ベトナムは、コロナ禍においてもGDP成長率をプラスに保つなど、東南アジアに位置する新興国の中でも有望な投資先です。また、ベトナムでは、2015年に外国人に対する不動産購入の規制が緩和されました。
経済成長著しいベトナムでは、規制の緩和に伴い、不動産市場の拡大が今まで以上に加速しています。しかし、緩和されたとはいえ、まだ注意すべき規制が複数あることも事実です。この記事では、外国人がベトナム不動産を購入するうえで事前に確認しておくべき規制の内容や、ベトナム不動産の購入・売却手順について解説します。
1 外国人に対するベトナム不動産購入・所有権の規制
ベトナムで外国人が不動産を購入する場合、個人か企業かなどによって規制の内容が異なります。外国人個人、ベトナムで設立した企業、海外の企業の3つに分けて、どのような規制があるのかを解説します。
1-1 外国人個人
ベトナム国内では、2015年7月1日に施行された住宅法によると、非居住者の外国人でも不動産の購入が認められています。従来の住宅法では非居住者の不動産購入を規制していたものの、新住宅法の施行に伴い、ベトナム居住者・非居住者に関わらず不動産を購入できます。たとえば、日本人のようにノービザで入国したことをパスポートの入国スタンプで証明すれば、特別なビザがなくても問題ありません。
また、外国人の不動産購入に関しては、自身の居住用としてはもちろんのこと、賃貸・転売目的での購入も可能です。ただし、賃貸、転売など収益目的の購入は、小規模かつ不定期なものに限られます。短期間で多数の住宅を購入すると、居住目的ではなく事業目的とみなされて、規制の対象になる可能性があるため要注意です。
外国人個人の不動産所有について、原則として50年間の所有権が付与されます。50年経過したあとも、ベトナム政府から承認を得ることで、さらに50年間の所有権が与えられます。
外国人によるベトナム不動産購入の規制項目 | 内容 |
---|---|
不動産の購入対象 | ベトナム居住・非居住者いずれも可能 |
不動産購入の目的 | 居住用・賃貸運用・転売いずれも可能 |
不動産の所有権 | 50年間(50年間の延長が可能) |
1-2 ベトナムで設立された外国企業
ベトナム国内で設立された一般的な外国企業でも、不動産の購入が可能です。ただし、法人名義で不動産を登記すると、当該法人企業に勤務する従業員のみにしか貸し出すことができません。購入した不動産を事業目的で利用する場合、資本金200憶ドン(日本円で約1億円)を出資し、不動産事業免許の取得が必要です。
ベトナム国内の外国企業は、投資登録証明書(日本でいう会社登記簿のような書類)に記載される会社の登記有効期間内であれば、不動産を保有できます。投資登録証明書が更新された場合、更新された投資登録証明書に記載する登記有効期間内は継続して不動産を保有可能です。しかし、保有期間を延長できるのは1回のみとなります。
1-3 海外の企業
ベトナム国外の外国企業は、原則としてベトナム不動産の購入を認められていません。なお、個人の外国人およびベトナムで設立された外国企業に対する規制はすでに解説した通りですが、プロジェクトによっては、政府が外国人による購入を一切認めないものもあります。
2 外国人が所有可能なベトナム不動産の戸数制限
外国人が、コンドミニアムを含むベトナム不動産を購入する場合、外国人が所有する戸数が全体戸数の30%を超えてはならないという規制があります。
また、別荘・ビラ・一軒家といった一戸建ての物件に関しても、プロジェクトの区画内、または行政区画内における総戸数の10%、または250戸のどちらか少ない戸数までしか購入できない規制に注意が必要です。
3 ベトナム不動産の売却先・中古物件購入規制
ベトナムでは、外国人による中古物件の購入が規制されています。すでに外国人がベトナム国内で所有している物件であれば中古物件として購入可能ですが、不動産取得の申請手続きが必要です。
なお、外国人が所有している中古物件を購入する場合、元所有者に対して定められた所有権の年数が次の外国人所有者にも引き継がれます。
4 外国人のベトナム土地購入・所有権の規制
ベトナムでは、外国人による不動産購入は可能であるものの、土地の購入・所有権は認められていません。土地法には、「土地は全人民の所有に属する公財産であり、国が所有者を代表して統一的に管理する」との記載があり、土地の所有に規制が設けられています。
4-1 ベトナムの土地使用権について
