不動産投資による利益としては、家賃収入による利益・物件売却による売却益・経費計上による節税の3種類が挙げられます。得られる利益については、これまで日本国内の不動産投資と海外不動産投資とで大きな違いがありませんでした。

しかし、2019年末に発表された税制改正大綱により、海外不動産投資による減価償却は封じ込められることとなりました。海外不動産投資では「経費計上による節税」は大幅に効果が縮小されています。不動産投資による減価償却の仕組みに加え、海外不動産投資による節税効果が縮小された背景などについて解説します。

そもそも減価償却とは

減価償却費は確定申告で経費計上できる

不動産投資の減価償却による節税は、確定申告の際に減価償却費を経費として計上することで可能になります。減価償却費とは、資産の経年劣化による価値の減少分を経費として表現したものです。

実際にはお金を支出していないのに、確定申告では減価償却費を経費として計上できます。減価償却の仕組みは税法に則ったものであり、脱法スキームなどではありません。

減価償却費を計上できる資産は国税庁によって定められており、不動産を購入した場合は建物についてのみ計上可能です。土地については経年劣化が起こらないという考え方から、土地については減価償却費を計上できません。

減価償却費の計算においては、国税庁が定めた法定耐用年数を利用して減価償却期間を算定します。不動産購入価格のうち建物部分の価格について、減価償却期間で割り戻した金額が毎年計上可能な減価償却費です。

建物部分の価格 ÷ 減価償却期間 = 確定申告で計上できる1年分の減価償却費

減価償却費は、物件を購入した年の翌年に行う確定申告から法定耐用年数が残っている限り計上できます。なお、中古物件を購入した場合であっても、法定耐用年数は1からカウント可能です。

海外不動産投資の節税効果とは

アメリカ不動産投資による節税が一般的だった

減価償却の仕組みを利用した節税は、日本国内での不動産に限った話ではなく海外不動産についても、税制が改正されるまでは可能でした。

減価償却の仕組みを紐解くと、不動産投資による節税効果を狙った場合に最も有効なのは築22年を過ぎた木造住宅です。詳しい仕組みは後述しますが、木造住宅の法定耐用年数は22年と短いため1年当たりの減価償却費を最大化することが可能でした。

しかし、日本国内では築22年を過ぎた木造住宅はあまり価値を認められていません。不動産投資による節税効果は永続的なものではなく、限られた年数しかできないのが実態です。

築23年以上の木造住宅は日本国内で買手が減るため、節税し終わった後に物件を売却するのが困難です。また、日本の築古木造住宅は入居者からの人気も低いため、空室リスクが大きな問題となります。減価償却の仕組みを利用して節税しようとすると、日本国内の築古住宅は投資対象として不向きです。

一方で、アメリカでは住宅市場に大量の築古木造住宅が流通しており、築22年を過ぎた木造住宅も問題なく売却可能です。日本とアメリカにおける市場特性の違いを背景として、日本の富裕層の間では特に、節税目的のアメリカ不動産投資が流行しました。

節税効果の事例

不動産投資による節税効果を計算するためには以下の手順を踏んでいきます。

  1. 物件構造ごとの法定耐用年数を確認する
  2. 法定耐用年数を用いて減価償却期間を計算する
  3. 物件購入価格のうち建物部分の価格を特定する
  4. 建物部分の価格を減価償却期間で割り戻す

物件構造ごとの法定耐用年数は国税庁のwebサイトから確認可能です。2021年時点では、RC造住宅の法定耐用年数は47年で木造住宅の法定耐用年数は22年になっています。

※参照:国税庁

不動産の減価償却期間は以下の数式に基づいて計算可能です。

(法定耐用年数 - 築年数)+ 法定耐用年数 × 0.2 = 減価償却期間

築年数が法定耐用年数を超過している場合は、カッコ内の計算結果をゼロとして計算します。また、計算結果の小数点以下は切り捨て可能です。上記の数式に準拠して計算すると、例えば築23年の木造物件では減価償却期間が4年となります。

例えば築23年で建物部分2,000万円の木造住宅を購入すると、物件を購入してから4年間は毎年500万円の減価償却費を計上可能です。

とても大雑把な計算ではありますが、例えば年収2,000万円の人が500万円の減価償却費を計上すると、1年当たりの所得税に関する節税効果は以下のようになります。

投資前の所得税額2,000万円 × 40% = 800万円
投資後の所得税額(2000万円 - 500万円) × 33% = 495万円
所得税の節税効果800万円 - 495万円 = 305万円

海外不動産投資による減価償却費は計上不可能に

税制改正大綱の内容

アメリカ不動産投資は、不動産市場が持つ特徴を利用して大きな節税効果を見込める資産運用方法でした。しかし、2019年末に発表された税制改正大綱で、2022年以降に実施する確定申告では、国を問わず海外不動産に関する減価償却費は計上できなくなりました。

「国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。」とされており、海外不動産に関する減価償却費のみを特定する形で記載されています。

※引用:令和2年度税制改正の大綱

ただし、計上できなくなったのは減価償却費のみとなっているため、修繕費用や管理経費などその他の諸経費についてはこれまで通り計上可能です。海外不動産投資による節税が全くできなくなったわけではありませんが、税制改正によってその節税効果は大幅に縮小されたと言えます。

税制が改正された背景

海外不動産投資による減価償却を狙い撃ちしたかのように税制が改正されたのは、富裕層がこぞって節税目的で海外不動産を購入したことが背景にあります。

富裕層の節税方法には、保険を利用したものやオペレーションリースなど複数の方法があります。しかし、アメリカ不動産投資は最も短期間で大きな節税効果を生み出すものでした。

アメリカ不動産投資を利用した節税は会計検査院という機関からたびたび指摘されていたため、ついに税制が改正されたという経緯です。

減価償却費を計上できなくなった海外不動産投資の今後

主にキャピタルゲインを狙うのが妥当

減価償却費を計上できなくなって節税効果が圧縮された海外不動産投資に関しては、今後主にキャピタルゲインを狙った投資が主流になってくると考えられます。

日本国内では経済成長の停滞や少子高齢化による住宅需要の縮小などが予測されており、他の国と比較すると、不動産の値上がりを促す要因は少ないのが実態です。

しかし、例えばアメリカは先進国でありながら経済成長と人口増加とを継続しているほか、東南アジアの新興国は国として大幅な成長を続けています。

不動産価格が上がりきっていないうちに物件を購入し、長期的な目線でキャピタルゲインを狙っていくのが、今後の海外不動産投資における主な手法と言えるでしょう。

まとめ

海外不動産投資による減価償却は、税法に則った合法的な節税スキームとして多くの富裕層が利用してきました。しかし、税制改正によって海外不動産投資による節税効果は大幅に縮小したため、今後の海外不動産投資に関しては主にキャピタルゲインを狙った手法が主流になってくると考えられます。

日本は少子高齢化や経済成長の停滞などによって今後住宅需要が縮小すると考えられるものの、特に東南アジアの新興国を中心として、長期的なキャピタルゲインを狙える海外の不動産市場は少なくありません。今後の海外不動産投資で失敗しないためには、経済成長率や人口増加率など客観的なデータに基づいて投資先を比較することが重要です。

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