世界の富裕層は移住先としてどこの国を選んでいるのか、気になる方も多いでしょう。そこで本記事では、さまざまなデータを参照しながら富裕層の移住先ランキングや老後の移住先ランキングなどをご紹介します。日本人富裕層に人気の移住先ランキングもぜひチェックしてください。

世界の富裕層の移住先ランキング1位は5年連続でオーストラリア

世界の移住先ランキングトップ10は次のようになっています。

2019年における富裕層の移住数増加率
オーストラリア12,000人3%
アメリカ10,800人0%
スイス4,000人1%
カナダ2,200人1%
シンガポール1,500人1%
イスラエル1,400人2%
ニュージーランド1,400人1%
アラブ首長国連邦1,300人2%
ポルトガル1,200人3%
ギリシャ1,100人3%

出典:Global Wealth Migration Review 2020 | AfrAsia Bank

移住先ランキングの出典元であるAfrAsia Bank(アフラシア)銀行は、イギリス加盟国の1つ、モーリシャス共和国に拠点を置く金融機関です。

同機関では「100万米ドル以上の投資可能資産を所有する者」を富裕層と定義し、2019年の1年間における富裕層の移住人数を参考にランキング化しています。100万ドルの資産は日本円にして1億1,732万円(1ドル=117.32円として)です。

オーストラリアが選ばれた主な理由は治安の良さや教育制度

オーストラリアはAfrAsia Bankが発表する移住先ランキングにおいて、5年連続1位を獲得しています。多くの富裕層がオーストラリアを好む理由は「治安の良さ」や「教育制度」さらに、「生活水準の高さ」が挙げられます。

とりわけ「治安の良さ」では世界的に評価が高く、WHO(世界保健機構)が発表している世界の「人口10万人あたりの殺人発生率」では、富裕層の移住先ランキング2位のアメリカが6.28件なのに対し、オーストラリアはわずか0.87件です。富裕層の移住先ランキングトップ5で最も低いスイス(0.54件)に次ぐ数値で、「富裕層が安心して暮らせる国」として認知されています。

出典:世界の殺人発生率 国別ランキング・推移 | GLOBAL NOTE

また、タイムズ・ハイヤー・エデュケーションが発表している世界大学ランキングにおいて、オーストラリアの大学は100位以内に6校がランクインしています。国別ランクイン数で確認すると第5位であり、教育熱心な富裕層にとってもオーストラリアは魅力的な国なのです。ちなみに日本で100位以内にランクインしているのは2校でした。

出典:World University Rankings 2022 | THE

アメリカが選ばれた主な理由は言語や税率の低さ(タックスヘイブン)

アメリカが第2位に選ばれている理由は「言語」や「タックスヘイブン」にあります。富裕層の多くは第一言語または第二言語に英語を使用しており、「言語に困らない」というメリットは日常生活の利便性につながります。

一方タックスヘイブンとしての特徴は、法人税ゼロのデラウェア州で法人設立を行い、かつ法人税ゼロの国(ケイマン諸島など)にオフショア法人の子会社を設立すれば、連邦法人税も回避できます。

また、相続税の控除額が約10億円もあり、資産総額が約10億円以上ある富裕層でないと相続税がかかりません。現在でもアメリカはタックスヘイブン化していると言われており、節税対策に注目している富裕層から人気を集めています。

スイスが選ばれた主な理由も税率の低さ(タックスヘイブン)

スイスもアメリカと同じく「タックスヘイブン」が人気の由の大半を占めています。世界の法人税(実効税率)を比較したランキングでは、OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国中29位であり、9番目に実効税率の低い国です。

ちなみに米国の実効税率が25.77%なのに対し、スイスは19.7%と5ポイント以上も低い税率を実現しています。日本の実効税率は29.74%なので、10ポイント以上の開きがありますね。

出典:世界の法人税率(法定実効税率) 国別ランキング・推移 | GLOBAL NOTE

また、スイスは永久中立国であり他国からの侵攻される可能性が極めて低いことから、自国・他国の政治体制に不安を感じる富裕層の多くがスイスのプライベートバンクに資産運用を任せることが多くあります。

都市別の人気ランキングでは、シドニーが1位

では、富裕層の移住先ランキングを都市別に見てみましょう。

都市/地域
シドニーオーストラリア
ジュネーブスイス
メルボルンオーストラリア
シンガポールシンガポール
ドバイアラブ首長国連邦

都市別においても第1位を獲得したのはオーストラリア(シドニー)でした。2位以降においても国際色の強い都市が続いています。これは海外移住する富裕層の多くが「グローバルでビジネス展開してるため」と考えられます。

