ここ数年、さまざまな理由で海外移住を検討する人が増えていますが、日本人の移住先として人気があるのは、距離的にも文化的にも日本と近い東南アジアの国々です。その中でも、とくに多くの移住希望者の注目を集めているのが近年目覚ましい経済成長を続けているマレーシア、タイ、フィリピンの3カ国。今回はそれぞれの国への移住に必要となるビザについて、基本的な取得方法や入手の難易度、取得によって得られるメリットなどを比較していきます。
1 マレーシアのリタイヤメントビザについて
東南アジアの国々の中では比較的治安が良く、多くの日系企業が進出しているマレーシアは、日本人の移住先として非常に高い人気があります。そんなマレーシアのロングステイビザでもっともメジャーな存在が、マレーシア・マイセカンドホーム・ビザ、通称「MM2H」です。このビザが制度としてスタートした2002年から2018年までの17年間で、約4700人の日本人がMM2Hを取得。世界の中で見ても中国に次いで2番目に多い取得者数となっており、日本人からの人気が高いビザであることがわかります。
1-2 MM2Hとは?
MM2Hの特徴を簡単にご紹介します。
■滞在可能期間は最大10年(10年後の更新も可能)
■滞在義務はなし(出入国自由)
■マレーシアと国交のある国の国籍があれば取得可能(日本人ならOK)
■年齢制限なし
■語学力、現地でのビジネス歴、宗教などは不問
MM2Hで永住権が得られるわけではありませんが、期間を延長することで実質的な永住も可能になります。また、多くの国のリタイヤメントビザのように年齢制限が設定されていることもなく、語学力や現地でのビジネス歴も問われません。条件付きで現地就労もでき、家族の同行も許されています。また、金利の高いマレーシアの銀行口座を開設することもできるなど、資産形成や税金対策のためにMM2Hを取得する人も増えているようです。
1-3 MM2Hの取得難易度について
さまざまな点でメリットの多いMM2Hですが、取得のためには収入証明と財産証明が必要になります。必要な金額はそれぞれ以下の通りです。
【収入証明】
<50歳未満の場合>
月収10,000リンギット以上(日本円で約27万円以上の収入証明)
<50歳以上の場合>
月収10,000リンギット以上(日本円で約27万円以上の収入証明または年金証明)
【財産証明】
<50歳未満の場合>
500,000リンギット以上(日本円で約1,350万円)
※上記のうち300,000リンギット以上(日本円で約810万円)をマレーシアの定期預金として預金する必要あり
<50歳以上の場合>
350,000リンギット以上 (日本円で約945万円)
※上記のうち150,000リンギット以上(日本円で約405万円)をマレーシアの定期預金として預金する必要あり
このようにMM2Hを取得するためには、それなりの資金要件を満たす必要があります。とくに50歳未満の場合、月収だけで27万円以上の収入証明が必要となります。マレーシアに移住しながらこれだけの月収を得ることは簡単ではないため、若干ハードルが高い印象を受けるかもしれません。
2 タイのリタイヤメントビザについて
東南アジアの国々の中でも、タイはとくに日本人居住者が多いことで知られています。現地に進出している日本企業が多く、長期滞在者と短期出張者を合わせると常時約8万人の日本人が滞在し、東南アジア屈指の日本人コミュニティーを形成しています。経済が順調に発展し続けているので物価もそれなりに上昇していますが、日本に比べればまだまだリーズナブルに暮らせるようです。また、日本との文化的親和性の高い仏教国であることや「微笑みの国」という評判通りに人々のホスピタリティが高いこともあり、日本人の移住先としても非常に高い人気を誇っています。
タイのリタイヤメントビザは「O-A」と呼ばれていますが、つい最近、取得の条件が変更されたようです。タイに限らずビザの取得条件は変わりやすいので、常に最新の情報をチェックしておきましょう。
2-1 タイのリタイヤメント(O-Aビザ)について
タイのリタイヤメントビザには滞在期間が90日以内の年金ビザ(Oビザ)と退職者長期滞在用のビザ(O-Aビザ)の2種類がありますが、ここではOAビザについてご紹介します。
■滞在可能期間は最大10年(5年に一度更新が必要)
■年齢要件は50歳以上
■タイでの就労は禁止
■取得できるのはアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本など14カ国の先進国のみ
以前は長期滞在用のO-Aビザでも滞在可能期間はわずか1年でしたが、現在は10年に変更されているようです。退職後の日本からの移住や長期滞在を考えている方にとっては望ましい変更となったようです。
2-2 タイのリタイヤメントビザ取得難易度について
次にO-Aビザの取得要件について、資産に関する要件を中心に確認していきましょう。変更前の要件と変更後の要件ではかなり大きな差があるようです。
【変更前の資産要件】
以下いずれかの要件を満たす必要がありました。
■80万バーツ(日本円で約275万円)以上をタイ国内の銀行に預金
■月収6万5000バーツ(日本円で約22万円)以上の収入証明
■預金と収入の合計80万バーツ(約275万円)以上の財産・収入証明
【変更後の資産要件】
以下いずれかの要件を満たす必要があります。
■300万バーツ(日本円で約1000万円)以上をタイ国内の銀行に預金
■月収10万バーツ(日本円で約35万円)以上の収入証明
また、日本のタイ大使館でO-Aビザを取得する場合は、医療保険への加入も必須条件となりました。
滞在期間が大幅に延長されたものの、以前は300万円以下の預金だけで要件を満たせていたことを考えると、資産面でのハードルはかなり上がってしまった印象です。それでも預金か収入のいずれかの要件を満たせばよいので、マレーシアのMM2Hに比べれば多少は取得しやすいはずです。
3 フィリピンのリタイヤメントビザについて
ここ数年、日本人の移住先候補として注目を集めているのがフィリピンです。日本から飛行機で4、5時間という近さに加え、物価も3分の1程度。国民の多くが英語を話せることも魅力であり、最近では語学留学先にフィリピンを選ぶ学生も増えています。他の東南アジアの国々に比べて治安が良くないというイメージもありましたが、ドゥテルテ大統領の就任以降は大きく改善されているようです。
そして何よりも、フィリピンが移住先として人気を集めている最大の理由はリタイヤメントビザの取得のしやすさにあります。先に紹介したマレーシアのMM2H、タイのO-Aビザと比べても資産要件が非常に緩いため、貯蓄に不安のある方はフィリピンのリタイヤメントビザ「SRRV」を検討してみましょう。
3-1 SRRVビザとは?
