緊急事態により申告期限が延長されることがあるため、国税庁が発信する情報を常にキャッチしておきましょう。
【個人】マレーシアの税金について
ここからはマレーシアにおける個人の税金について解説します。マレーシア進出・移住に伴い、個人の納税に関する知識も身につけておきましょう。
個人所得税の課税対象
マレーシアにおける個人の課税対象の基本は「マレーシアの居住者であるか否か」です。具体的な「マレーシアに182日以上滞在歴のある人」が、個人所得税の課税対象となります。ただし、この他にも以下のいずれかの条件を満たすとマレーシア居住者として課税対象になるので注意してください。
・当暦年の滞在日数は182日未満であるものの、前暦年または翌暦年に連続して182日以上滞在した(する)場合
・当暦年の滞在日数が90日以上であり、かつ直近の4暦年のうち3暦年を通じて居住者である場合、または90日以上マレーシアに滞在している場合
・当暦年の翌暦年、および直前の3暦年において連続して居住者であった場合
これらの条件に該当する人はマレーシア居住者になり、個人所得税の課税対象になります。
消費税について
法人税にて解説したように、マレーシアの消費税にあたるGST(物品サービス税)は2018年5月のマハティール政権発足に伴い廃止されています。その代わりに導入されたのがSST(売上税+サービス税)という税制です。
SSTは「商品とサービス」を2つに分け、それぞれに課税するのが特徴のシステムです。法人税の内容と重複しますが、改めてSSTの課税対象をご紹介します。
<6%のサービス税課税対象>
宿泊、飲食、保険、通信、広告、駐車場、賭博、専門サービス、士業への相談、ゲームサービス、プライベートクラブ、ゴルフ、ヘルス・ウェルネス、ナイトクラブ、ダンスホールなど
一方で、生活必需品は課税対象にならないのがSSTのもう1つの特徴です。
住民税について
日本では前年の課税所得に対して税率10%(都道府県民税+市区町村税)をかけた「所得割」に、所得に関係なく一律5,000円を支払う「均等割」を合算した金額が住民税として徴収されます。ちなみに都道府県民税と市区町村税の割合は居住地によって異なります。
こうした住民税はマレーシアには存在しません。したがってMM2H(長期滞在ビザ)や永住権を取得し、マレーシアに住所を移すことで日本での住民税課税対象から外れ、節税対策になります。
個人所得税について
住民税はありませんが、マレーシアにも所得税があります。ただし、所得税の最高税率は30%と日本よりも15%も低いのが特徴です。また、「超過累進税率」を採用している点は日本と同じになります。以下は所得金額に応じた税率と計算方法です。
課税所得(RM) | 税率(%) | 対象となる課税所得の範囲(RM) | 税額(RM) |
---|---|---|---|
RM0〜RM5,000 | 0% | RM0 | |
RM5,000〜RM20,000 | 1% | RM5,001~RM20,000まで | RM150 |
RM20,000までの合計 | RM150 | ||
RM20,001〜RM35,000 | 3% | RM20,001~RM35,000まで | RM450 |
RM35,000までの合計 | RM600 | ||
RM35,001〜RM50,000 | 89 | RM35,001~RM50,000まで | RM900 |
RM50,000までの合計 | RM1,500 | ||
RM50,001〜RM70,000 | 13% | RM50,001~RM70,000まで | RM2,200 |
RM70,000までの合計 | RM3,700 | ||
RM70,001〜RM100,000 | 21% | RM70,001~RM100,000まで | RM5,700 |
RM100,000までの合計 | RM9,400 | ||
RM100,001〜RM250,000 | 24% | RM100,001~RM250,000まで | RM37,500 |
RM250,000までの合計 | RM46,900 | ||
RM250,001〜RM400,000 | 24.5% | RM250,001~RM400,000まで | RM37,500 |
RM400,000までの合計 | RM84,450 | ||
RM400,001〜RM600,000 | 25% | RM400,001~RM600,000まで | RM52,000 |
RM600,000までの合計 | RM136,400 | ||
RM600,00〜RM1,000,000 | 26% | RM600,001~RM1,000,000まで | RM112,000 |
RM1,000,000までの合計 | RM248,400 | ||
RM1,000,001〜RM2,000,000 | 28% | RM1,000,001~RM2,000,000まで | RM280,000 |
RM2,000,000までの合計 | RM528,400 | ||
RM2,000,000〜 | 30% | 2,000,000を超過した分 | … |
ちなみに、MM2Hを取得して182日以上マレーシアに滞在した場合、「日本とマレーシアのどちらに所得税を支払うのか?」という問題ですが、以下のような客観的事実に基づき総合的に判断されます。
- 居住国
- 自宅住所
- ビザの種類
- 家族とその住所
- 職業
- 収入源
日本では「○○日以上の滞在で居住者とする」など、マレーシアのようなルールが存在しません。逆に「○○日未満の滞在で非居住者とする」というルールも設けられていないため、日本とマレーシアの両方から居住者と認識される可能性もあります。
