海外移住により節税対策ができることをご存知ですか?もちろん実現するには条件がありますが、成功すれば大きな節税効果が期待できます。ただし注意点も多いため、本記事では海外移住による節税対策についてまとめたのでぜひ参考にしてください。

節税対策のための海外移住におすすめなのは、シンガポールとマレーシア

結論から言うと、海外移住による節税対策でおすすめの移住先は「シンガポール」と「マレーシア」です。いずれも税金が安く、移住により高い節税効果が見込めます。どれくらい安いのか、上記2ヵ国と韓国、中国、そして日本の法人税、所得税、相続税を比較してみましょう。

 法人税(実効税率)所得税(累進課税)相続税(累進課税)
シンガポール17%0~22%なし
マレーシア24%0~30%なし
韓国
27.5%6~45%10~60%
中国25%3~45%なし
日本29.74%5~45%10~55%

上記のように国によってかなりの違いがありますね。シンガポール、マレーシアなら法人税も所得税も他国に比べて低く、相続税はかかりません。まさに「タックスヘイブン(税金天国)」と呼べる国なのです。

シンガポールの税金が安い理由は経済を発展させるため

シンガポールは言わずと知れた多国籍国家であり、人口わずか570万人弱の中に外国人労働者は約150万人含まれています。日本の外国人労働者数は約172万人なので、ほぼ同等の数です。

一方で、日本とは異なる資源・食料の自給自足が難しい環境にあるため工業社会が発展しにくい特徴があります。したがって海外からの投資を引き寄せ、雇用を作り出すのが大きな課題のため他国に比べて法人税がとりわけ安いのです。

シンガポールは英語を第一言語として生活できるメリットがある反面、「物価が高い」というデメリットがあります。ただし、あくまで「東南アジア諸国と比較して」なので、日本で生活している方からするとさほど高いとは感じないようです。

マレーシアの税金が安い理由は資源が豊富なため

マレーシアはシンガポールと異なり、豊富な資源ゆえに税金を安くしている国です。世界の天然ガス輸出額ランキングでマレーシアは第6位であり、輸出に頼っている部分の割合が多いため、所得税を重く課す必要がないのです。

出典:世界の天然ガス輸出額 国別ランキング・推移|GLOBAL NOTE

法人税は中国とほぼ同等の24%ですが、相続税がかかりません。日本人の移住先として人気が高いのも頷けます(14年連続1位)。

マレーシアを移住先として選択するメリットは物価が安く、オフショア法人の設立先としても有望なことです。企業経営者はオフショア法人を設立し、所得税だけでなく法人税を節税できます。また、MM2Hと呼ばれる長期滞在ビザの発行も行っています。

シンガポールとマレーシアでは、FXや仮想通貨に対するキャピタルゲイン税も非課税

シンガポールとマレーシアでは、FXや仮想通貨などに対するキャピタルゲイン税が非課税なのも、タックスヘイブンと呼ばれる理由の1つです。ちなみにキャピタルゲインとは、資産の取得・売却によって得られる差益を意味します。

日本では20.135%(内訳:所得税、復興特別所得税、住民税)のキャピタルゲイン税が課せられるため、シンガポールとマレーシアがいかに税金がかからないかがわかります。

ただし移住時点で1億円以上の有価証券を持っている場合は、含み益に税金が課せられるため注意してください。納税猶予などの条件もあるため、詳しくは税理士に相談しましょう。

日本では1億円の相続に約300万円課税される

では、シンガポールとマレーシアの税金がどれくらい安いのかを知るために、実際の課税額を日本と比較してみましょう。

<1億円の相続税課税額>

シンガポール:0円

マレーシア :0円

日本    :315万円

※配偶者、子供2人に法定相続分の割合に応じて相続した場合

<年収2,000万円の方の所得税・住民税・手取り額>

 所得税額住民税額手取り額
シンガポール2,232,200円0円17,767,800円
マレーシア2,126,000円0円17,874,000円
日本4,351,600円1,764,500円13,883,900円

