多くの人にとって海外移住が一般的なものとなりつつあり、日本以外の国に第二の故郷を作ろうとする人が増えているようです。
また、旅行や出張で訪れたことをきっかけに一時的な移住を考えたり、新たな不動産投資先として見込みのある国のリタイヤメントビザを取得したり、たとえ永住をしなくとも特定の国の永住権を取得しようと考える人たちも珍しくなくなってきました。
そうは言っても、まだまだ永住権を取得するのが難しい国が多いことも事実です。たとえば定年後の移住先として日本人に人気の高いマレーシアであっても、現在のところ永住権が取得できるような制度はありません。そうした現状の中、多くの永住希望者から注目を集めているのが東南アジアで目覚ましい成長を遂げているフィリピンです。
ここではフィリピンのさまざまなビザを紹介するとともに、永住権を得られるビザについても詳しく紹介していきます。
1 フィリピンの主要なビザについて
フィリピンでは観光、留学、就労のほか、リタイヤメント用、永住向けなど多種多様なビザが発行されています。ここでは数多くのフィリピンのビザの中からとくに代表的なものを紹介していきます。
【ビザなし】
フィリピンはビザがなくても30日までなら滞在できるので、数週間程度の旅行や出張ならビザなしでもOKです。
【観光ビザ(Tourist Visa.9A)】
59日間、約2カ月の滞在が可能なビザです。日本で取得する場合は無料ですが、かなりの手間と時間がかかります。一方、現地で取得する場合は有料となりますが、イミグレーションが空いてさえすれば即時発行されるメリットがあります。
また、観光ビザについては現地で延長の手続きを行うこともできます。一度延長すると29日間滞在期間が延びるほか、2回目以降の延長では2カ月、半年と長い期間の申請もできるようになります。延長を繰り返すことで最長36カ月、つまり3年も滞在することができるのです。定年後に仕事をせずに長期間住みたい人など、観光ビザを延長しながら滞在を続ける方も少なくないようです。
【特別居住退職者ビザ SRRV(Special Resident Retiree’s Visa)】
フィリピンのリタイヤメントビザとして広く知られているのがSRRVです。フィリピンの出入国管理局が外国人にフィリピン退職庁(PRA)を通じて発行する特別な一時渡航者用査証です。犯罪歴がなく、必要な医療検査をパスできる人であれば35歳以上で取得できる上に、滞在期間の制限がないことがポイントです。つまり、基本的には永住権と考えて差し支えないビザがSRRVです。SRRVの取得には供託預金(保証金)が必要になりますが、これについては後ほど詳しく説明します。
【特別投資家ビザ SIRV(Special Investment’s Residence Visa)】
21歳から取得できるビザですが、75,000USドル(日本円で約810万円以上)の投資が必要となります。投資が継続する限り滞在の制限はありませんが、毎年更新を行う必要があるようです。
【ロングステイビザ SRVV(Special Resident Visitors Visa)】
フィリピン退職庁(PRA)指定の宿泊施設に泊まる、もしくはフィリピン国内にコンドミニアムなどの住居を保有していることで取得できます。ただし、滞在期間が原則1年と短く、1回限りしか申請ができない上に延長や更新もできません。しかも、期間中にフィリピンを出国してしまうとビザが無効になってしまうため、取得するメリットは低いと言えます。リタイヤメントビザのSRRVとスペルが似ているので間違えないように注意しましょう。
【結婚用・永住移住ビザ(Non-Quota Immigrant Visa)】
フィリピン人の方と結婚すると取得できます。最初の1年は結婚仮永住ビザとなり、その後、正式な永住ビザとなります。現地での就業やビジネスも可能ですが、仮に配偶者と離婚してしまった場合は滞在権利がなくなります。
【特別割当移住ビザ/クオータービザ(Quota Immigrant Visa)】
