海外不動産投資による所得がある方は、国内での不動産投資と同様に毎年の確定申告が原則必要になります。不動産にかかる税金は海外と日本の両方で発生し、それぞれで申告を行う必要があります。

この記事では日本での確定申告の手続き方法や注意点について詳しく解説していきますので、海外不動産を所有している方は参考にしてみてください。

※本記事内の情報は2019年7月時点のものとなります。最新情報は国税庁のHPなどでご確認下さい。

1 海外不動産投資で確定申告が必要になるケース

日本に居住している方が海外不動産投資をしている場合、国内での確定申告が必要になります。日本では、所得を得た場所(国内・海外)を問わず、すべての所得について日本国内で課税されるため、海外不動産投資をしている場合は、現地と国内の両方で税務申告をしなければなりません。

なお、サラリーマンの方で給与以外の所得(不動産所得、事業所得など)が20万円を超えていない場合は、申告をする必要はありません。例えば、海外不動産の家賃収入による所得(収入から経費を差し引いた額)が年間20万円以内なら、所得税の確定申告は不要です。

しかし、不動産収入が赤字であっても給与所得との合算で課税所得を引き下げることができる場合もあるため、確定申告はなるべくしたほうが良いでしょう。

1-1 二重課税を回避する「外国税額控除」

海外不動産投資による所得には「家賃収入」「物件売却によるキャピタルゲイン」などがあります。しかし、現地で納税し、さらに日本でも同じように課税されると二重課税となるので、それを回避するために「外国税額控除」という制度が設けられています。租税条約を結んでいる国同士で適用でき、欧米や東南アジアなど国交のある国を対象に外国税額控除を利用できます。

外国税額控除では海外不動産投資における所得税を現地で納付すればその税金を国内の確定申告時に控除することができます。ただし、現地で納付した税金をすべてそのまま控除できるわけではなく、所得税の控除限度額が限度となります(詳細は「3 確定申告時の注意点・ポイント」で後述します)。

2 確定申告の手順

海外不動産投資をしている場合の国内での確定申告の手順を解説します。

2-1 事前に揃える書類

まず確定申告のために揃えておく書類には以下のものがあります。

  1. 源泉徴収票
  2. 不動産売買契約書
  3. 譲渡対価証明書
  4. 売渡精算書
  5. 賃貸契約書
  6. 家賃送金明細書
  7. 税金の納付書
  8. 保険料の証明書
  9. ローン支払い明細書
  10. 管理費・修繕積立金の明細書

このほかに建物の修繕費などが生じた場合には領収書なども用意しておきます。経費として計上することで、課税所得を引き下げ税金を安くできます。なお、①源泉徴収票は給与所得のあるの方は必要です。紛失した場合には、会社に依頼すれば再発行してもらえます。

③譲渡対価証明書は減価償却費の計算に必要ですが、②不動産売買契約書の中で土地と建物の価額が明記されていれば不要です。またローンを組まずに購入していれば、⑨ローン支払い明細書も不要となります。

また、海外不動産投資を始めて最初の確定申告となれば、不明な点が多くあると思います。そのような方のために税務署では「確定申告書の作成コーナー」を設けているので、そこで相談しながら作成することもできます。

ただし、確定申告期間中は混雑しており時間もかかるので、スムーズに作成できるようにある程度の流れは頭に入れておくと良いでしょう。

2-2 収支内訳書を作成する

税務署で相談しながら確定申告書を作る場合でも、最初に「収支内訳書」を作成しておくと良いでしょう。収支内訳書は、収入と支出の内訳を記載して、最終的に税金を計算するための課税所得を算出するために必要になります。 

国税庁より)

収支内訳書の「収入」欄には、賃貸運用をしている間は「家賃収入」「敷金」「保証料」などの金額を記入します。その収入を得るために支払った費用は経費として記入します。

例えば東南アジアのコンドミニアムを所有している場合なら、家具などを揃えて賃借人を募集する際にかかった家具・家電の購入費用などを経費にできるので、領収書などを保管しておくと良いでしょう。

不動産の所在地や貸付面積などは売買契約書に記載されています。英語などで表記されているので、わからなければ税務署で聞くと良いでしょう。賃借人の氏名や賃貸料、保証料などは賃貸契約書を確認します。

収支内訳書は確定申告書と同様に国税庁のホームページで作成することもできます。またダウンロードして用紙を準備しておくことも可能です。

海外不動産所得は日本円に換算する

海外で得た家賃収入などは現地の通貨で受け取りますが、日本の確定申告では日本円で申告します。つまり、外貨建ての所得は日本円に換算して申告する必要があります。

円換算する時点は基本的に「その取引が行われた日」となります。ただし、為替レートは常に変動しており、経費が発生するたびに円換算するのは手間となるため、不動産所得に関しては、取引日の属する月あるいは週の前月、あるいは当週・当月の初日、あるいは1月以内の平均値とすることが認められています(ただし、継続適用が必要です)。

収入や経費を円換算する際は、外貨買いレート(TTS)と外貨売り(TTB)の仲値(中心値)で計算します。なお、不動産所得を継続して得る場合には、収入に関しては外貨買いレートを、経費に関しては外貨売りレートを適用することも可能です。この場合、仲値よりも有利に計算できます。

