人口増加や経済成長が見込める海外は、不動産需要の高まりも期待できます。今後、サラリーマンの方が不動産投資を検討する場合、人口減少や地方衰退などネガティブな要素の多い国内不動産よりも、海外不動産を検討する機会も増えてくるでしょう。ただし、海外不動産投資には注意したいリスクやデメリットもあるので、良い情報だけを鵜呑みにしないことが大切です。

この記事では、サラリーマンの方が海外不動産投資をするメリットや注意点について詳しくご紹介します。興味のある方は参考にしてみてください。

1 海外不動産投資とは

海外不動産投資は、日本以外の国で不動産を購入して運用する投資方法です。不動産の運用で得られる主な収入は、賃借人に物件を貸して家賃収入を得る「インカムゲイン」と、売却によって利益を得る「キャピタルゲイン」の2種類となります。

海外不動産投資と聞くと、プロの投資家しか扱えないジャンルと誤解されることもありますが、収入を得る仕組みは国内不動産投資と基本的に一緒です。そのため、一般的なサラリーマンの方でも投資目的で海外不動産を購入し、運用するケースは珍しくありません。

なお、給与所得がメインのサラリーマンの方は、確定申告をする機会は少ないですが、海外不動産投資で収入があった場合、確定申告をして税金を支払う必要があります(条件にもよる)。

例えば、家賃収入などの不動産所得は、給与所得と合算して税金を算出することになります。売却益は譲渡所得として別途計算し、税金を納付することになります。さらに、不動産を所有する国へも、所得に対する税金を支払う必要があります(二重課税とならないように、海外で支払った税金は国内での確定申告時に控除できる「外国税額控除」という制度もあります)。

1-1 サラリーマンが選ぶ海外不動産投資の対象国とは

投資先としてサラリーマンの方に人気があるのは、物件価格が安い東南アジアです。なかでも非居住者である外国人が物件を所有できるのは、フィリピン・タイ・カンボジア・マレーシア・ベトナム・インドネシアなどになります。一方、シンガポールや香港などは物件価格が高騰しているので、サラリーマンの方が最初に始める海外不動産投資にはあまり向きません。

ほかにアメリカやハワイも投資先として人気があります。サンフランシスコやラスベガス、ニューヨークなどの物件価格が高いエリアを除けば、手頃な価格で購入できる物件も見つかります。

1-2 人気のコンドミニアム投資とは

国内不動産投資では、投資対象となる物件はマンションかアパートが主流です。一方、海外不動産投資では主に日本の分譲マンションに相当するコンドミニアムが投資対象になります。コンドミニアムもマンションと同じように集合住宅であり、部屋ごとに所有権を得られる点は同じです。ただし、賃貸に出す場合には家具や家電を設置しておく必要があり、これらはオーナー負担となります。

また物件によってはキッチン設備などが付属していない場合もあるので、購入前にはよく確認をしておく必要があります。最近は、共用施設としてプールやフィットネスなど豪華な設備が整っている物件も人気です。

2 サラリーマンが海外不動産に投資する5つのメリット

国内不動産ではなく、海外不動産に投資するメリットは次の通りです。

2-1 節税対策になる

不動産投資では、給与所得が中心のサラリーマンの方でも節税効果を期待できます。確定申告の際に、家賃収入などの不動産所得は給与所得と合算できる上、不動産所得を得るために要した費用(物件管理費や修繕費、減価償却費)を経費として計上できるからです。

減価償却費とは、時間が経つごとに減少していく資産の価値について、その資産の取得費を残存耐用年数で按分し計上する費用のことです。このような経費が家賃収入を上回った赤字年度は、給与所得と合算することで課税所得を引き下げることができるので、節税につながります。

また、海外不動産ならその節税効果も高くなる傾向にあります。特に欧米不動産は築古でも資産価値が落ちにくいため、中古物件を購入することで減価償却費を多く計上することができます。

例えばアメリカの住宅は、日本の住宅よりもメンテナンスがしっかりしている傾向があり、また土地の価格よりも建物価格の比率のほうが高くなっています。中古物件の流通も盛んで、築50年を過ぎた物件の取引も珍しくありません。