外国人による土地の「購入・所有」は認められていない代わりに、「使用権」が与えられます。土地の使用権とは、外資企業が土地を使用するための権利で、ベトナム政府から土地の使用権が付与されることで、土地を使用できます。
なお、土地の使用権について、以下のとおり「割当」、「賃貸」のいずれかの方法が適用されます。
・土地使用権の割当
外国企業が、ベトナム国内で建設投資プロジェクトを実施する場合、ベトナム政府から有償で土地の使用権が割り当てられます。原則として、50年以下での割当期間が定められており、割り当てられた土地に定着する資産については、譲渡、賃貸、転貸、抵当権の設定、現物出資が認められます。
・土地使用権の賃貸
以下の4つのパターンにおいて、土地使用権の賃貸が適用されます。
1:ベトナム政府から貸与を受ける
2:土地使用権を有するベトナム企業への出資
3:土地使用権による現物出資を受ける
4:工業団地、工業区、加工輸出区などにおいて、ベトナム政府か土地の使用権者から貸与される
1.のベトナム政府から貸与を受ける方法の場合、土地の使用目的が条件に該当しなければなりません。農業、林業生産、水産養殖、製塩の投資案件用地などが該当します。また、事業や建設で土地を使用することになった場合でも、使用権の貸与が可能です。
5 現地通貨「ベトナムドン」の送金規制
ベトナム不動産購入で注意しておきたいのは、現地通貨「ベトナムドン」の送金規制です。ベトナムドンの通貨価値の安定、インフレ率の抑制、貿易収支の安定化、外貨準備高の積み上げを目的に、ベトナム政府がベトナムドンの送金を規制しています。
つまり、不動産投資による家賃収入や、キャピタルゲインで得たベトナムドンについて、海外への送金が実質困難であるということです。今後、ベトナム不動産投資を行う場合には、ベトナムドンの送金規制に留意しておくようにしましょう。
6 ベトナム不動産の購入手順(新築の場合)
ベトナムで新築物件を購入する際、建物竣工前に支払いを行うケースがほとんどです。支払い方法は売買契約書の内容によって異なりますが、多くの場合は分割払いとなります。以下は、ベトナムで新築物件を購入する際の一般的な手順です。
6-1 物件の予約・予約金支払い・予約同意書のサイン
物件の購入希望者は、購入物件を決定したら予約金を支払うことで物件を抑えられます。予約金の支払いに際しては、予約同意書という書類にサインが必要です。予約同意書を提出すると、物件購入の意思表示をするとともに、資金の支払い方法に同意したとみなされます。
なお、原則として予約金の払い戻しは認められません。また、ベトナム不動産の購入に際しては、正式販売開始時に抽選会(販売会)が行われることも多いものです。なお、抽選会では物件の正式価格が発表されます。
物件の購入希望者は、抽選会の前に予約金を支払い、抽選会で当選した順に物件を選ぶ権利を獲得します。抽選会で希望の物件を抑えられなかった場合は、予約金は返金されます。予約金の額は、プロジェクトにより異なりますが、一般的なプロジェクトでは日本円で約20万円などです。しかし、高級物件では100万円など、物件のグレードによって幅があります。
6-2 第1期支払い 売買代金の30%まで支払い
物件を予約してから数日~1週間後に分割支払いが開始されます。第1期の支払いは、売買代金の30%が限度です。この第1期の支払いとともに、売買契約書のサインを行います。売買契約書には専有面積、権利の規定、共有エリアの規定、支払い方法、日程、住宅保証、価格に含まれる内装、使用される資材などが規定されています。
契約書の枚数が多いため、全部細かく目を通すのに時間がかかります。ディベロッパーによっては、支払い期日、売買契約書のサインの日程を遅らせることも可能なので、交渉してみるのも1つの方法です。
6-3 物件完成まで分割支払い(ディベロッパーにより日程、額は異なる)
建物の完成までに、建物の建設状況に伴って支払いが進められます。また、不動産事業法第57条によると、ディベロッパーは上物の完成前に70%を超える支払いを受けてはいけないと規定されています。
6-4 物件完成・最終支払い (引渡までに売買代金の95%の支払いが完了)
物件完成時に物件の引渡が行われます。購入者が実際にベトナムに来て引渡に立ち会うか、ベトナムの信頼できる第三者に委任すれば、代わりに引渡を受けることも可能です。売買契約書に規定される品質基準や内装の標準を満たしているか確認したら、引渡完了書のサインを経て、引渡を完了します。
6-5 ピンクブック(土地使用権・資産所有権証明書)発行時
