海外不動産投資は、経済成長率や建物価値の値上がりが期待できるといった、日本とは異なる特徴が多くの投資家を引きつけています。しかし、不動産購入にかかる税金や費用、運用の仕方については国ごとで異なるため、上手く儲けを出す事ができるのか気になる方もいるでしょう。
そこでこの記事では、日本と海外の不動産投資の違いから儲け方、購入する際の注意点について様々な視点からご紹介します。海外不動産投資を検討している方は参考にしてみてください。
1 国内不動産投資と海外不動産投資の違い
日本の不動産市場は、少子高齢化や人口減少を理由に需要の減少が見込まれますが、人口増加や高い経済成長が予想される海外不動産は今後の値上がりが期待できます。ただし、海外不動産でもアメリカやイギリスなどの先進国と、ベトナム、カンボジアなどの新興国では購入の仕方や法規制、リスクまで事情が大きく異なります。
海外不動産投資で上手に利益を出すためには、各国の投資環境に関する情報を整理しておく必要があります。
1-1 価格・利回りの違い
国内不動産投資と海外不動産投資の違いについて、「価格・利回り」「所有権」「ローンの組み方」の各要素を確認します。
日本、アメリカ、主な東南アジアの物件価格と利回りは下表のとおりです。
地域 | 1㎡あたりの購入価格(120㎡の物件の場合) | 賃貸利回り | 賃貸所得税 | 購入・転売コスト |
東京 | $16,332 | 2.66% | 3.40% | 12.26% |
ニューヨーク | $17,191 | 2.91% | 30.00% | 9.82% |
ジャカルタ(インドネシア) | $2,595 | 7.09% | 20.00% | 17.20% |
プノンペン(カンボジア) | $2,913 | 5.33% | 14.00% | 7.70% |
クアラルンプール(マレーシア) | $3,441 | 3.72% | 22.40% | 5.18% |
メトロマニラ(フィリピン) | $3,952 | 6.13% | 4.06% | 8.63% |
バンコク(タイ) | $5,266 | 5.13% | 2.73% | 10.90% |
東京やニューヨークと比べて東南アジアの不動産価格の安さと賃貸利回りの高さが際立っています。ただし、家賃収入に対する税率や、不動産の売買にかかる費用割合に関してはバラツキがあります。
海外不動産投資では、賃貸利回りや購入金額を単純に比較するのではなく、税金などのコストまでを踏まえて考えることが大切です。
1-2 土地・建物の所有権
日本では土地および建物について購入すれば所有権を得られます。しかし、東南アジアのように外国人は土地を保有できない国もあれば、アメリカやヨーロッパなど土地を購入し所有できる国もあります。東南アジアの中でも、マレーシアは土地も保有できます。ただし購入価格に下限を設定し、現地の人が購入できる不動産市場の相場を引き上げないようにしています。
フィリピン・タイ・カンボジアといった不動産投資の対象として人気の高い国は、外国人による土地の所有は認められていません。また1棟のコンドミニアムの中で、非居住者の外国人が購入できる割合も定められています。
不動産相場が上昇している香港は借地権の所有のみが許可されています。シンガポールはコンドミニアムのみ購入可能となり、土地を購入するためには政府に申請した上で、多額の資金を用意する必要があります。
1-3 ローンの組み方
日本で不動産投資をする場合、物件購入時のローンは事業用ローンを利用します。事業用ローンは、住宅ローンよりも金利が高めに設定されますが、物件の収益性を担保に特に問題が無ければ融資を受けられます。
一方、投資目的などで海外不動産を購入する場合、融資をしてもらえる国内金融機関はほとんどありません。融資を受けられるとしても、現地の物件を担保にするわけではなく、個人で所有している国内の不動産を担保とするフリーローンとなるケースが多いなど、条件は厳しく設定されています。
新興国の不動産を購入する外国人が増加していることを背景に、現地銀行で住宅ローンを組むという方法もありますが、国内と比べると頭金を多く支払ったり、あるいは高い金利で借りたりと条件は厳しくなります。
例えば、アメリカで住宅ローンを借りるには、クレジットカードの信用履歴が必要です。しかし非居住者はアメリカ国内での信用履歴も収入もないので、自国での収入があることを証明して利用できる住宅ローンを探す必要があります。
また、タイで住宅ローンを借りるためには、少なくとも1年の労働許可あるいはタイ居住許可を得て、タイでの勤続年数と年収を示した雇用証明書が必要です。2005年半ばにバンコク銀行シンガポール支店が、非居住者に対して不動産価値の最大70%の融資をするようになりました。ただし住宅ローンを申請するためには、シンガポール支店に直接足を運ばなければなりません。
海外不動産投資は現金で運用するのが原則です。現地銀行の融資を受ける場合は変化しやすい金利にも注意して利用することが大切です。
1-4 支払い方法
日本の不動産投資における購入代金の支払い方法は、頭金を支払って事業用ローンを組み、毎月その支払いをするという形になります。アメリカやヨーロッパなどの先進国でも同じです。
一方、東南アジアの新興国の場合、外国人が購入できるコンドミニアムの購入代金支払い方法は複数あります。インドネシアやカンボジアのように、価格が安いところでは現金による一括支払いも可能なほか、海外銀行のHSBCなどから融資を受けて、毎月ローンの返済をする方法もあります。
また、コンドミニアムを開発するデベロッパーが用意する融資を受ける方法もあります。例えばタイではプレビルド物件の契約時に20%程度の頭金を支払い、建設中に30%ほどを分割で支払って完成後の所有権移転時に残額を支払うという仕組みになります。
2 先進国と新興国で不動産投資の儲け方は異なる