この場合は上記の客観的事実と、日本とマレーシアが締結した租税条約によって判断されます。
相続税・贈与税について
日本では相続税・贈与税において「超過累進税率」を採用しており、その税率は10〜55%です。一方のマレーシアはというと、相続税・贈与税がありません。したがって、日本にある資産を海外に移転することで、相続税・贈与税の節税対策になります。
ただし、日本の国税庁も海外への資産移転にはルールを設けており、「相続人・受贈者と被相続人・贈与者、双方の生活基盤が10年以上海外になければいけない」と決められています。マレーシアに相続税・贈与税がないことを知ったからといって、それだけで節税対策にはならないので長期計画が欠かせません。
【個人】マレーシアの不動産や金融商品に関わる税金について
続いて、マレーシアにて取得した不動産や株式などの金融商品に関する税金を解説していきます。マレーシアで資産形成を検討している方は、予備知識をしっかりと身につけておきましょう。
マレーシアの固定資産税
マレーシアでは相続税・贈与税が存在しないものの、不動産に対する固定資産税は課せられます。その税額は「100平米程度のコンドミニアムでおよそRM1,000(約35,000円)」です。
ちなみにコンドミニアムとは、海外における分譲マンションのことです。オーナーが利用しない間は旅行者や渡航者に賃貸されることが多く、マレーシアに移住した日本人がコンドミニアムに居住することもあります。
日本の固定資産税は固定資産評価額に標準税率1.4%をかけたものなので、マレーシアの固定資産税の方が基本的には安くなっています。
不動産所得税(非居住者の場合)
不動産所得税に関しては、マレーシア非居住者の場合「一律30%」が課せられます。
個人の所得税においても、マレーシア非居住者には一律30%の税率が課せられます。ただし、非居住者の雇用所得に関しては、マレーシアでの就労が60日以内の場合は非課税です。
マレーシア不動産のキャピタルゲイン税について
不動産に関する税制において注意すべきは「キャピタルゲイン税」です。キャピタルゲインとは債権、株式、不動産などの資産価値が上昇した際に生まれる収益のことで、マレーシアでは不動産にかかるキャピタルゲイン税は、(不動産譲渡益税)」と呼ばれています。
不動産を売却して収益が発生すると不動産譲渡益税を支払う必要があります。この不動産譲渡益税は不動産の所有者と、保有期間によって次のように変わります。
保有期間 | マレーシア居住者、永住権保有者 | 外国人 |
---|---|---|
3年以下 | 30% | 30% |
4年以下 | 20% | 30% |
5年以下 | 15% | 30% |
5年超過 | 0% | 10% |
一方で、不動産売却時に損失が生じた場合は、不動産譲渡益税を支払う必要はありません。あくまで不動産売却によって収益が発生した場合のみの課税です。
不動産以外のキャピタルゲイン税について(株、FX、仮想通貨など)
日本では債権や株式、あるいはFXなどを通じて得た収益に20.315%のキャピタルゲイン税が課せられます。これを受け、マレーシアではキャピタルゲインを狙う人も多いですが注意点があります。
マレーシアにおいて、以前までは不動産売却収益以外のキャピタルゲインは非課税でした。
ところが、2024年3月からの変更点として、マレーシアで設立した非上場企業株式の売却による純利益も10%の課税対象になりました。それ以外の形式の企業株式の売却に関しては今のところ非課税のままですが、今後も新たな変更が加えられる可能性もあります。
また、依然としてFXや暗号資産から得られる利益に対しては非課税なため、これらを狙った節税対策としてマレーシアはおすすめです。注意点としては、非課税の恩恵を受けるためには生活基盤をマレーシアに移す必要があります。
【個人】マレーシアでの税金還付と確定申告の手続き
最後にマレーシアの税金還付を受ける方法や、確定申告の手続きなどについて解説します。
マレーシアにおける税金還付の手続き
マレーシアにおける所得税は、毎月雇用主が徴収して国税局に支払いを行っています。日本と同様に、税金の過不足分については確定申告を通じて判明し、払いすぎた税金があれば還付されます。
上記は、日本における年末調整に該当するもので、日本では雇用主が実施しますが、マレーシアでは被雇用主が毎年行う作業です。手順としては「EA Form」と呼ばれる年収・納付税金が記載された書類が雇用主から発行されるため、これをもって税務署で直接申告をするか、オンラインにて申告を行います。
マレーシアにおける確定申告の期限
申告期限は、1暦年(1月1日〜12月31日)で得た所得と納付税金を、翌年の4月30日までに申請します。
日本では「所属する納税地を管轄する税務署」と定められていますが、マレーシアではどの税務署でも申告できます。居住地や職場の最寄り税務署を事前に調べておきましょう。永住権を持たない場合はEA Formに加えてパスポートも必要です。
e-Filingと呼ばれるオンライン確定申告システムを利用すると、申告期限は5月15日まで延長されるので、税務署での直接申告に間に合わなかった場合はe-Filingから申告しましょう。なお、最初からe-Filingで申告することも可能です。
まとめ
今回は法人・個人という2つの視点からマレーシアの税金について解説しました。日本とは違った税制度も多いですが、決して複雑ではないのでマレーシア進出・移住を検討されている法人・個人は、本記事で紹介した税金の知識を身につけておきましょう。
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