ピンクブックと呼ばれる権利書の発行に伴い、残金を支払ったら決済完了です。ベトナムでは、2015年に外国人に対する不動産規制が緩和されたばかりなので、外国人に対するピンクブックの発行には時間が必要です。物件が完成してからしばらく時間がかかることもあります。
ピンクブック未交付でも、名義変更という形で物件を転売可能です。しかし、プロジェクトによっては、ピンクブックが交付されないと転売できないケースもあるので、事前に確認する必要があります。
7 ベトナム不動産の売却手順
中古のベトナム不動産を売買する場合、支払い方法は売主と買主との交渉によって決定されます。以下は、一般的な売却手続きの流れです。
7−1 買主を見つける・価格交渉
ベトナム不動産を売却する場合は、ベトナム人と外国人のどちらに対しても売却できます。個人で探すことも可能ですか、不動産エージェントを通すことで、売却先を見つけられやすくなります。相場価格を踏まえて、相手方との価格交渉に臨むようにしましょう。
7-2 買主から5~10%の手付金を受け取り
買主が見つかったあとは、相手方から手付金を受け取ることで物件を抑えます。一般的に、そのときの条件にもよりますが、売却価格の5〜10%に設定していることが多いです。なお、買主がベトナム人で海外送金が必要となる場合、すでに解説したベトナムドンの送金規制の関係から、現地でのやり取りになる可能性もあります。
7-3 公証役場で所有者変更手続き
次に、ベトナムの公証役場へ所有者変更届の提出が必要です。届出の提出にあたっては、売主と買主の両者ともベトナムの公証役場に出向きます。
7-4 売買代金の受け取り
所有者変更手続きが終了したあとに、手付金を除いた売却価格の90~95%を買主から受け取ります。このときも、海外送金が必要かどうかを確認しておくようにしましょう。
7-5 売却額の2%を政府に納税
不動産を譲渡する際に、「譲渡益の25%」、または「取引額の2%の個人所得税(キャピタルゲイン)」が課税されます。納税額に関しては、税理士にも相談しましょう。
7-6 ディベロッパーで所有者の名義変更手続きと残金決済
新築物件を転売する場合、ディベロッパーにより所有者の名義変更手続きを行います。ディベロッパーによる所有者名義変更手続き完了後、支払い残高がある場合、買主から受け取ります。
7-7 ピンクブック発行
最後に、ピンクブックが発行されたら、売却手続きは完了です。ただし、外国人向けピンクブックの発行が遅く、1〜2年以上の時間を要することもあります。
まとめ
今回は、ベトナムにおける外国人の不動産購入規制についてまとめました。ベトナム不動産市場では物件購入者のほとんどがベトナム人でしたが、2015年の外国人不動産購入規制緩和により、外国人の物件購入者も増加しています。
しかし、外国の個人や海外の企業など、買主によって所有年数などの規制が異なるため、ベトナム不動産は投資先として厳しいのが現状です。東南アジアの不動産購入を検討している方は、カンボジアやマレーシア、フィリピンといった外国人に対する規制が比較的緩い国の不動産も候補に入れてみてください。当社は、マレーシアやカンボジアに現地法人を設置し、最新の不動産情報をお客様に提供しています。海外不動産の購入や投資に興味がある方は、この機会にぜひお問い合わせください。
<ライター:川又 愛子>青森県出身。営業マネージャー。前職では東京マンションの香港、台湾、シンガポール向けへの営業、海外不動産の日本人向け営業を担当。その後ベトナムのクオーターである夫との結婚を機に、ベトナム・ダナンへ移住し、今年は移住して4年目になる。現在はDANANG JAPAN CONSULTINGで不動産売買仲介、日系企業の進出支援を行い、YouTubeチャンネルではダナン不動産のリアルな情報を発信している。
DANANG JAPAN CONSULTING LTD :ベトナムで急成長を続けるダナンで、ダナンに特化した唯一の日系進出支援・不動産コンサルティング会社。 ネットでは出ないダナン現地の情報をお客様へリアルタイムにご提供。 ダナンに特化した、別荘用、移住用、投資用の物件の売買仲介、店舗・オフィス物件賃貸仲介、ホテル買収案件などを扱う。代表矢澤の理念である「ダナンをアジアのハワイへ」のもと、不動産に限らず、ダナン発展と日本進出企業を加速させるため、リゾート地としてのコンテンツ強化やそれに合わせた企業誘致、日本人観光者及び、ダナン移住者向けプロモーションにも尽力している。
※本記事は、当社担当者にて一部編集しております。