日本が選ばれていない主な理由は税金が高いため

日本は「富裕層に人気の観光地」としてはエジプトに次ぐ第2位ですが、残念ながら海外移住先としてはランキング外です。その理由は「各種税金が高いため」だと考えられます。

出典:These were the 15 hottest destinations billionaires couldn't get enough of in 2019 | INSIDER

前述のように日本の法人税は実効税率で29.74%であり、これはOECD加盟37カ国中6番目に高い数値です。

個人所得税は累進課税で最大45%が課税され、相続税・贈与税も同じく累進課税で最大55%が課税されます。加えて控除制度が多国に比べて少ないことから、世界的に見て「税金の高い国」となっているのです。

日本人におすすめの移住先ランキング1位は14年連続でマレーシア

続いて、世界の富裕層ではなく「日本人におすすめ」という視点で移住先ランキングを確認していきましょう。第1位を獲得したのはマレーシアであり、2006年以降14年連続の獲得です。

順位
1マレーシア
2タイ
3ハワイ
4フィリピン
5台湾
6オーストラリア
7インドネシア
8ベトナム
9シンガポール
10カナダ

出典:「ロングステイ希望国・地域 2019」トップ 10 を発表 | 一般社団法人ロングステイ財団

では、なぜマレーシアが日本人におすすめの移住先ランキング第1位なのか?その理由も整理していきます。

マレーシアが選ばれた主な理由は生活費の安さと高い生活水準

マレーシアは生活費が安く、なおかつ高い生活水準を維持できるのが魅力の国です。マレーシア政府が推進している長期滞在ビザ(MM2H)を取得すれば5年間マレーシアに滞在できる点も人気の理由となっています。

また、MM2H取得のための金融資産条件が高く、富裕層が集まりやすいのも人気要因の1つでしょう。MM2Hを簡単には取得できないことから犯罪目的での移住が減り、犯罪率の低下に貢献していると考えられます。

主食は米、肉だけでなく魚も食しマレーシアに進出している日系企業も多いことから、日本人にとっては非常に住みやすい国なのです。

女性1人で海外移住するのにもおすすめ

マレーシアは東南アジアの中でも治安の良い国として知られています。都市部では旅行者がスリや置き引きなどの被害が報告されていますが、これはマレーシアに限った話ではなく、世界的に治安が良いとされるオーストラリアやスイスでも発生するものです。

「荷物や貴重品を置いたまま席を立たない」「初対面の人から物品を買わない」など、旅行者としての防犯マナーを意識すれば被害に遭うことは極めて稀でしょう。そうした意味で、マレーシアは女性1人の海外移住にもおすすめできる国です。

老後の海外移住先におすすめの国ランキング1位はパナマ

老後の海外移住先ランキング第1位を獲得したのはパナマであり、全体としては次のようになっています。

順位
1パナマ
2コスタリカ
3メキシコ
4ポルトガル
5コロンビア
6エクアドル
7フランス
8マルタ
9スペイン
10ウルグアイ

出典:The World’s Best Places to Retire in 2022 | INTERNATIONAL LIVING

富裕層の移住先ランキングと大きく乖離しているのは、老後は何より「住みやすさ」を重視するからだと考えられます。

パナマが選ばれた主な理由は天候の良さや国際色の豊かさ

パナマは中米と南米を結ぶ地峡(両側に海があり細い地形)に位置し、中心にはパナマ運河が通っています。人口は約431万人、国土は日本の5分の1程度なので日本よりも人口密度の低い国です。

パナマが老後の移住先として人気の理由には「天候の良さ」と「国際色の豊かさ」が挙げられます。年間平均気温が27℃前後であり、雨量が多いため多湿ではありますが朝夕には気温が下がるため過ごしやすい天候が続きます。

首都パナマシティでは世界各国から多様な人々が集まり、国際色が豊かなのもパナマの魅力です。

また、パナマは1904年運河条約によって運河地帯と附属施設の主権をアメリカに属することを認めたため、実質的にはアメリカの属国となっています。これが国際色を強める要因にもなっており、公用語はスペイン語ですが英語を話す人も多いのです。

