節税対策や、資産プライバシーの保護などの観点からオフショア法人の設立が注目されています。この記事では「オフショア法人とは」という内容や、メリットデメリット、人気のオフショア先などを徹底解説していきます。オフショア法人が気になっている方はぜひ参考にしてください。
オフショア法人とは
オフショア法人とは、「会社登記がされている場所以外の国や地域において収益をあげる法人」を意味します。これと対比して「オンショア法人」という言葉もあり、日本国内(現地)で登記され、日本国内で事業を行う法人を指しています。
オフショア法人とオンショア法人の違いは、少々分かりづらいところがあるため違いをまとめてみました。
<日本企業がBVI(イギリス領バージン諸島)に法人を設立した場合>
オフショア法人 | オンショア法人 | |
---|---|---|
登記場所 | 現地 | 現地 |
収益源 | 日本 | 現地 |
税制適用 | 現地 | 現地 |
つまりオフショア法人とは、現地で登記している会社でありながら国外から収益を得て、なおかつ現地の税制が適用される法人のことです。
この「国外から収益を得ている」「現地の税制が適用される」というのがオフショア法人の大きなポイントです。次の、海外にオフショア法人を設立するメリットで詳しく見ていきましょう。
海外にオフショア法人を設立するメリット
海外にオフショア法人を設立するメリットは「節税」「海外口座開設」「プライバシー保護」の3つです。1つずつ解説します。
節税できる
日本の法人税と法人住民税を合わせた実効税率は、中小企業(所得800万円以上の場合)の標準税率で33.58%です。日本の税率は世界的に見ても非常に高く、収益の1/3は税金として徴収されてしまいます。
<実効税率の内訳>
法人税:23.4%
地方法人税:4.4%
法人住民税:16.3%
法人事業税:3.78%
一方、世界には「タックスヘイブン」と呼ばれる国があり、実効税率が日本の半分程度の国も存在します。
そうした、税制的に優遇されている国や地域にオフショア法人を設立し、収益がその会社へ流れるようにすれば現地の税制が適用されます。
オフショア法人を設立する企業のほとんどが、節税対策のために設立していると考えてもいいくらいです。
FXや仮想通貨の利益も非課税になる
タックスヘイブンの中には、資産の売却によって発生する差益(キャピタルゲイン)が課税されない国や地域もあります。たとえばケイマン諸島やマレーシア(不動産を除く)などが該当します。キャピタルゲインが課税されなければ、当然ながらFXや仮想通貨によって得た利益も課税されません。
海外の金融機関で法人の銀行口座を開設できる
オフショア法人設立は、海外の金融機関で銀行口座を開設できるのも大きなメリットです。海外銀行口座を所有していれば、クレジットカードやデビットカードを利用して、遠隔で現地取引が行えたり、海外口座から小切手を発行したり、預金も可能になります。
クレジットカードやデビットカードの決済は現地銀行口座から引き落とされるので、為替手数料がかかることはなく、レートを気にする必要もありません。
海外銀行口座に送金した収益は、再投資としても利用できます。前述のFXや仮想通貨などに投資すれば、キャピタルゲイン税がかからないので節税効果を高められます。
資産やプライバシーの保護に役立つ
日本で会社設立をする場合、取締役の氏名や住所などを記載する必要があります。一方、オフショア法人の開設先によっては取締役の氏名などを開示する必要のない国や地域もあり、プライバシー保護に役立ちます。
ノミニー制度を利用し、取締役や株主の氏名を公開する必要がなくなる
資産やプライバシーを保護するために、「ノミニー制度」を利用する企業もあります。
この制度は一部のオフショア地域で利用可能であり、本来の取締役に代わって第三者名義で会社を設立できるものです。海外ではよく、著名人が会社を設立する際に、プライバシーを保護するために利用しています。
ノミニー制度を利用すれば取締役のプライバシーが保護されるため、オフショア法人設立時はぜひ検討してみてください。ただし、ノミニー制度を利用したからといって固定資産税などの申告を怠ると脱税になってしまいます。
海外にある資産でも日本の税制が適用される場合があるため、オフショア法人による節税では十分注意してください。
海外にオフショア法人を設立するデメリット
次に、海外にオフショア法人を設立するデメリットをご紹介します。メリットと併せて確認し、正しい知識を持ってオフショア設立の可否を検討しましょう。
最大のデメリットは海外移住が必要なこと
オフショア法人を設立する最大のデメリットは、現地への海外移住が必要になることです。日本では、日本居住者であれば海外の所得も申告する必要があり、相続税などに関しても日本の税制対象となります。
対象から外れるための条件は「生活拠点を10年以上海外に置くこと」です。海外移住したからといってすぐに節税対策になるわけではないので注意してください。
オフショア法人設立においては、設立後に他国のリタイアメントビザを組み合わせることもできます。たとえばBVIでオフショア法人を設立し、フィリピンのリタイアメントビザを取得するという方法です。