クオータービザと呼ばれており、滞在期間の制限がないという点ではSRRVと同じように永住権が得られるビザとなります。ただし、各国に対して年間50人しか発給されないため、個人で取得するのは相当難しいと言われています。その一方で資金要件についてはSRRV以上に優遇されているなど、取得メリットが大きいことが特徴です。クオータービザの取得条件については後ほど詳しく説明します。
【APECO特別永住権プログラムビザ APRV(APECO Permanent Resident Visa)】
発展を続けるフィリピンでは、政府主導によるインフラ整備が活発に行われています。APECO(Aurora Pacific Economic Zone and Freeport Authority)は、そうした開発事業プロジェクトの一つであり、ルソン島中部に位置するオーロラ特別経済区を管轄しています。APECO特別永住権プログラムビザ、通称APRVは、APECOのインフラ事業へ出資することで取得できるビザであり、SRRVやクオータービザと同様、滞在期間に制限がない永住権が得られます。「事業に出資」と聞くと、莫大な資金が必要になりそうなイメージもありますが、実際にはそこまでの金額は必要ありません。APRVの取得条件については後ほど詳しく説明します。
2 フィリピンの永住権について
上記で紹介したビザのうち、フィリピンの永住権を得られるビザとして一般的なものは、SRRV、クオータービザ、APRVの3種類です。タイでは50歳以上、インドネシアでは55歳以上など、他国の一般的なリタイヤメントビザは50代を超えなければ申請・取得できないのに対し、フィリピンのSRRVは35歳以上で取得できます。さらにクオータービザであれば20歳以上で取得でき、APRVに関しては年齢制限すらありません。「永住権取得を目指すならフィリピンが最楽」と言える理由がおわかりいただけたのではないでしょうか。滞在期間に制限がなく、永住権を得られるSRRV、クオータービザ、APRV、それぞれの取得要件について、資金面を中心に詳しく確認していきましょう。
2-1 SRRV(リタイヤメントビザ)について
SSRVは「Special Resident Retiree’s Visa」という正式名称の通り、基本的にはリタイヤメントビザとして機能していますが、35歳以上で取得できるなど、他国のリタイヤメントビザと比べ、かなり若いうちから取得できる点が大きな見魅力となっています。
【SSRVの特徴】
■取得可能年齢:35歳以上
■取得に必要な金額:供託預金として10,000〜50,000USドル(日本円で約110万〜540万円)
■取得に必要な滞在期間:30〜40日
■住居の必要性:不動産を購入もしくは賃貸し、住所の確保が必要
■滞在可能日数:無制限
■滞在義務なし(出入国自由)、現地での就労も可能
■更新:1年毎
SRRVの取得には供託預金(保証金)が必要となり、基本的にはフィリピンの国内に預金しておく必要があります。SRRVには「SRRVクラッシック」「SRRVスマイル」「SRRVヒューマン・タッチ」という3種類があり、供託預金の金額や扱いが少しずつ異なります。
「SRRVヒューマン・タッチ」は介護や療養が必要な人を対象としているため、人権的な見地から他の2つのSRRVと比べて必要な供託預金額が少なく設定されています。また、「SRRVクラッシック」は「SRRVスマイル」よりも供託預金額が高く設定されていますが、「SRRVクラッシック」は供託預金を投資に転用できるメリットがあります(ただし、毎年500USドルの追加料金を支払う必要あり)。
供託預金額の違いは以下の通りとなります。
●SRRVクラッシック
35歳〜49歳:50,000USドル(日本円で約540万円)
50歳以上・非年金受給者:20,000USドル(日本円で約220万円)
50歳以上・年金受給者:10,000USドル(日本円で約110万円)
※ビザ取得から30日経過後、供託預金を投資用に転換可能。
●SRRVスマイル
35歳以上:20,000USドル(日本円で約220万円)