フィリピンのメジャーな長期滞在ビザにはSRRV、クオータービザ、さらにはAPRVといった種類がありますが、まずはリタイヤメントビザであるSRRV(Special Resident Retiree's Visa)を紹介します。SRRVには以下のような特徴があります。
■滞在期間の制限なし
■滞在義務はなし(出入国自由)
■年齢要件は35歳以上
■現地での就労も可能
■犯罪歴のない人、必要な医療検査をパスできる人であれば取得できる
なんとSRRV は35歳以上であれば取得できてしまうのです。他国の一般的なリタイヤメントビザに比べてもかなり若い年齢で取得できるので、早期退職後の移住を考えている人にもピッタリではないでしょうか。また、フィリピンでの滞在義務はないため日本とフィリピンを行き来しながら生活をすることも可能です。必要であれば現地での就労もできるなど、取得メリットの高いビザであることは間違いありません。
3-2 SRRVとクオータビザの違い
フィリピンにはSRRVの他にもクオータービザという実質的な永住権を得られる長期滞在用のビザがあります。SRRVとは異なり20歳から取得できるものの、各国に対して年間50人までしか発給されません。SRRVの取得で必要となる供託預金も必要なく(銀行への一時的な送金は必要)、就労も可能であるため人気は非常に高いのですが、個人での取得はほぼ不可能であると言われています。どうしてもクオータービザを取得したい場合は現地の代理店などに取得を依頼してみましょう。
3-3 SRRVビザの取得難易度
SRRVの取得に関する資産要件をチェックしてみましょう。SRRVには「SRRVクラッシック」「SRRVスマイル」「SRRVヒューマン・タッチ」という3種類のビザが存在し、それぞれ取得要件が異なります。いずれのSRRVを取得する際にも供託預金(保証金)が必要となり、SRRVの申請前に海外からフィリピン退職庁(PRA)が指定するフィリピン国内の銀行に送金しておく必要があります。
3種類のSRRVの違いは供託預金の金額の差ですが、「SRRVヒューマン・タッチ」は介護や療養が必要な人を対象としているため、人権的な見地から他の2種類のSRRVと比べて必要な供託預金額が少なく設定されています。
また、「SRRVクラッシック」は「SRRVスマイル」よりも供託預金額が高く設定されていますが、「SRRVクラッシック」は供託預金を投資に転用できるメリットがあります(ただし、毎年500USドルの追加料金を支払う必要あり)。
【SRRVクラッシック】
<必要な供託預金>
35歳〜49歳:50,000USドル(日本円で約540万円)
50歳以上・非年金受給者:20,000USドル(日本円で約220万円)
50歳以上・年金受給者:10,000USドル(日本円で約110万円)
※ビザ取得から30日経過後、供託預金を投資用に転換可能。
<申請費用>1,400USドル
<年会費>360USドル
【SRRVスマイル】
<必要な供託預金>
35歳以上:20,000USドル(日本円で約220万円)
※投資への運用は不可。ビザを取り消した後に引き出すことは可能。
<申請費用>1,400USドル
<年会費>360USドル
【SRRVヒューマン・タッチ】
<必要な供託預金>
35歳以上:10,000USドル(日本円で約110万円)
※介護や療養を必要とする人が対象。
※月額1,500USドル以上の年金を受給している必要あり。
※投資への運用は不可。ビザを取り消した後に引き出すことは可能。
<申請費用>1,400USドル
<年会費>360USドル
必要な供託預金額がもっとも高い49歳以下の「SRRVクラッシック」でも約550万円、50歳以上であれば約220万円の預金だけでフィリピンの実質的な永住権が得られることを考えれば、マレーシアやタイのリタイヤメントビザと比べても、資金要件のハードルはかなり低いと感じられるのではないでしょうか。
4 まとめ
今回はマレーシア、タイ、フィリピンの長期滞在ビザ、リタイヤメントビザをご紹介しました。ちなみにマレーシアでは、基本的には永住権を得る方法がありません。タイの場合も永住権を取得するには、タイ国内の勤務者、もしくはタイ人配偶者がいる場合に限られます。それに対してフィリピンでは、SRRVが実質的な永住権ビザとして機能しているなど、永住権を得るさまざまな手段があります。詳しくは下記の関連記事をご覧ください。