個人による海外不動産投資では、2022年に実施する確定申告から減価償却の仕組みを利用した節税ができなくなっています。

しかし、法人による節税対策としては、海外不動産投資は2021年時点でまだ有効です。法人の海外不動産投資による節税の仕組みやおすすめの投資先などについて解説します。

個人は海外不動産投資で節税ができない

税制改正による節税封じ込め

不動産投資をすると、購入した物件に関する減価償却費を計上することで、実際にはお金を支出していないのに所得を圧縮することが可能です。

「実際の支出を伴わない経費計上」と聞くと、脱法スキームなのではと思う人もいるかもしれません。しかし、減価償却費の計上は税法に定められた合法的な方法であり、脱法スキームではありません。

減価償却費とは「資産の経年劣化による価値の損失を経費として計上できる」という性質のものです。資産が経年劣化することで実際の支出は発生しないため「実際の支出を伴わない経費計上」ということになります。

不動産を購入した場合は、経年劣化が発生する建物に関してのみ減価償却費を計上可能です。土地は劣化しないという考え方から、土地の部分については計上できません。

2022年~のルール変更

従来、不動産に関する減価償却費の計上は、日本国内と海外とを問わず認められていました。しかし、2019年末に発表された税制改正大綱により、2022年に実施する確定申告からは、個人による海外不動産の減価償却費は計上できなくなります。

税制の改正については「海外不動産投資による節税封じ込め」ということで大きく報道されました。しかし、節税が封じ込められたのは個人についてのみであり、2021年時点では法人が所有者である海外不動産の減価償却費は計上可能です。

海外不動産投資による節税のスキームとは

減価償却費の計上による納税の繰延

法人の場合は、不動産に関する減価償却費を計上することで税務上の利益を圧縮できます。不動産投資による損失は本業の収支と損益通算できるためです。不動産投資の減価償却費計上による節税効果とは、具体的には以下のように計算します。

購入物件物件価格1億円・建物価格8,000万円
構造および築年数木造・築22年
減価償却費を計上できる期間4年
1年間の減価償却費2,000万円

上記の例では、物件を購入した年の決算期から4年間に渡って毎年2,000万円を本業の収益と損益通算できます。かみ砕いて説明すると、本業の収益を税務上2,000万円減らせるということです。

法人税率を30%と仮定すると、1年間で2,000万円×30%=600万円の法人税を減らせます。

法人の場合は完全な”節税”ではない

ただし、法人で減価償却費を計上した場合は、完全な節税というわけではなく、あくまでも税金の繰延になる点に要注意です。例えば4年間減価償却費を計上し続けて物件を売却すると、法人税の課税対象額は以下の計算式で計算されます。

物件売却額 - (物件購入額 - 計上済みの減価償却費) - 売却時に発生した諸経費

物件購入額から計上済みの減価償却費を差し引くため、よほど低い金額で物件を売却しない限りは売却益が発生します。個人の場合は物件の保有期間によって譲渡所得税率が下がるものの、法人の場合は一律に法人税率が適用されるため、物件を何年保有しても税率は下がりません。

このため、減価償却費を計上した年は法人税を圧縮できても、物件を売却するタイミングで同額の税金が課税されます。これでは意味がないと思う人もいるかもしれません。

法人で海外不動産投資の節税をする考え方

法人税を最長で10年間繰延する方法

売却した物件と同額以上の物件に買い替える場合は、物件売却益に関する法人税を最長で10年間繰延できます(2021年時点の税制に準拠)。言いかえれば、減価償却費の計上によって法人税を抑制しつつ、納税するタイミングを戦略的にコントロールできるということです。

年度ごとの事業計画が明確で、利益が上がるタイミングや下がるタイミングを把握できている場合は、法人の海外不動産投資による節税は非常に有効と言えます。

法人による海外不動産の節税がおすすめできないケース

その一方で、将来的な計画を特に立てていない個人の資産管理会社等では、節税目的の海外不動産投資をするのはあまりおすすめできません。節税目的で会社を設立しようとする場合などは特に、リスクや手間とリターンとのバランスが見合わないことも考えられます。

ローンを利用して海外不動産投資の規模を拡大していきたいと考えるのであれば、法人を設立してからの海外不動産投資も1つの選択肢です。

投資運用の実績が積みあがることで金融機関からの信用が増すため、事業資金としてのローンを引き出しやすくなります。この場合に重要なポイントは、長期継続的な計画を立てておくことです。無計画な資産運用を進めようとすると、金融機関からの信用を得るのが難しくなってしまいます。

法人の海外不動産による節税でおすすめの国

節税にはアメリカ不動産投資が最も有効

法人の税務対策として海外不動産投資を進めるのであれば、アメリカ不動産が最もおすすめの投資先です。減価償却の仕組みを考慮すると、節税対策として最適な物件は築22年を経過した木造住宅ということになります。

しかし、日本国内で築22年の木造住宅は人気がありません。運用時に入居者を入れるのが難しくなるほか、物件の買手も少ないと考えられるため、投下資金の回収及び次の投資に進めなくなってしまう可能性があります。

築古木造住宅は日本では人気がありませんが、アメリカでは状況が異なります。アメリカでは築古の住宅であっても何度もリフォーム・リノベーションを繰り返して住み続ける文化があるほか、日本人よりも引っ越しを繰り返す国民性も強いものです。

また、アメリカ不動産市場の大半を占めているのは中古住宅です。日本よりも建築確認の取得までに時間がかかる背景も相まって、アメリカでは日本ほど新築住宅が供給される文化がありません。

東南アジアはおすすめできない

そのほか、他の海外に目を向けても、例えば東南アジアの新興国で投資対象となるのは主に新築のRC造コンドミニアムです。新築のRC造住宅は1年あたりの減価償却費が最も少なくなるため、節税対策の投資対象としては適していません。

節税に適した物件が大量に流通しているほか、減価償却費を計上できなくなった時点での物件売却も現実的に進められるため、アメリカ不動産投資は法人による税務対策として最適と言えます。

まとめ

2019年末に発表された税制改正大綱により、個人の海外不動産投資による節税効果は大幅に圧縮されました。しかし、改正の対象となったのは個人のみであり、法人の海外不動産投資による節税対策は依然として有効です。

なお、海外不動産投資による減価償却費計上を利用した節税スキームは税法に則った合法的なものであり、

脱法スキームなどではありません。
法人による節税対策として最も有効なのは、海外不動産投資の中でもアメリカ不動産投資です。築古の木造住宅が市場に多数流通しているため、物件を選びやすいほか売却に関するリスクも抑制できます。

無料個別相談に申し込む