この場合、移住先(ビザ取得先)の税制に従うことになるため、移住先で問題なく節税対策できるかを事前調査しておきましょう。
オフショア法人の設立や維持には費用がかかる
オフショア法人によって法人税やキャピタルゲイン税を非課税にできても、会社設立や維持に費用がかかることを忘れないでください。設立先の国や地域によって異なりますが、毎年20~30万円程度の維持費用がかかると考えておきましょう。
会社としてしっかり利益が出ていれば大きな負担にはなりませんが、少ない利益の中でオフショア法人を設立すると、節税効果よりも維持費用の方が大きくなってしまうケースもあるので注意が必要です。
単純に節税できるという理由だけでなく、オフショア法人のメリット・デメリットを総合的に比較してから設立可否を判断しましょう。
オフショア法人の設立にはBVIやケイマン諸島などが人気
オフショア法人の設立先として人気なのがBVIやケイマン諸島などのカリブ海地域、マレーシアなどのアジア地域です。ただし、タックスヘイブンと呼ばれる国は世界に多数存在し、多くの企業や富裕層が各国の特徴に合わせて設立先を選択しています。
BVIのメリットは、短期間でオフショア法人設立が可能で、法人の活動にも制限がないこと
BVI(イギリス領バージン諸島)は、カリブ海に浮かぶ火山群島の一部を成す地域です。観光地としても有名で、人口は3万人ほどです。
BVIにオフショア法人を設立するメリットは、法人税が非課税であることと、毎年の役員会議開催が不要であること、会計監査の要件がないことです。
ただし、2019年には経済的実体法(国際租税協力法)が施行され、ファンドや持株会社には高い水準の経済的実体を維持することが求められます。維持できない場合、罰金が課せられたり、最終的には会社登記が抹消されることもあるので注意してください。
ケイマン諸島のメリットは、いかなる種類の税金もなく、年次報告も不要であること
ケイマン諸島はBVIと同じく、カリブ海に浮かぶイギリス領の島々です。こちらも観光地として有名で、人口は6万人ほどとなります。
ケイマン諸島にオフショア法人を設立するメリットは、法人税だけでなく個人税も課せられないという点です。いかなる種類の税金もないため、最も有名なタックスヘイブンの1つでしょう。また、年次報告も不要なため色々な手間を省けるのも大きなメリットでしょう。
アメリカはFATCAという法律によって、アメリカ国民のケイマン諸島への投資を禁止しています。ケイマン諸島でのオフショア法人は日本企業にとって1つの特権と言っても良いかもしれません。
マレーシア(ラブアン)のメリットは、日本に近く、就労ビザの取得や移住で所得税の優遇も得られること
マレーシアの経済特区であるラブアンでは、アジア地域における最低法人税率が適用されるため、事業会社なら3%が課税されます。持株会社なら法人税は非課税です。法人税ゼロではありませんが、限りなく低い水準であるため節税効果が期待できます。
また、「物理的に近い距離にある」というのも大きなメリットです。オフショア法人や資産に何かあれば現地に渡航する必要性も出てくるため、マレーシアなら7時間ほどで到着できます。
さらに、マレーシアではラブアンでオフショア法人を設立した外国人に対して柔軟な政策をとっており、取締役や駐在員のために就労ビザを発行しています。クアラルンプールやジョホールバルに住むことも可能なので、柔軟性に富んだ設立先です。
セーシェルのメリットは、国外所得が非課税になる点や、税務申告の義務がないこと
セーシェルはインド洋に浮かぶ島々から成る、イギリス加盟国です。1994年にセーシャル国内でオフショア法人を設立できるIBC(国際ビジネス法人)制度が施行され、オフショア法人設立が可能となりました。
セーシェルは国外厳選の所得に対して完全非課税であり、かつ税務申告義務がないため高い節税効果が期待できます。また、外国人のみの役員でも会社登記できるため、オフショア法人を設立しやすいのが特徴です。
ただし、セーシェル国内での営業や不動産の所有、銀行業・信託業の営業等は禁止されているので注意してください。
ベリーズのメリットは、政府に納める納付金以外は非課税で、決算や会社監査も必要ないこと
ベリーズは中央アメリカの東岸に位置する国であり、海洋生物の宝庫として知られています。ベリーズで設立したオフショア法人は完全非課税であり、政府への納付金のみで済みます。
また、決算や会計監査も必要ないため色々な手間を省けます。株主1人、取締役1人がいれば設立可能なので、有望な設立先です。ノミニー制度も利用できるためプライバシーが保護されます。
ただし、ベリーズでは地元住民との貿易関係の発生、不動産投資、銀行業・保険業などの業務制限があるため注意してください。
オフショア法人の設立以外にも、フリーゾーン法人や低税率国、アメリカでの法人設立も節税になる
海外での法人設立による節税対策方法は、オフショア法人によるものだけではありません。フリーゾーン法人やアメリカでの法人設立などもあるので、ここでご紹介します。
課税がないドバイでフリーゾーン法人を設立する