富裕層に人気の観光地ランキング1位はエジプト

「日本は人気の観光地ランキング2位」と前述しましたが、ここで全体のランキングを富裕層に人気の移住先ランキングと比較しながら確認してみましょう。

富裕層に人気の観光地順位富裕層に人気の移住先
エジプト1オーストラリア
日本2アメリカ
アイスランド3スイス
コロンビア4カナダ
ブータン5シンガポール
ルワンダ6イスラエル
ミャンマー7ニュージーランド
セーシェル8アラブ首長国連邦
トルコ9ポルトガル
チリ10ギリシャ

出典:These were the 15 hottest destinations billionaires couldn't get enough of in 2019 | INSIDER

2つのランキングを比較してみると、結果が大きく乖離していることがわかります。これは観光地と移住先において、富裕層が求める要素が変わるためです。

富裕層移住先ランキングと結果が異なる理由は、異国情緒を味わいたいため

観光地としての人気が高いエジプト、日本、アイスランド、コロンビア、ブータンなどは欧米諸国の富裕層から「異国情緒がある」と認識されており、非日常感を味わえる国として人気を集めています。

とりわけエジプトや日本は他国とは一線を画す文化を形成しているため、常にランキング上位に位置する国です。

富裕層が最も流出しているワーストランキング1位は中国

一方、富裕層に人気の移住先ランキングではなく「富裕層が最も流出している国ワーストランキング」を確認してみますと、中国が1位を獲得しています。

2019年における富裕層の流出ワーストランキング減少率
中国16,000人-2%
インド7,000人-2%
ロシア連邦5,500人-6%

出典:Global Wealth Migration Review 2020 | AfrAsia Bank

1〜3位まで、いずれも情勢が不安定な国がランクインしています。とりわけ中国の流出数が多く、インドの2倍以上となっています。

流出している主な理由は情勢の不安定さ

インドとロシア連邦の順位逆転はあったものの、2018年においてもこの3ヵ国が富裕層の流出ワーストランキングでトップ3に位置していました。

流出している主な理由はやはり「情勢の不安定さ」です。中国においてはアメリカとの対立、人権弾圧問題などにより経済的にも常に不安定です。

過去10年間のスパンで上海総合指数(中国における日経平均株価のような株価指数)を確認してみますと、2007年10月のピークを越えられていません。 

出典:上海総合指数 | Google Finance

ロシアにおいてはウクライナ侵攻により国際社会からの孤立化が進み、国政そのものに問題を抱えている国となっていることから富裕層の流出が加速しています。

富裕層のタックスヘイブン移住先として、日本人におすすめの国はシンガポール

日本人富裕層のタックスヘイブン移住先としておすすめなのは、日本人の移住先ランキングで第9位を獲得したシンガポールです。シンガポールは2011年より9年連続ランクインしており、近年人気の高まっている移住先の1つとなっています。

法人税は17%

では、日本、韓国、中国、シンガポール、香港、そしてマレーシアの法人税(実効税率)を比較してみましょう。

実効税率
日本29.74%
韓国27.50%
中国25%
シンガポール17%
香港16.5%
マレーシア24%

シンガポールの法人税は一律17%なので、実効税率も17%です。アジア諸国と比較すると非常に低いことがわかります。

所得税は0%~20%

続いて個人の所得税を比較していきます。

所得税(累進課税)
日本5~45%
韓国6~45%
中国3~45%
シンガポール0~22%
香港2~17%
マレーシア0~30%

上記のように、シンガポールの所得税は日本や韓国などの約半分の水準です。所得税が低いとして人気移住先のマレーシアよりも低いため、日本人富裕層のタックスヘイブン移住先としてはシンガポールの方が優れていることがわかります。

相続税はなし

最後に、資産の相続税を比較していきます。

相続税(累進課税)
日本10~55%
韓国10~60%
中国なし
シンガポールなし
香港なし
マレーシアなし

シンガポールはマレーシアと同じように相続税(または贈与税)制度がない国です。したがって日本人富裕層のタックスヘイブン移住先として有望国ということがわかります。

ただし、日本の相続税制度により「10年間以上の海外居住生活」という条件を満たしていないと、日本において相続税が発生するというルールがあります。タックスヘイブンを理由にシンガポールへの移住を検討されている方は、長期移住計画を立てるところから始めましょう。

まとめ

いかがでしょうか?本記事では富裕層の移住先ランキングや、日本人富裕層に人気の移住先ランキングなどをご紹介しました。正しい移住先を決めるには「何を求めて移住するのか?」を明確にすることが大切です。

移住先に求めることがタックスヘイブンなら、日本人富裕層としてはシンガポールをおすすめします。本記事の情報を参考に、自身に合った移住先を検討してみましょう。