2005年には86.5万世帯だった富裕層の数は、2019年には133.3万世帯に増えています(野村総研調査)。これにより、国税庁の富裕層に対する規制が年々厳しくなっています。

そんな中、富裕層にはどのような節税スキームが残されているのでしょうか?本記事では、最新の規制や注意点も含めて、富裕層のための節税スキームについてご紹介します。

富裕層の節税スキームは年々規制が強化されている

年々規制が強化されている富裕層の節税スキームは、具体的にどのように規制されているのか、最新の傾向についてご紹介します。

富裕層への税金を上げる動きが強まっている

ここ数年における、節税スキームの規制例は「所得の基礎控除の改正」です。従来は所得の大きさに関わらず一律38万円が基礎控除として差し引かれていました。

これが令和2年以降、段階的に控除額が減っていく仕組みとなり、年間の合計所得金額が2,500万円を超える場合、基礎控除は0円となり給与所得から差し引けなくなっています。

一方で、年間の合計所得金額が2,400万円以下の場合は基礎控除額が48万円に引き上げられています。資産を多く持つ人からは、より多くの税金を徴収するという動きが活発になってきている証拠です。

海外でも節税対策への締め付けは強化される傾向にある

富裕層の節税スキームに対する規制強化は、国内に限った話ではありません。

海外においても規制強化は続いており、たとえばOECD(経済協力開発機構)によって実施されているCRS(共通報告基準)が挙げられます。

CRSは平成29年1月1日以降に開設した銀行口座に対して、口座開設時に「特定取引を行う者の届出書」の提出を求めています。

これは、海外の金融機関の口座を通じた国際的な脱税、および租税回避に対処することを目的としています。CRSにより、各国の税務当局間で非居住者の金融資産情報を相互交換するための仕組みが作られました。

パナマ文書の発覚がきっかけとなり、タックスヘイブン(租税回避地)を利用した脱税・租税回避が明るみになったことで、CRSが制定される運びとなっています。

富裕層の税金逃れのためのアメリカ不動産投資は厳しくなった

税金逃れのため、アメリカ不動産投資を利用していた富裕層の方も多いでしょう。日本の税制において、築22年以上の木造物件は4年間の減価償却が認められていたからです。

アメリカ不動産は土地と建物の評価比率が日本とは異なり、建物比率が高いため、減価償却を計上して所得を圧縮することで一定の節税効果を発揮していました。

耐用年数を超えた木造住宅を取得した場合、4年間で減価償却を行えるため、短期間で大きな節税効果が得られる人気の節税スキームだったのです。

しかし、2020年度の税制改正により、2022年以降はアメリカ不動産の減価償却費としての計上が認められなくなっています。過去に所得した不動産も対象となるため、多くの富裕層がアメリカ不動産投資による節税効果を失いました。

富裕層の節税スキームには、海外移住やオフショア法人の設立が挙げられる

続いて、富裕層の方から人気の最新節税スキームについてご紹介します。

富裕層の移住先ランキングは5年連続でオーストラリアが1位

まず、富裕層の移住先ランキングは5年連続でオーストラリアが1位を獲得しており、5位までのランキングは次のようになっています。

No.2019年における富裕層の移住数増加率
1オーストラリア12,000人3%
2アメリカ10,800人0%
3スイス4,000人1%
4カナダ2,200人1%
5シンガポール1,500人1%

出典:Global Wealth Migration Review 2020 | AfrAsia Bank

上記のランキングでは「100万米ドル以上の投資可能資産を所有する者」を富裕層と定義しています。

オーストラリアが1位を獲得している理由は、治安の良さや教育制度が整っている点です。また、生活水準が比較的高いことから、富裕層にとって住みやすい国となっているのも理由の1つとなっています。

アジアでは、税金の安いマレーシアやシンガポールがおすすめ

日本人富裕層にとっておすすめの移住先は、マレーシアやシンガポールです。同じアジアということもあり、7時間前後のフライトで日本・移住先間を行き来できます。

さらに、マレーシアやシンガポールにはFXや仮想通貨に対するキャピタルゲイン税も、相続税もありません。マレーシアやシンガポールの居住者として認められれば、投資によって増やした資産にも、遺族に相続する資産にも税金がかからないのです。

日本では20.315%のキャピタルゲイン税と、累進課税で最大55%の相続税が課せられます。これを考慮すると、マレーシアやシンガポールへの移住は非常に大きな節税効果を生み出せます。

オフショア法人の設立にはBVIやケイマン諸島などが選ばれている

タックスヘイブンにおいてオフショア法人を設立し、節税するというスキームも人気です。近年は、BVI(イギリス領ヴァージン諸島)や同じくイギリス領のケイマン諸島がオフショア法人設立先として注目されています。

しかし、先に述べたようにパナマ文書の発覚により、タックスヘイブンに対する風当たりは以前よりも強くなっています。CRSによって日本の国税庁に資産を把握されてしまうため、日本居住者である限り、オフショア法人設立だけでは効果を発揮しません。

しっかりとした節税効果を得るには海外移住を行い、日本の法律において現地の居住者として認められる必要があります。

節税スキームを利用したい富裕層が知っておくべき注意点

最後に、これから節税スキームを利用したいと考えている富裕層の方が、知っておくべき注意点についてご紹介します。

日本で保有している財産は課税対象となる

人気かつ確実な節税スキームである「移住」ですが、海外に移住し、現地の居住者として認められていても日本国内に財産がある場合、その財産は課税対象となります。

つまり、海外移住による節税スキームでは「日本国内にある財産が少ないこと」が条件です。不動産など遺族に残しておきたい財産がない限りは、日本国内の財産をできる限り海外に移すことをおすすめします。

国外にある財産の相続は、相続人と被相続人の双方の生活基盤が10年以上海外になければ、課税対象となる

先ほど「しっかりとした節税効果を得るには海外移住を行い、日本の法律において現地の居住者として認められる必要がある」と説明しました。

では、具体的にどうすれば現地の居住者として認められるかというと、財産相続においては相続人と被相続人の双方の生活基盤が、10年以上海外になければいけません。

昔はこの制限がなく、次第に5年の制限が設けられ、現在では改正によって10年となっています。

マレーシアやシンガポールなど、相続税が非課税の国に移住した節税スキームを使うのであれば、10年間という長期スパンでの計画的実行が大切です。

年間の過半数を海外で過ごせば非居住者になるわけではなく、また、非居住者でも税金を払わないといけないケースも

日本の所得税法における居住者と非居住者の違いは、次の通りです。

居住者国内に「住所」を有し、現在まで引き続き1年以上「居住」を有する個人
非居住者居住者以外の個人

「住所」とは個人の生活の本拠を意味し、生活の本拠かどうかは客観的事実によって判定されます。一方、「居住」とはその人の生活の本拠ではないが、その人が現実に居住してる場所を指します。

海外移住を行い、非居住者の条件を満たし、なおかつ生活基盤が10年以上海外になければ日本で課税されることになります。

また、非居住者であっても1月1日時点で日本に居住していれば、前年分の住民税を支払わなければいけません。

このように、富裕層の節税スキームにはいくつか注意点があるため、実際に取り組む場合は税理士や節税対策支援を提供している企業に、サポートを依頼することをおすすめします。

まとめ

いかがでしょうか?本記事では富裕層の節税スキームと、最新規制や注意点について解説しました。

年々強化される富裕層の節税スキームですが、節税効果の高いスキームはまだまだ残されています。各スキームの特徴とメリット・デメリットを知り、ご自身に合った節税スキームを選び、効率的に資産を増やしていきましょう。