アメリカの木造一戸建て住宅では、日本の法定耐用年数である22年を経過した物件なら、わずか4年で減価償却をすることも可能です。これにより、むこう4年間の節税効果を大きく取ることができます。

2-2 新興国なら低価格で購入できる

東南アジアの主要都市の不動産価格は日本(東京)と比べて安く購入できます。日本不動産研究所が2018年11月に発表したデータによると、東京の港区元麻布エリアの高級マンションを100とした場合の各都市のマンション価格指数は以下のようになります。


マンション価格指数

賃料指数

東京(日本)

100

100

バンコク(タイ)

25.3

41.2

クアラルンプール(マレーシア)

25.3

33.7

ジャカルタ(インドネシア)

20.9

52.1

ホーチミン(ベトナム)

10.1

21.4

(出典:一般社団法人日本不動産研究所「第11回国際不動産価格賃料指数(2018年10月現在)」)

東京都心と比べれば、東南アジアなら4分の1~10分の1程度の価格で購入できる物件もあります。

2-3 キャピタルゲインが狙える

日本の不動産投資での主な収入源は賃貸によるインカムゲインになるため、長期保有が前提となります。一方、海外不動産投資の場合には短期での物件売却で利益が狙えます。

例えばアメリカの場合、エリアにもよりますが不動産相場の上昇が続いています。不動産ポータルサイトのzillowによれば、アメリカの住宅価格は過去1年間で平均4.9%上昇しています。さらに1年後には2.2%上昇すると予測しています。

このように、物件や土地の値上がりが期待できそうなエリアの不動産を早めに仕込んでおき、値上がり後に売却してキャピタルゲインを狙えるのが海外不動産投資の利点です。

経済成長が続く東南アジアの新興国も、今後さらなる物件の値上がりが期待できます。不動産投資の収益は賃貸や売買の需給関係に影響を受けますが、長期保有すると経済の動向によっては悪影響も受けることもあります。成長国・成長エリアでの海外不動産投資であれば、5年~10年程度の保有を前提に、経済動向の影響を受ける前に売却して利益を確保するという選択を取ることもできます。

2-4 管理の手間が不要

海外不動産に限った話ではありませんが、不動産投資では購入後の管理業務を業者に依頼することができます。家賃の受領や入居者探し、物件の清掃や各種設備の点検といった業務を管理会社に委託できるため、日中は仕事で忙しいサラリーマンの方でも手間をかけることなく運用することができます。

海外不動産投資の場合も現地の管理会社か、もしくは日系の不動産会社に賃貸管理などを任せればいいので、運用の手間がかからないのがメリットです。費用はかかりますが、確定申告の際に経費として計上できます。

2-5 私的年金作りにも役立つ

東南アジアのコンドミニアムは短期保有での売却によるキャピタルゲイン狙いがメインとなる一方で、アメリカ不動産の場合には、長期保有によるインカムゲインで収益を生み出す手法も人気です。

最近は老後の生活資金として2,000万円が不足すると大きく騒がれました。その点に関連して、海外不動産投資は長期的に継続した家賃収入を狙えるため、私的年金作りにも活用することができます。さらに国によっては物件自体の価値も落ちにくく、長期保有後に売却しても収益が狙えるという利点があります。

家賃収入と節税効果で利益を得たあとで、物件を売却してキャピタルゲインを得ることも可能です。

3 サラリーマンが海外不動産に投資する際の注意点

海外不動産投資には、国内不動産投資には無い難しさがあります。サラリーマンの方にも知っておいてもらいたい注意点やリスクは以下の通りです。

3-1 資金調達が難しい

国内不動産であれば、物件の収益性を担保に銀行などからローンを受けて物件を購入できます。しかし海外不動産投資の場合、海外の不動産を担保に融資を受けるのは難しいのが現状です。また国内の金融機関ほか、現地の銀行でローンを組むのも簡単ではありません。そのため海外不動産投資をするには、現金で購入することが基本になります。