フリーゾーン法人とは、外資100%での会社設立が可能であり、法人税や所得税が設立後最低50年間の免除が保障されている地域での法人を意味します。その多くがドバイ内に設置されており「フリーゾーン法人=ドバイ」と考えて差し支えありません。
地元民を雇用する必要はなく、給与体系も自由に決められます。また、法人口座開設も可能なため、現地でのクレジットカード利用等も可能です。
ただし、フリーゾーン法人は維持費に毎年200万円ほど必要になるほか、ドバイは世界的に物価の高い国として知られています。賃貸物件ならワンルームの広さでも日本円にして15万円程度かかりますので、節税対策と支出のバランスを考慮する必要があります。
移住先を考慮し、アジアの低税率国を選ぶのも1つの手段
香港やマカオ、シンガポールなどの低税率国への移住を検討するのも1つの手段です。
<香港、マカオ、シンガポールの所得税>
香港:2~17%
マカオ:0~12%
シンガポール:0~22%
日本の所得税は5~45%の累進課税となっているため、上記と比較するとかなり高い部類となります。香港やマカオ、シンガポールなどの低税率国を移住先として選択すれば、所得税の節税対策にもなります。
アメリカでは州によって法人税や所得税がゼロになり、節税ができる
実はアメリカにもタックスヘイブンと呼ばれる地域があります。それが、ネバダ州、ワイオミング州、デラウェア州などです。
ラスベガスで有名なネバダ州では、アメリカ国内にありながら州法人税も州所得税も非課税です。ロッキー山脈で有名なワイオミング州も、アメリカで2番目に小さいデラウェア州もタックスベイブンとして優れた税制を備えています。たとえばデラウェア州の法人税は8.7%であり、日本の法人税と比較するとかなり低いことがわかります。
海外にオフショア法人を設立する手順
オフショア法人を設立する一般的な手順は次の通りです。
- 登記する社名を決める
- 設立先に応じた必要書類を作成する
- オフショア法人として登記する
- 必要に応じて現地の法人口座を開設する
手順としては非常にシンプルですが、設立先によっては複雑な処理が必要なこともあります。
オフショア法人設立代行会社を利用する方法も
オフショア法人の設立は、経験のある企業でも手間や時間がかかるため、設立代行会社に委託するケースが多々あります。本業に集中しながらオフショア法人を設立するのは決して簡単ではないため、必要に応じて代行会社への委託を検討しましょう。
また、オフショア法人は設立時だけでなく1年ごとに会社を更新する必要があります。更新を怠ると罰金の対象となったり、銀行口座を凍結されたりする可能性もあるため、会社の維持にも手間がかかります。
オフショア法人設立代行会社の多くは設立だけでなく維持の代行も行なっているので、こちらも併せて検討しておきましょう。
オフショア法人設立に関する今後の傾向
それでは最後に、オフショア法人設立に関する今後の傾向についてご紹介します。
タックスヘイブン対策税制により、日本の居住者はオフショア法人の利益を含めて日本で課税される
タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)とは、海外子会社を利用した租税回避(オフショア法人による節税)に対処するため、2017年の税制改正によって施行された制度です。
海外子会社の所得を株主会社の所得とみなして合算し、日本で課税される仕組みなので日本居住者である限りタックスヘイブンの恩恵を受けられないことになります。
したがって、オフショア法人による節税対策のメリットを100%享受するためには、生活拠点を10年以上海外に移す必要があります。
OECDのCRS(共通報告基準)により、世界各国の税務当局が非居住者の口座情報を交換する仕組みがある
CRSとは、2014年にOECD(経済協力開発機構)が開発した、金融口座に関する情報をグローバルレベルで自動交換するための国際基準です。
つまり、日本居住者である場合、オフショア法人設立先で銀行口座を開設しても、現地がCRS加盟国であれば銀行口座情報が日本の税務当局に知られることになります。
現在、日本が租税条約を結んでいる国は146カ国あり(2021年11月時点)、オフショア法人の設立先が該当しないかをまずはチェックしてみましょう。
2023年から多国籍企業には、世界共通の最低税率15%の法人税が課せられる
2023年には、国際課税ルールによって法人税の最低税率を世界共通で最低15%とする合意がされています。
これは、オフショア法人の税負担が世界共通税率を下回った場合、本社を置く国が最低税率との差額を課税するということです。136カ国が最終合意しているため、今後はタックスヘイブンとしてのメリットが徐々に少なくなっていくものと考えられます。
さらに、非加盟国への資産流入が一極集中化する可能性もあり、今後も目が離せないトピックです。
まとめ
オフショア法人にはさまざまなメリットがある反面、デメリットもあります。まずはそれらを熟知し、かつタックスヘイブンと呼ばれる国々の特徴を把握した上で、自社のオフショア法人設立について検討してみてください。