1 1S$=90円として計算、基礎控除・配偶者控除を適用

2 1RM=29円として計算、基礎控除・配偶者控除を適用

こうして比較してみると、シンガポールとマレーシアの税金がいかに安いかがわかりますね。ちなみに日本の消費税にあたるシンガポールのGSTは7%、マレーシアのSSTは5%または10%+6%です。

海外移住で税金を逃れたい人が知っておくべき、節税の注意点

続いて、海外移住による節税を検討している方が注意すべきポイントについて解説します。

日本にある財産は課税対象となる

シンガポールやマレーシアへの移住に際し、その国に持ち込まれた財産は相続税などが非課税です。しかし、日本にある財産は日本の相続税の課税対象となるので注意してください。

たとえば日本にある不動産は海外へ移すことができないため、所有し続けていると課税対象となります。海外移住をしても財産価格の高い不動産が日本にあると10~55%の相続税がかかってしまいます。

どうしても所有しておきたい不動産ではないのならば、早めの売却をお勧めします。

国外にある財産は、相続人と被相続人が両者ともに10年以上海外に居住していなければ、日本で課税対象となる

シンガポールやマレーシアに移住をすれば、すぐに日本の課税対象から外れるかといえばそうではありません。日本では「10年ルール」が制定されており、生活の拠点を海外に移してから10年以上経過しなければ今まで通り日本の税金の課税対象になります。

以前はこうした制度はなかったものの、「5年ルール」が制定されその後10年に延長されました。税制改正によっては今後さらに伸びる可能性もあるため、こうした情報には細心の注意を払っておきましょう。

金持ちが海外に資産移動させても、日本の税務局が把握していることも

「海外に資産を移動させれば日本の税務局の手を逃れられる」と甘く考えてはいけません。移動した資産に関しても日本の税務局が把握していることがあり、申告漏れがあれば指摘され、追徴課税される可能性もあります。

海外の移動資産といえば「パナマ文書」がまだ記憶に新しい事件です。パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から膨大な量の内部文書が流出し、タックスヘイブンを使って脱税を行っていた各国の首脳や政府関係者、大手企業社長などが明らかになりました。

国外に5,000万円を超える財産を所有している日本の居住者は、その内容を記した「国外財産調書」を提出する必要があります。未提出、虚偽の申告をした場合は「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に処されることがあるため、法に則り正しい手順と正当な理由で資金を移動させましょう。

また、日本・マレーシア・シンガポールはCRS(共通報告基準)加盟国です。CRSとは、海外銀行口座を利用した国際的な租税回避を防止するために、金融口座情報を自動交換する制度です。このCSRに則り、新たに金融機関に口座開設を行う場合は、金融機関等へ居住地国名などを記載した届出書を提出する必要があるため、国外財産調書と合わせて注意してください。

年間の過半数を海外で過ごせば非居住者となるわけではない。また、非居住者でも住民税を払わないといけないケースも

「年間の過半数を海外で過ごせばいい」と聞いたことがある方も多いでしょうが、これは間違った情報です。1年を通じて183日以上海外に居住しても、必ずしも非居住者と判定されるわけではありません。また、海外において非居住者である間も所得税を徴収される可能性があります。居住者か非居住者かは「生活の拠点をどこに置くか」で決まり、これは客観的な事実も含めて判断されるため、必ずしも「こうすれば日本の非居住者とみなされる」という絶対条件はないのです。

日本の居住者はどの国で生活をしても日本で課税され、非居住者でも日本で収入を得れば一定金額に対して課税を受けます。また、非居住者でも1月1日時点で日本に居住していれば、前年分の住民税が課税されるため注意してください。

生活コストが高くなることがある

シンガポールやマレーシアなど、タックスヘイブンと呼ばれる国々では税金対策は行えても生活費水準が上がってしまう可能性があります。

日本のようにインフラが整備されている国においては、生活コストが高くなる傾向があるため注意しましょう。節税対策を行っても生活コストが上がってしまえば本末転倒なので、支出のバランスを考え、事前調査を徹底してください。