東南アジアのプレビルド物件(完成前に売り出される物件)などは、建設中に頭金を分割して支払うこともできますが、最後は一括払いとなるので現金を多めに用意しておく必要があります。

ただ、日本政策金融公庫やオリックス銀行などの一部金融機関では、海外不動産投資でも融資を受けることができる場合があります。借り入れ条件は厳しめですが、条件が当てはまれば検討してみると良いでしょう。

3-2 土地の権利を所有できない国もある

東南アジア諸国では、マレーシアなどの一部を除いて非居住者である外国人は土地の所有権を取得できません。そのため土地付きの戸建住宅などは投資対象にならず、コンドミニアムが主に取り扱われることとなっています。

3-3 為替リスク

海外の不動産を購入する場合には、基本的に現地通貨で支払います。また賃貸による家賃も現地通貨で受け取ることになります。そのため、購入してから収益を生み出して日本円に換金する際に、為替レートの変動によっては為替差損(もしくは為替差益)が生じることになります。

日本では低金利政策が続いていますが、新興国やアメリカでは高金利政策が続いています。今後もし日本が利上げをして、新興国やアメリカが利下げをすることになれば、それらの通貨に対して円は上昇すると考えられます。現地通貨を円に換金する際、円高なら受け取る日本円は少なくなり、円安なら受け取る日本円は多くなります。

このように為替の変動によって損をしたり得をしたりするのが海外不動産投資の代表的なリスクです。

3-4 物件が完成しない場合もある

コンドミニアムの場合、建設前あるいは建設途中に購入するプレビルド物件には注意が必要です。計画通りに建設が進まず、完成が遅れることがあったり、場合によってはデベロッパーの破産などにより物件が完成せず、投下資金を回収できなくなる場合もあったりするからです。

例えば2019年7月、カナダ・バンクーバーで開発中のコンドミニアムについて、デベロッパーから購入者に「プレビルド販売契約をキャンセル」するとの通達が突然ありました。後日、この物件を事前購入した購入者には、デポジット(頭金)と支払い日からの利子のみが払い戻しされましたが、そのエリアの地価は購入時よりも大きく上昇していたため、キャピタルゲインを狙った投資家はチャンスを失うことになりました。

あるいは、同じくカナダのシーモアストリートで計画しているコンドミニアム開発でも遅れが生じているとの情報が出ています。いずれのケースも、現地における不動産市場の規模が縮小していることが理由です。

コンドミニアムを開発するデベロッパーは、プレビルド販売によって得たお金を原資に建築工事を行います。そのため、プレビルドによる販売が不振となれば資金調達が難しくなり、工事の継続が難しくなる場合があります。

このように、プレビルドで購入したコンドミニアムには、開発の遅れやデベロッパー側からの一方的なキャンセルというリスクが伴う点に注意が必要です。

3-5 不動産投資詐欺にも注意

2017年4月に東京都品川区で、大手不動産会社が架空の土地取引によって55億円を騙し取られる事件が発生しました。不動産関係では登記が絡む詐欺事件が発生することもありますが、日本とは異なる商取引をする海外でも注意が必要です。

特に新築のコンドミニアムを購入するケースでは、相場よりも高く買わされたり、担保に出した財産などを騙し取られたりするケースがあります。購入後でも必要のない修繕費を突然請求されたりすることもあります。また収益性が低く、投資対象には向いていない国や物件を紹介されることもあります。

そのため、海外不動産投資では物件購入からその後の賃貸管理までを相談できるパートナー(不動産会社やエージェント)選びが重要になります。

4 まとめ

海外不動産投資は、物件価格が安いことや節税効果が高いこと、あるいは値上がり益を狙えるといったメリットがあります。ただし、物件を購入するにあたって必要な投資先の選定や収支計画の作成、パートナー選びなどは、一朝一夕で済むものではありません。上手い話があっても飛びつかず、購入する前には十分に情報収集することが不可欠です。

なお、忙しいサラリーマンの方でも、不動産会社が主催するセミナーを上手に活用すれば、効率的に情報収集をすることもできます。現地の情勢は刻々と変わりますので、常に最新の情報を仕入れるようにすることが大切です。