※投資への運用は不可。ビザを取り消した後に引き出すことは可能。
●SRRVヒューマン・タッチ
35歳以上:10,000USドル(日本円で約110万円)
※介護や療養を必要とする人が対象。
※月額1,500USドル以上の年金を受給している必要あり。
※投資への運用は不可。ビザを取り消した後に引き出すことは可能。
2-2 クオータービザについて
各国に対して年間50人分しか発給されていないクオータービザですが、取得できればSRRV以上にメリットが大きいようです。
【クオータービザの特徴】
■取得可能年齢:20歳以上
■取得に必要な金額:供託預金として50,000USドル(日本円で約540万円)
■取得に必要な滞在期間:30〜40日
■住居の必要性:不動産を購入もしくは賃貸し、住所の確保が必要
■滞在可能日数:無制限
■滞在義務なし(出入国自由)、現地での就労も可能
■更新:1年毎
クオータービザもSRRVと同様に供託預金が必要となりますが、クオータービザの場合は、ビザの取得が完了してしまえば預けている50,000USドルを自由に使うことができます。この点は、供託預金を投資に使うか銀行に預け続けなければならないSRRVと大きな違いです。
ただし、年間50人という取得者制限もあり、クオータービザの入手は極めて困難かつ複雑であると言われています。現地でビザの取得サポートを行っている代理店に依頼した場合でも、SRRVの取得に比べて5倍以上の手数料を請求されるほか、取得できない場合も手数料が返金されないケースもあるようです。
2-3 APRV(APECO特別永住権プログラムビザ)について
フィリピンの開発事業に投資することでビザが取得できるAPRVは、SRRVやクオータービザと同様に滞在期間は無制限。さらに他のビザにはないメリットや特徴があります。
【APRVの特徴】
■取得可能年齢:制限なし
■取得に必要な金額:事業開発援助費20,000USドル+登録手数料150万円(日本円で合計約370万円)
■取得に必要な滞在期間:5日
■住居の必要性:不要
■滞在可能日数:無制限
■滞在義務なし(出入国自由)、現地での就労も可能
■更新:5年毎
SRRVやクオータービザを取得するには、フィリピンに30〜40日間の連続滞在が必要とされていますが、APRVの場合は5日間の連続滞在で済みます。また、SRRVやクオータービザの取得に際しては日本における無犯罪証明書が必要となりますが、APRVでは必要とされていません。5日間の滞在中にフィリピンでの無犯罪証明書を取得するだけでOKです。
加えてSRRVとクオータービザは現地の住居・住所が必要になりますが、APRVを取得するとAPECO内のリゾート施設を住所として申請できるため、住居の確保をする必要もありません(フィリピン国内の他の場所に住居を確保することで住所を移転することも可能)。
唯一、APRVのデメリットとなるのは資金要件かもしれません。必要な金額は事業開発援助費と登録手数料を合算した370万円程度であり、一見SRRVやクオータービザよりも安く済みそうですが、SRRVやクオータービザの供託預金とは異なり、投じた資金は永住を辞めたとしても戻ってこないのです。その点さえ納得できれば、フィリピンの永住権を得るためのビザとして非常に使い勝手が良い制度であることは間違いありません。
3 まとめ
今回ご紹介したSRRV、クオータービザ、APRVは、取得することでフィリピンでの無制限の滞在期間(永住権)が得られるにも関わらず、自由に出入国できるというメリットも兼ね備えています。
必ずしも一年中フィリピンに住み続ける必要はないため、季節によって日本とフィリピンを行き来する渡り鳥のようなライフスタイルを楽しんではいかがでしょうか。そうした生活を繰り返すことで、徐々にフィリピンの生活に慣れてきたと感じたら、日本の住居を引き払ってフィリピンに永住することを考えてみてもいいでしょう。人生の選択肢は多いに越したことはありません。
また、ビザの取得条件や制度内容は頻繁に変わることがあります。取得の準備を始める前に、必ず最新の情報をチェックしておきたいところです。