海外投資による節税を検討されている方は多いでしょう。正しく投資をすれば一定の節税効果が見込めますが、しっかりとポイントを押さえなければ節税できないケースもあります。
そこで本記事では、海外投資にかかる税金について解説していきます。オフショア法人による税金対策についても解説しているので、ぜひ参考にしてみてください。
海外投資に関する税金の基本
まずは、海外投資に関する税金の4つの基本について解説します。日本居住者はどのように課税されるのかを確認していきましょう。
日本居住者は、全世界の所得に対して課税される
日本居住者である限り、たとえ海外投資によって資産を海外に移したとしても、全世界の所得に対して課税されることになっています。日本居住者と非居住者の違いは、次の通りです。
居住者 | 国内に「住所」を有し、現在まで引き続き1年以上「居住」を有する個人 |
非居住者 | 居住者以外の個人 |
「住所」とは個人の生活拠点を意味し、「居住」とはその人が現実に居住している場所を指します。海外投資によって得られる収益を日本で非課税にするためには、まず非居住者の条件を満たすことが前提となります。
金融商品と金融機関の所在地によって、課税方法が変わる
金融商品と金融機関(銀行口座)の所在地により課税方法が変わることに注意してください。基本的には、金融機関が国内にあっても海外にあっても、発生した所得に対して課税されることになります。
ただし、海外の金融機関の場合は「源泉分離課税」が利用できません。源泉分離課税とは、事前に税金が差し引かれた所得のことです。
源泉分離課税が利用できるのは国内の金融機関を利用している場合のみなので、海外の金融機関を利用して投資している場合、確定申告が必ず必要となります。
課税方法は主に3種類
金融商品によって課税方法は主に3種類に分かれます。総合課税、申告分離課税、それと前述した源泉分離課税です。
総合課税 | 所得を合算した総所得金額に課税する方法。サラリーマンの給与所得や、賃貸経営者の不動産家賃収入、個人事業主の事業所得などが該当する。 |
申告分離課税 | 株式の譲渡所得、先物取引による雑所得、不動産売却による譲渡所得、山林所得に課税するものです。ただし、海外金融機関を利用した場合はこれら以外の所得も申告分離課税となります。 |
源泉分離課税 | 支払われる時点で所得課税分が差し引かれているもの。確定申告が不要。国内金融機関で特定口座を開設すると利用できる。 |
外国税額控除により、二重課税を防げる
日本と投資先海外の2国間で租税条約がある場合、株式などの配当金に対する課税は、当該税法が定める税率によって課税されます。これは2国間における二重課税を防ぐための制度です。
また、日本においては外国税額控除という制度があります。日本と海外での二重課税を防ぐため、海外での源泉徴収がある場合は現地で納付した税額を一定の限度額に応じて、所得税や住民税から差し引くための制度です。
外国税額控除の限度額は次のように計算されます。
所得税額×(海外所得総額÷所得総額)
控除しきれなかった税額がある場合は、翌年以降3年間の繰越が認められています。
海外の投資信託における税金
続いて、海外の投資信託(ファンド)に投資した場合の税金について解説していきます。
国内金融機関 : 売却益は申告分離課税、分配金は2-3種類から選択する
まず、国内金融機関を通じて投資信託を利用している場合、売却益は申告分離課税となるためご自身での確定申告が必要です。税率は20.315%であり、その内訳は所得税及び復興特別所得税が15.315%、加えて住民税が5%となっています。
分配金は「公募外国株式投資信託」か「公募外国公社債投資信託」により、課税の選択肢が異なります。
公募外国株式投資信託 | 売却益 | 申告分離課税 | 20.315%が課せられる (内訳は前述同様) |
分配金 | 総合課税 | ||
申告分離課税 | |||
源泉分離課税 | |||
公募外国公社債投資信託 | 売却益 | 申告分離課税 | 20.315%が課せられる (内訳は前述同様) |
分配金 | 申告分離課税 | ||
源泉分離課税 |
海外金融機関 : 課税方法はほとんど変わらないが、自身で確定申告をする必要がある
海外金融機関を通じて投資信託を利用している場合でも、課税方法はほとんど変わりません。ただし、前述したように海外金融機関を利用していると源泉分離課税が使えないため、総合課税か申告分離課税かに限定されます。
公募外国株式投資信託 | 売却益 | 申告分離課税 | 20.315%が課せられる (内訳は前述同様) |
分配金 | 総合課税 | ||
申告分離課税 | |||
公募外国公社債投資信託 | 売却益 | 申告分離課税 | 20.315%が課せられる (内訳は前述同様) |
分配金 | 総合課税 |
日本の証券会社を通じて支払われないため特定口座は使えず、必ずご自身で確定申告をする必要があります。
香港などの投資信託における税金も、日本の居住者である限り、日本で課税される
投資信託によって得られるインカムゲイン(配当や利子による利益)と、キャピタルゲイン(売却による利益)を非課税にしたいと考え、香港などインカムゲイン・キャピタルゲイン税のかからない国や地域の投資信託を利用する方もいらっしゃいます。
しかし、日本居住者である限りインカムゲイン・キャピタルゲイン税のどちらも日本で課税されてしまうため、前述した税率によって課税されることに注意してください。
海外の株式投資における税金
続いて、海外の株式投資における税金について解説していきます。
