海外では減価償却制度や税制が異なることから、節税目的で海外の不動産に投資する手法が人気を集めています。なかでも中古物件の資産価値が高いアメリカ不動産や、経済成長に伴う値上がりが期待できる東南アジア不動産で節税対策を検討する方は多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、海外不動産投資が節税対策になる理由のほか、人気の投資国についてもご紹介します。海外不動産による節税の仕組みを知りたい方、節税対策に向いたエリア情報に関する情報が気になる方はお役立てください。
1 不動産投資が節税につながる仕組み
不動産投資では、家賃収入である「インカムゲイン」と売却後に得られる「キャピタルゲイン」が主な収益源となります。このほか、実際に賃貸運用を行う中では、家賃だけではなく、毎年行う確定申告のあとですでに納めた「所得税の還付」や、その後に納める住民税額の引き下げによる「節税効果」も得られます。
では、なぜ不動産投資が節税につながるのでしょうか。
1-1 不動産所得とは
日本では所得を得た場合、税金を支払う必要があります。国税庁では所得の対象として給与所得や事業所得、雑所得や配当所得など10種類の所得を定義しており、不動産所得もそのひとつです。海外にある不動産の貸付による収益も不動産所得に含まれます。つまり、賃貸で得た家賃収入によって発生する利益は国を問わず不動産所得となります。
1-2 総合課税制度により所得は合算される
所得税は、上記の10種類の所得に対して課せられます。10種類の所得をひとまとめにして合算することを「総合課税制度」と呼び、不動産所得も給与所得や雑所得などの他の所得と合算して課税所得に加わります。
日本では所得が多ければ支払う税金も多くなる「累進課税制度」が採用されているため、不動産所得がプラス(=黒字)であれば、課税所得が増え支払う税金も多くなります。逆に、マイナス(=赤字)になれば課税所得は少なくなり、税金も少なくなります。
1-3 不動産所得がマイナスになる場合とは
不動産所得を計算する際には、収入に対して経費を差し引くことができます。国税庁は、不動産所得の金額を計算する際に必要経費として算入できるものとして、以下のように定めています(「所得税 No.2210 やさしい必要経費の知識」)。
- 総収入金額に対応する売上原価その他その総収入金額を得るために直接要した費用の額
- その年に生じた販売費、一般管理費その他業務上の費用の額
具体的には管理費や修繕費、各種税金や購入・売却などに伴う手数料などが、必要経費に該当します。またローン返済の利息部分や減価償却費なども含まれ、「減価償却費」の金額次第で必要経費が家賃収入を上回ることがあります。この場合、不動産所得はマイナスとして算入します。
1-4 不動産所得がマイナスになると節税につながる
不動産所得がマイナスになれば、給与所得やほかの所得の合算金額に算入することで、総所得金額は少なくなります。つまり、納める所得税と住民税も少なくなるのです。
給与所得に対する所得はすでに天引きされているため、確定申告を提出したあとに差額分が指定した金融機関の口座に振り込まれます。住民税は5月頃に確定し、本来支払う金額よりも少ない額を納める形になります。これが、不動産が節税対策になる基本的な仕組みです。
海外不動産による収入も不動産所得の対象に含まれます。つまり、海外不動産を保有している場合も、国内不動産と同様に確定申告で収入と必要経費を申告し、計算することになります。そこでマイナス所得となれば、同様に節税ができるということです。
ただし、海外で保有する不動産で得た所得に対しては、現地でも税金を支払うことになります。仮に海外不動産による所得がプラスになれば、現地と日本とで二重に税金を納めることになります。そこで一定の金額を限度として、外国所得税の額を国内の所得税の額から差し引く「外国税額控除制度」により、二重課税を回避しています。
1-5 海外不動産を売却する際は「減価償却費の計上額」に注意
海外不動産は減価償却費の計上により高い節税効果を生み出すことができますが、売却する際には「減価償却費が売却益を高める」という点に注意が必要です。
不動産の売却益は、売却価格から取得した時の購入価格や諸費用を引いて算出するだけではありません。購入金額からは、毎年の確定申告で経費として計上している減価償却費をすべて差し引くことになります。つまり、経費として計上してきた減価償却費が大きくなるほど、購入価格が引き下げられるため売却益が大きくなるわけです。
購入時よりも安い価格で売却した場合でも、計算上は大きな利益を出したことになり、譲渡所得税が発生するケースもあります。譲渡所得税額が還付額を上回った場合には税金の還付が無くなり、逆に確定申告後に納付することになる可能性もあります。
海外不動産を購入する際は、自分の毎年の収入と計上できる費用とのバランスをよく考え、節税効果を最大限生かせる物件選びをすることが大切です。
2 海外不動産投資が節税手法として注目されている理由
海外不動産への投資は、言葉の壁や管理の目が行き届かないといった難しさもありますが、節税効果の高さから高所得者の方などから人気があります。まずは日本と異なる海外不動産事情について理解を深めましょう。
2-1 欧米の不動産は建物の価値が高い
日本と海外とで同じような条件の物件があっても、それぞれ資産価値が違うことから節税効果も異なってきます。このときポイントとなるのが、「減価償却費の計上」です。減価償却とは、「時間が経つごとに減少していく資産の価値を、その資産の取得費を耐用年数で按分して毎年費用計上することで表す会計制度」です。
不動産の場合には、建物および建物附属設備が減価償却費の計算対象となります。つまり、建物および建物附属設備の取得金額が大きいほど、減価償却費という経費も大きくなるということです。
経費が増えればその分、節税効果が大きくなります。例えば、土地と建物の比率が異なる2種類の不動産を同金額で購入した場合、建物の比率が大きい不動産のほうが一年あたりの節税効果は高くなります(残存年数が同様の場合)。
海外不動産の場合、特にアメリカの不動産は日本と比べると建物部分の価値が高いため、土地に対する建物の取得金額が大きくなります。アメリカの住宅は日本よりも寿命が長く、建物の価値が滅失するまでの期間は、日本の住宅が約32年であるのに対して、アメリカは約66年です(国土交通省発表より)。
ただし、減価償却費を多額に計上して課税所得を引き下げても、本来納める税金以上の還付を受けることはできません。むやみに減価償却費の大きい物件を購入しても、その節税効果を享受できるほどの所得がなければ本末転倒になることに注意しましょう。
2-2 東南アジア不動産の特徴
アメリカやイギリスなどと異なり、東南アジアのコンドミニアムは歴史が浅く、品質に関してもさほど高くはありません(物件にもよります)。なお、東南アジアの多くの国では外国人は土地を所有することができないため、コンドミニアムの所有権に関しても建物と土地を明記していないケースがあります。
一方、ミャンマーやフィリピンのように、コンドミニアム法によって外国人でもコンドミニアムの土地の権利(共有持分)を取得できる国もあります。売買契約書に土地と建物の比率が明記されていない場合もありますが、取得費用はすべて建物分として申告することができます(後述)。
3 節税効果が期待できる海外不動産の投資対象国は?