不動産投資で利益を出す方法は、物件を貸し出して賃貸収入を得る「インカムゲイン」と物件を売却して得る「キャピタルゲイン」の2種類があります。
2-1 先進国での不動産投資の儲け方
先進国の不動産価格は上昇していますが、安定的に家賃収入を得られることからインカムゲインで利益を得ることもできます。特に欧米の住宅は、土地に対する建物価格の比率が下落しにくいという特徴があることから、節税効果を得ながらインカムゲインを得るという儲け方ができます。また、建物価値が下落しにくいという特性から、売却による利益も狙えます。
日本でも都心湾岸エリアのタワーマンションなどはキャピタルゲインを狙うことも可能です。しかし一般的な日本の戸建て住宅・アパート・マンションは、築年数経過による価値減少によりキャピタルゲインを得るのは困難です。
さらにイギリスやアメリカは、日本と異なり土地と建物を一体として評価しています。イギリス・フランス・ドイツでは住宅投資に占めるリフォームの割合は日本の倍以上であり(2011年時点)、アメリカでは住宅への投資額よりも市場評価額が上回っています(2008年時点)。一方、日本は住宅の資産評価額は投資額の半分にも満たない状態です(2011年時点)。
このような背景もあり、アメリカやヨーロッパでは中古物件の価値が高く、インカムゲインに加えてキャピタルゲインを狙うことができます。
2-2 新興国での不動産投資の儲け方
経済成長力の高さと人口増加により、賃貸利回りや不動産価格の上昇率が高い新興国では、キャピタルゲインを狙うことができます。インカムゲインも狙うことはできますが、先進国と比べると新興国は不動産管理市場が十分に確立されていません。
また、都市部で価格上昇が見込めるコンドミニアムの家賃は高騰していることから、賃借人の対象となるのは現地人ではなく駐在員や外国人であるケースが多くなり、入居者探しに苦労する場合もあります。
東南アジアのコンドミニアムを購入する際は、建設前の段階でプレビルド販売する物件を購入することもできます。プレビルド物件は、完成後にデベロッパーが売り出す価格よりもある程度割り引かれた価格で購入できるのがメリットです。
また、プレビルドのコンドミニアムを完成前に売却して利益を得る方法もあります。これは「割り当て」と呼ばれるもので、完成前のコンドミニアムを購入する権利を売却する方法です。不動産は通常、所有権が移転しなければ売買することはできませんが、割り当ての場合には所有権が移転する前に、その権利を売却するという形で譲渡できます。
完成までに何年もかかるコンドミニアムの場合、その間にライフスタイルの変化によって購入したコンドミニアムが不要となる場合があります。そのようなケースに備えて、割り当てができるコンドミニアムをプレビルド段階で購入するというわけです。
ただし、デベロッパーとの契約書の中で、その割り当てを認める条文がなければ売却することはできない点には注意しましょう。
3 海外不動産投資の注意点
海外不動産を運用する際は「為替」と現地の「税制」にも注意を払う必要があります。
3-1 為替リスク
海外不動産を購入する際の代金は現地通貨で支払いますが、為替レートは変動するため、売却時に当時よりも円高に進行すれば為替差損が発生します。また家賃収入を得る場合にも、円安になれば受け取る日本円は少なくなります。このように、海外不動産投資には為替リスクが伴うことに注意が必要です。
ローンを組む場合でも、国内の金融機関を利用するか現地の銀行を利用するかによって、為替レートの変動がどのように影響するのかが変わります。たとえば国内の金融機関でローンを組めれば、融資を受けた時点での為替レートで日本円での支払い額は決定します。
しかし現地の銀行から融資を受けた場合には、返済時ごとに日本円を換金するので、円安になると同じ返済金額でも多くの日本円を用意しなければなりません。一方、家賃収入を得ていて、なおかつ毎月の返済金額よりも家賃の方が高ければ、円安になると得をします。
新興国の不動産を検討する場合、経済成長が鈍化するようなことになれば通貨は下落し、日本の金利が切り上がることになれば日本円は上昇するため、円高に進むのではないかとの見方もあります。
海外不動産投資は円高が進行すると売却で不利になるので、世界経済の動向には常に気を配ることが大切です。
3-2 現地の税制
不動産投資に関連する税制は国によって異なります。税金は大きなコスト負担となり、収益性を低下させるので、不動産投資を検討している国ではどれほどの金額を必要とするのかをチェックしておくことも重要です。
例としてアメリカ・タイ・フィリピンの不動産運用に関する主な税金をご紹介します。
・アメリカ
固定資産税 | 州によって税率は異なります(全米平均は不動産評価額の1.14%) |
不動産譲渡税 | 連邦の所得税がかかります。さらに州や地方自治体の所得税もかかります。(税率は州・郡・市によって別) |
家賃収入に対する課税 | 連邦と州の税金が課せられます(州税は各州によって税率が異なります) |
・タイ
個人所得税 | 0~35% |
特定事業税 | 3.3% |
土地家屋税 | 毎年の想定賃貸料相当額の12.5% |
・フィリピン
固定資産税(地方税) | 税率は地方政府ごとに異なります |
譲渡所得税 | 6% |
不動産移転税 | 0.75% |
個人所得税 | 20〜35%(累進税率) |
4 まとめ
海外不動産投資は日本とは異なるスキームで儲けを狙うことになります。海外不動産の購入では、その手順や税制、ローンの利用など日本とは異なる部分も多いので、事前に細かくチェックし、収支計画を立てることが大切です。キャッシュフローに影響を及ぼす為替リスクや空室リスクにも注意が必要です。
エリア選びや物件探しでわからないことがあれば、海外物件を扱う不動産会社に相談することもできるので、専門家の意見も参考しながら判断すると良いでしょう。