国内金融機関 : 基本的に投資信託と同様の課税方法となる
海外の株式投資における課税のされ方は、基本的に投資信託同様です。売却益は申告分離課税となるため、ご自身での確定申告が必要です。売却益は租税条約により、ほとんどのケースにおいて日本で課税されます。
上場株式 | 売却益 | 申告分離課税 | 20.315%が課せられる (内訳は前述同様) |
配当金 | 総合課税 | ||
申告分離課税 | |||
源泉分離課税 |
配当金は3つの課税方法から選べ、外国税額控除も適用できます。ただし、源泉分離課税は確定申告不要の課税方法なので、外国税額控除は適用されません。
海外金融機関 : 売却益は申告分離税、配当金は総合課税または申告分離税として申告
海外金融機関を利用して株式投資した場合も、投資信託と同じように課税されます。
上場株式 | 売却益 | 申告分離課税 | 20.315%が課せられる (内訳は前述同様) |
配当金 | 総合課税 | ||
申告分離課税 |
日本の証券会社を通じて支払われないため特定口座は使えず、必ずご自身で確定申告をする必要があります。
海外の債券投資における税金
続いて、海外の債券投資における税金について解説します。
国内金融機関 : 売却益は申告分離課税、利子は申告分離課税と源泉分離課税の2種類から選択する
国内金融機関を利用して海外の債券投資を行った場合、売却益は申告分離課税が適用され、利子は源泉分離課税と申告分離課税の2種類から選択することができます。
海外の債券投資 | 売却益 | 申告分離課税 | 20.315%が課せられる (内訳は前述同様) |
利子 | 申告分離課税 | ||
源泉分離課税 |
源泉分離課税以外の場合は、ご自身で確定申告を行う必要があるので注意してください。
海外金融機関 : 基本的には総合課税として納める
海外金融機関を利用して債券投資を行った場合、売却益は総合課税もしくは申告分離課税、利子は総合課税として課税されます。
海外の債券投資 | 売却益 | 総合課税 | 20.315%が課せられる (内訳は前述同様) |
申告分離課税 | |||
利子 | 総合課税 |
基本的には総合課税として納めることになり、外国税額控除も適用できます。
海外投資をして、海外口座に預金を置いた場合にかかる税金
では、海外投資をして海外の銀行口座に預金を置いている場合、利息にはどのように税金がかかるのでしょうか?
利息は総合課税として確定申告の対象となる
海外の銀行口座に預金を置いている場合、日本においては利子所得として総合課税の対象となります。
利子は円貨に両替するかしないかに関わらず、利子が支払われた時点で所得とみなされ、その日の為替レートで換算した上で他の所得と合算して確定申告を行う必要があります。
ただし、海外預金の利子を含む雑所得の合計が20万円以下の場合は、その所得を申告する必要はありません(年間収入金額2,000万円以下のサラリーマンの場合)。
オフショア法人設立による海外投資の税金対策
それでは最後に、近年注目が高まっているオフショア法人設立による海外投資の税金対策について解説します。
メリット : FXや仮想通貨の利益が非課税になり、海外の金融機関に銀行口座も開設できる
オフショア法人は、いわゆるタックスヘイブン(租税回避地)と呼ばれる国や地域に法人を設立する節税方法です。これによりFXや仮想通貨によって得られた利益が非課税になり、海外の金融機関に銀行口座も開設できます。
そのため、デビットカードやクレジットカードを利用した遠隔取引や、海外口座からの小切手発行、あるいは預金も可能となっています。
世界中のどこにいるかに関わらず、現地銀行口座の預金を使用することができるため、柔軟性の高い節税方法となっています。
デメリット : 海外移住が必要になる
一方で、前述のように日本居住者である限り海外の所得も日本国内で課税されるため、オフショア法人設立による節税効果を生むには移住が必要です。また、オフショア法人の設立と維持には費用がかかるため、最初にまとまった資金が必要となります。
また、相続税が非課税の国に移住する場合、日本の相続税対象から外れるためには相続人と被相続人の双方が10年以上海外に拠点を置くことが条件です。この条件を満たしたとしても、財産が日本にあれば相続税の課税対象となるため、可能な限り財産を移住先に移す必要があります。
タックスヘイブン対策税制や世界共通の最低税率など、取り締まりは厳しくなっている
パナマ文書の発覚以来、タックスヘイブンに対する風当たりが強くなっています。日本のタックスヘイブン対策税制や世界共通の最低税率、OECDのCRS(共通報告基準)など、取り締まりは年々強まっています。
国や地域の基準で決定された実効税率が15%の国際最低基準を下回る場合、追加税が適用される動きも進んでいます。また、CRSとは、世界各国の税務当局が非居住者の口座情報を交換する仕組みであり、平成29年1月1日以降に開設した海外銀行口座は日本の税務当局に申告する必要があります。
オフショア法人設立による税金対策を行うには、こうした規制情報を素早くキャッチし、対策の有効性についてしっかりと検討しなければいけません。
まとめ
いかがでしょうか?本記事では海外投資にかかる税金や、オフショア法人設立による税金対策について解説しました。
海外投資による税金対策を成功させられるかどうかは、さまざまな要因が絡み合って決まります。想像以上に複雑なので個人で取り組むのは難しく、詳しくは税理士に相談をしてご自身に合った税金対策を見つけていきましょう。