年金受給の権利を得ていれば、海外から請求可能。年金への課税が免除になることも

年金受給を得ている方は海外からの請求が可能です。また、年金への課税が免除されるケースもあるため覚えておいてください。

日本は149の国・地域と租税条約を結んでおり、シンガポールとマレーシアもこれに含まれます。この租税条約によって年金の源泉地国での課税が免除されるかもしれないのです。

退職後に海外移住する方は、日本で年金を受け取る場合、租税条約の届出を行うと課税が免除されます。また、シンガポールとマレーシアは国外源泉所得に課税しないため、日本で受け取る年金が非課税となるのです。

国外転出の際の確定申告などは、税理士に相談を

海外へ移住した後も、日本国内で不動産収入や事業収入がある方は「納税管理人」を指定する必要があります。主に親族が納税管理人となり、海外移住をした人に代わって税金などを申告する手続きを行わなくてはいけません。

納税管理人を指定する場合、居住地を管轄している税務署へ届出を行いましょう。納税管理人が不要な場合は、出国する日までに当該年度の確定申告書を提出してください。ただし、通常の確定申告と異なる場合があるため、詳しくは税理士に相談しましょう。

節税対策のための海外移住が向いている人は、国内に資産を持たず、拠点を置かなくても良い人

ここまで節税対策移住先としてのシンガポールとマレーシアについて、さらに海外移住の注意点を解説しました。

その中で「自分は果たして海外移住に向いているのか?」と疑問を持った方も多いでしょう。では、節税対策のための海外移住が向いている人の特徴を整理します。

<海外移住が向いている人>

  • 日本国内に資産を持っていない、あるいは今後持つ必要がない
  • 日本国内に生活拠点を置かなくとも構わない

上記の2点を満たしている方は、海外移住が向いています。一方で日本国内の資産を手放せない、生活拠点を海外に置くのは厳しいという方は海外移住についてじっくり検討することをお勧めします。

世界の富裕層の移住先ランキング1位は5年連続でオーストラリア

最後に、世界の富裕層の人々が移住先に選んでいる国をご紹介します。出典はイギリス加盟国の1つ、モーリシャス共和国に拠点を置くAfrAsia Bank(アフラシア銀行)の調査データです。

2019年における富裕層の移住数増加率
オーストラリア12,000人3%
アメリカ10,800人0%
スイス4,000人1%
カナダ
2,200人1%
シンガポール1,500人1%
イスラエル1,400人2%
ニュージーランド1,400人1%
アラブ首長国連邦1,300人2%
ポルトガル1,200人3%
ギリシャ1,100人3%

出典:Global Wealth Migration Review 2020 | AfrAsia Bank

同機関では「100万米ドル以上の投資可能資産を所有する者」を富裕層と定義し、2019年の1年間における富裕層の移住人数を参考にランキング化しています。100万ドルの資産は日本円にして1億2,000万円(1ドル=120円として)です。

オーストラリアの第1位は5年連続であり、世界の富裕層から移住先として高い人気を集めています。

治安の良い国や教育制度が整っている国、税率の低い国がランクイン

世界の富裕層がオーストラリアを選ぶ理由は「治安の良さ」や「教育制度」にあります。

WHO(世界保健機構)が発表している世界の「人口10万人あたりの殺人発生率」によれば、オーストラリアは0.87件と低い数値をマークしています。ちなみにアメリカは6.28件なので、移住先としての人気はあるものの治安が良くないことで敬遠されるケースもあります。

出典:世界の殺人発生率 国別ランキング・推移 | GLOBAL NOTE

「教育制度」に関しては、世界大学ランキングトップ100に名を連ねる学校が6校あり、国別ランクイン数では第5位と好成績です。教育熱心な富裕層からの人気も高く、オーストラリアは魅力的な移住先なのです。

その他の国々に関しても治安の良さ、教育制度、税率の低さなどいずれかの要素を兼ね備えており、富裕層から人気を集めています。

まとめ

いかがでしょうか?本記事では海外移住先としてのシンガポールやマレーシア、海外移住の注意点などをご紹介しました。この機会にぜひ、ご自身の海外移住先と節税対策について検討してみてください。