経費に計上できるものとしては、次のようなものがあります。

  • 税金(固定資産税・不動産取得税・収入印紙税など)
  • 保険料
  • 管理会社への管理費用
  • 修繕費
  • ローン金利
  • 減価償却費

2-3 収支内訳書の裏面に減価償却費を記載する

海外不動産投資のメリットとして節税効果が挙げられます。東南アジアなどの新興国における不動産投資ではキャピタルゲインを目的に新築のコンドミニアムを購入するケースが多く見られますが、アメリカやヨーロッパで物件を購入する場合は、節税目的で資産価値の高い中古物件を取得することがあります。

その節税のポイントとなるのが「減価償却費」であり、収支内訳書の裏面に記入します。減価償却とは、時間が経つごとに減少していく資産の価値を、その資産の取得費を耐用年数で按分して毎年費用計上することで表す会計制度で、減価償却費とは運用している不動産の建物・設備部分で計上できる経費です。

例えば購入した物件の建物分の購入金額が1,000万円相当の場合、法定耐用年数が10年の中古物件であれば、毎年の減価償却費は100万円になります。つまり100万円を10年にわたり経費として計上できることになります。耐用年数は建物の構造によって異なりますが、資産価値の高い欧米の木造築古物件なら、短期間で減価償却費を大きく計上できます。

中古物件の減価償却費を求める場合、計算で必要となる耐用年数は新築とは異なります。中古資産の耐用年数の計算方法は次の通りです。

法定耐用年数の全部を経過した資産
法定耐用年数の20%に相当する年数
法定耐用年数の一部を経過した資産
その法定耐用年数から経過した年数を差し引いた年数に経過年数の20%に相当する年数を加えた年数

(※これらの計算により算出した年数に1年未満の端数があるときは、その端数を切り捨て、その年数が2年に満たない場合には2年とします)

なお、減価償却費の算定根拠となる金額は、上記必要書類の②不動産売買契約書、あるいは③譲渡対価証明書の中に記載されている、建物の価額となりますが、わからなければ税務署で相談するか、税理士にお願いすると良いでしょう。

2-4 確定申告書を作成する

確定申告書の記入方法は確定申告書に附属する手引きに書かれています。会社員の場合は源泉徴収票から必要な金額を転記していきます。もし医療費控除などの申請も併せて行う場合には同時に申告します。医療費の領収書を添付する必要はありませんが、5年間は保存しておく必要があります。

なお、不動産所得の確定申告では「確定申告書B」を提出します。


不動産所得は収支内訳書で計算した金額を記入します。給与所得や不動産所得、そのほかの雑所得や医療費控除なども記入して、納付すべき所得税額を算出します。

このとき、給与所得などと不動産取得を合算できるのが不動産投資のメリットです。減価償却費などの経費が家賃収入よりも多く赤字なら、他の所得金額を引き下げることで税金を安くできます。

2-5 外国税額控除に関する明細書を作成する

確定申告書を作成した後は、海外の現地で納付した税金を控除するための「外国税額控除に関する明細書」を作成します。所有している物件の国ごとに「国名」「所得の種類」「納付日」「所得の計算期間」「外国所得税額」などを記入します。


3 確定申告時の注意点・ポイント

海外不動産投資の確定申告をする上で、注意すべきポイントをご紹介します。

3-1 外国税額控除には限度額がある

海外不動産投資の確定申告で重要なのが、「海外で納付した税金をどれだけ控除できるか」です。外国税額控除は必ずしも、海外で納付した所得税すべてを控除できるものではありません。

限度額は次の計算式で算出できます。

所得税額×(国外所得総額÷総所得総額)

3-2 限度額を超えた分は住民税から控除できる

所得税額の限度額で控除しきれなかったぶんは、住民税から控除できます。外国税額控除に関する明細書の2ページ目で、道府県民税と市町村民税から控除できる金額を記入します。

  1. 道府県民税=所得税の控除限度額×12%
  2. 市町村民税=所得税の控除限度額×18%


それでも控除しきれずに残った場合には、翌年以降3年間は繰り越しできます。

3-3 外国税額控除が適用される年について

外国税額控除が適用されるのは、「その税額が決定した年の翌年の確定申告のとき」です。「海外で納税した年」と「日本で控除できる年」に1年程度のズレが生じる可能性があることも留意しておきます。

3-4 譲渡所得は分離課税になる

不動産所得は給与所得などと合算できますが、不動産を売却した場合の譲渡所得は分離課税になります。つまり、海外物件売却により赤字が出た場合でも、他の所得と合算することができない点に注意が必要ということです(ただし、居住用不動産の売却で譲渡損失が出た場合は、損益通算が可能な場合もあります)。

この場合には課税譲渡所得課税を計算し、保有した期間に応じて定められる税率を掛けて税額を算出し、別途、分離課税用の申告書を作成する必要があります。

3-5 海外の所得税申告でも経費をしっかりと計上する

海外で納付した税金は国内の確定申告で控除できます。控除額に限度はありますが、できる限り現地での納税額は多くすると良いでしょう。海外でも源泉徴収だけではなく確定申告できる場合には、経費をしっかりと計上することが大切です。そのほかに要した費用もなるべく経費に算入するようにしましょう。

なおマレーシアなど一部の国では減価償却ができない点にも注意しましょう。また国によって建物の耐用年数が違うことにも留意しましょう。

4 まとめ

海外不動産投資の確定申告でポイントになるのは、外国税額控除と円換算、計上できる経費です。特に外国税額控除には限度額があるので、不動産を購入する時点では逆算して購入金額や見込める家賃などをある程度計算しておくと良いでしょう。

基本的な確定申告書作成の流れを押さえておけば、税務署で相談する時もスムーズに作成できます。

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