マレーシアは日本人投資家の海外不動産投資先として、投資しやすい国の1つです。しかし、住宅の供給過多やコロナの影響などによって不透明感が広がっています。この記事では、マレーシア政府が発表している統計から、マレーシア住宅市場の現状とともに、今後のマレーシア不動産市場で考えられる投資法を解説します。
タイプ別・価格別・エリア別の取引量について
マレーシア政府は、半期に1度不動産取引に関するデータを公表しています。公表されているデータから、最も取引量が多いのはどのような住宅なのか、タイプ別・価格帯別に分析します。
物件タイプ別の取引量について
マレーシア全体における、2020年上半期の物件タイプ別取引量は以下の通りです。
※引用:マレーシア政府統計 https://napic.jpph.gov.my/portal/key-statistics
2020年上半期のタイプ別取引量は、Terraceと呼ばれる戸建住宅が最も大きい割合を占めました。Terraceの取引量は全体の41%に上っています。High-Riseは高層コンドミニアムのことで、Vacant Plotは土地のことです。また、Low Costは低所得者向け住宅、Semi-Detachは長屋状の戸建住宅、Detachは建売戸建を指しています。TerraceとDetachの違いは、住戸の大きさです。Terraceは22フィート × 75フィート(約153.3㎡)と広さが決まっており、手頃な価格で購入できる戸建住宅として扱われています。こちらの統計に記載されている住宅の大半が戸建住宅であり、マレーシア全体では、住宅の流通量としてコンドミニアムよりも戸建住宅のほうが多いことがわかります。
価格別の取引量について
つづいて、2020年上半期における価格帯別の住宅取引量は以下グラフの通りです。
※引用:マレーシア政府統計 https://napic.jpph.gov.my/portal/key-statistics
価格帯別の住宅取引量で最多の割合を占めているのは、RM300,000(810万円:RM1=27円で換算)以下の物件です。RM300,000以下の物件は全体の約62%を占めています。マレーシア全体の不動産マーケットを見ると、低価格帯の物件が多数流通している様子が伺えます。
エリア別の住宅取引数について
2020年上半期における州別の住宅取引量は以下グラフの通りです。
※引用:マレーシア政府統計 https://napic.jpph.gov.my/portal/key-statistics
Selangorはマレーシアの首都クアラルンプールを含む州です。また、Johorはシンガポールとの国境沿いに位置する州であり、イスカンダル計画の対象地となっていました。3番手のPerakはSelangorの北に位置しています。Selangorは、マレーシア全体の取引量のうち約23%を占めています。また、都市別では首都のW.P. Kuala Lumpurが4,100戸の取引量で最多です。W.P. Kuala Lumpurの取引量は、Selangorのうち約4分の1を占めています。マレーシアで最も住宅取引が活発なのは、首都圏である様子が伺えます。
マレーシアの住宅需給バランス改善状況について
2020年上半期のマレーシアにおける住宅販売数をご紹介しましたが、ここからは住宅の需給バランスについて解説します。
住宅タイプ別の需給バランス
2020年上半期にマレーシアで新たに供給された住宅数は137,283戸です。そのうち約77%はすでに売却されており、残りの23%は売れ残りとなっています。売れ残り物件をタイプ別に見ると、高層コンドミニアムが53.2%、テラスが29%です。コンドミニアムとテラスの合計で全体の約80%を占めています。
エリア別の需給バランス
州別に売れ残り物件数を見ると、最も多いのはJohorの6,166戸です。Selangorが4,865戸と続いており、Selangorの中でも首都クアラルンプールの物件が3,224戸と大半を占めています。Johorを除くと、首都に近いエリアほど売れ残り物件数が多い状況です。
マレーシアの住宅需給バランス改善は道半ば
マレーシアでは住宅の供給過多が社会問題化しており、政策的に住宅を低所得者向けとするなど、政府も対策に取り組んでいます。半期ごとの統計を見ると、2018年以降は各期とも30,000戸〜33,000戸の住宅が売れ残っている状態です。2020年上半期はコロナの影響が広がっており、マレーシアにも経済的な影響がありました。しかし、半期ごとの売れ残り住宅数に大きな変化はなく、従来と同じペースで推移しています。
なお、2020年上半期に建設途中で発売された物件を見ると、38.6%はまだ売れていない状況です。時間の経過とともに販売は進むと予測されますが、2020年下半期にはどのような結果になるか注意を要します。
マレーシア住宅市場の展望
マレーシア政府が発表している住宅価格指数の推移から、マレーシア住宅市場の展望と、今後考えられる投資法について解説します。
住宅価格指数の推移から見る今後の展望
マレーシア政府が発表している住宅価格指数の推移を見ると、2010年から2020年にかけて、マレーシアの住宅価格は約2倍まで上がってきました。住宅の供給過剰が社会問題化して、政府による対策が始まってからも、住宅価格は少しずつ上がっていたのがこれまでの推移です。しかし、2019年の第3四半期からは、住宅価格の上昇も踊り場に入っています。
前年同期比の値動きも年々小さくなっているほか、2020年第3四半期の住宅価格指数は、前年同期比でわずかながらマイナスです。そして、売れ残り物件が積み上がっている現状では、今後継続的に下がり始めることも考えられます。すでにマレーシア不動産を保有しているのであれば、価格が踊り場に入っている今を売り時とする考え方も妥当です。
今後考えられる投資法
今後のマレーシア不動産投資の可能性を探るとすれば、長期保有を前提として、とにかくクオリティの高い物件に投資するのが妥当です。外国人投資家はRM100万以下の物件を購入できない規制を考慮すると、マレーシア不動産投資は高級物件への投資が前提となります。高級物件に投資するのであれば、入居者が現地の富裕層か外国人駐在員などに限定されるのも事実です。
マレーシアには中国系の華僑も多く、中国人の入居者は住宅設備のメーカーなどをとても気にします。日系企業の設備を備えた物件などが好まれるため、マレーシア不動産投資で入居者を入れるためには、クオリティの高い物件に投資することが必要です。
直近では長期的な家賃収入を狙いつつ、不動産価格の再上昇を待つのが選択肢の1つとなります。
まとめ
2020年上半期に、マレーシアでは小規模な戸建住宅が多く売れました。また、価格帯別の販売戸数を見ると、売れているのは主に低価格帯の物件です。エリア別の統計からは、首都圏に近いエリアと、ジョホール州とで多くの物件が売買されたことがわかります。
一方で、住宅の需給バランスを見ると、コロナによる経済失速の影響はそれほど見受けられないものの、売れ残り住宅が増えていることも事実です。そのほか、これまで上昇を続けてきた住宅価格の推移も踊り場に入っています。
今後マレーシアで有効な不動産投資の戦略を考えるとすれば、とにかくハイクオリティな物件への投資が重要です。入居者を入れるためには、最も多くの人が集まるクアラルンプールで、中華系の富裕層に好まれる物件への投資が必要になります。