不動産投資により節税やキャピタルゲインが狙える人気の投資国についてご紹介します。
3-1 資産価値の高い物件をスピード償却できる「アメリカ」
節税目的での不動産投資という点で、高い人気を誇るのがアメリカ不動産です。アメリカでは土地も取得可能ですが、日本と比べて住宅の土地に対する比率が高いのが特徴です。特に節税効果の高い築年数の古い木造住宅が人気を集めています。
木造(住宅用)の場合、減価償却できる耐用年数は22年と定められています。減価償却は建物の取得費用を一定期間に分割して経費計上するもので、償却期間(耐用年数)は構造や用途によって決まっています。新築で木造物件を購入した場合、減価償却費は22年に分割して計上することになります。
一方で中古住宅を購入した場合には、築年数に応じて残存耐用年数は少なくなります。木造の耐用年数である22年を超える物件の場合は、耐用年数の20%で減価償却することになります。計算すると、22×0.2=4.4(年)となり、端数は切り捨てるため4年間で減価償却を行うことになります。
日本の木造住宅は築年数が22年を超えると、その価値はほとんどなくなり、減価償却費もあまり計上できませんが、アメリカの木造住宅は築年数が古くても建物の価値は高く、4年間で減価償却費を多額に計上できるので、節税効果も高くなるわけです。
3-2 投資先だけでなく、移住先としても人気の「ハワイ」
ハワイの戸建て住宅も節税目的での購入対象として人気があります。ハワイの戸建て住宅は資産価値が落ちにくいことと、購入金額における土地に対する建物の比率が高いことが理由です。
なおエリアによっては、土地の比率を高める地域も出てきているので物件選びには注意が必要です。建物に対して土地の比率が極端に低いエリアは、そもそも不動産需要が少ない可能性があります。将来売却しようとしても買い手がつかなかったり、あるいは賃借人がなかなかつかなかったりといったリスクも大きくなります。
3-3 キャピタルゲインも狙える「東南アジア」
東南アジアの不動産も投資対象として人気があります。香港やシンガポールのように、不動産価格が相当に高騰している国は簡単に購入できない物件も多いですが、フィリピンのマニラなどは一般のサラリーマンの方でも比較的物件を購入しやすい地域です。
東南アジアではマレーシアを除き、外国人が土地を取得することはできません。しかし集合住宅であるコンドミニアムであれば、例外的にコンドミニアム法によって所有権を取得できます。賃貸経営による経費として減価償却費を計上することも可能です。
土地の持分はコンドミニアムを所有する外国人の共同所有という形になり、その中で自分の持分が決まります。土地の持分を差し引いた残りが建物の取得金額となり、減価償却の対象となります。
海外に財産を持つ個人が増加してきたことを受けて、海外に不動産を所有している場合、「国外財産調書」という書類を毎年作成して、確定申告の期間内までに提出する必要があります(国外財産の価額が5,000万円を超える場合)。このとき、海外不動産の建物と土地の金額を記入することになりますが、その配分が不明であれば、建物の欄に金額を記入するようにと指示されます。
つまり減価償却費を計算する場合、取得費用をそのまま当てはめて算出すればいいというわけです。さらに東南アジアの不動産は、経済成長に伴って価格の上昇も期待できます。
欧米と比べれば建物の価値は高くないですが、手頃な物件が入手できる上、売却によるキャピタルゲインも見込めます。ただし、購入時には建物と土地の価格が明記されているかどうかを出来るだけ確認するようにしましょう。
4 まとめ
海外不動産の節税効果が高いと言っても、遠い国の不動産を所有することに不安があるという方もいるでしょう。しかし、適切な管理会社に任せることで安全に運用できますし、海外不動産を購入から管理・売却までワンストップでサポートする不動産会社に相談することも可能です。
ただし、むやみに建物比率の高い物件を購入しても、納税額によっては十分な節税効果を享受できず、また売却時には減価償却費を計上したぶん譲渡所得税を増やすことにもなります。毎年の所得のバランスを考慮したうえで、自分に合った海外不動産を検討することが大切です。