不動産価格の値上がりによって得られるキャピタルゲイン(売買差益)の獲得は、海外不動産投資の大きな魅力の一つです。日本の不動産は、新築時から次第に価値が落ちていくことが当たり前とされていますが、中古物件の価値が高い国や経済成長が著しい国では、時間経過とともに不動産価値が上がっていく可能性があるからです。しかし、国や地域の不動産価格は様々な要因に左右されるため、一般の投資家が値上がり時期や値上がり幅を予想することは非常に難しいと言われています。

一方、不動産を賃貸することで継続的なインカムゲイン(家賃収入)を得る投資は、キャピタルゲイン狙いの不動産投資に比べると安定しやすく、投資家自身が得られる収益をコントロールしやすいというメリットがあります。もちろん、国や地域によって賃貸の難易度が大きく変わるので、物件購入や賃貸を始める際には注意が必要です。

本記事では、先進国や新興国の不動産賃貸事情を比較しながら、賃貸しやすい国や都市、エリアなどについて紹介するとともに、海外不動産投資の賃貸に際して心得ておくべきリスクについて解説していきます。

物件を賃貸しやすいエリアの鍵は経済成長と人口増加

経済成長と人口増加は賃貸需要を向上させる。

当たり前の話ですが、物件を借りてくれる人が多い国ほど、賃貸がしやすくなります。賃貸がしやすい国とは、経済的に成長しており、人口が増え続けている国です。経済成長は国民所得の向上を促し、人口増加は住宅需要を喚起します。

統計などを参照すると、人口増加率の高い国はアフリカや中東に集中していますが、これらの国で日本人が不動産を所有することは現実的ではありません。日本から地理的に近く、ある程度のインフラが整っている東南アジアの国々や先進国の中でも経済成長と人口増加が続いているアメリカなどが狙い目となるでしょう。

たとえば2億4000万人以上の人口を誇るインドネシアは、現在でも毎年500万人以上の新生児が生まれており、国民の半数以上が30歳以下と若い世代の人口比率が非常に高いことで知られています。さらに若いのがカンボジアであり、国民の平均年齢は驚きの24歳。2080年まで総人口が増え続けると言われており、今後の経済成長の可能性も含めて世界中の投資家に注目されています。また、フィリピン、マレーシア、タイなども、インドネシア同様に人口増加率が高く、国民の平均年齢が若い国として知られています。

新興国の首都がおすすめ

先進国と新興国を比較すると、経済成長率と人口増加率については新興国が優位に立っています。2019年の実質GDPの成長率を比べると、日本0.67%、アメリカ2.16%、イギリス1.46%、フランス1.51%、ドイツ0.56%に対して、フィリピン6.04%、マレーシア4.30%、カンボジア7.05%、インドネシア5.03%など、かなりの差がついています。国の将来性を考慮して海外不動産投資を始めるのであれば新興国を検討してみましょう。

ただし、東南アジアの新興国は首都に人口が偏りがちであり、首都から少しでも離れてしまうと人口がかなり少なくなります。また、首都圏と郊外・地方では所得水準に大きな差があるため、投資家として納得できるような家賃設定ができないケースもありますし、管理費用が予想以上に嵩んでしまう可能性もあります。新興国で不動産賃貸を行う際は、フィリピンのマニラ、マレーシアのクアラルンプール、カンボジアのプノンペン、インドネシアのジャカルタ、タイのバンコクなど、今後も人口流入が期待できる首都の物件がおすすめです。

フィリピンのマニラにあるマカティ地区は治安も良く、インフラも整っており、高級コンドミニアムが比較的安価で購入できます。マレーシアのクアラルンプールでは一時的にコンドミニアムの供給過剰が発生しましたが、現在は底を打った状態です。外国人が購入できる不動産の価格規制も緩和されたため、投資のハードルが下がっていると言えるでしょう。

カンボジアのプノンペンでは、高層コンドミニアムの建設が急ピッチで進んでいます。供給過剰に注意しつつ、現地の富裕層や駐在員向けの物件ニーズを見極めておく必要があるでしょう。また、カンボジアでは自国通貨のリエル以上に米ドルが流通しているため、新興国でありながら米ドルで家賃収入を得られるメリットもあります。

先進国はエリアの見極めに要注意

先進国では、人口が増加している地域と人口が減少しているエリアの差が激しいことが多いため、不動産投資を行う際には注意が必要です。

たとえばアメリカは、先進国の中でも高い経済成長率と人口増加率を維持しているため、海外の不動産投資先として人気がありますが、広大な国土の中で人口が分散している状況です。テキサス州やユタ州は、2010〜2018年の間に13.5%も人口が増加しているため不動産賃貸に向いている環境ですが、イリノイ州やウェストヴァージニア州では逆に人口が減少しています。

先進国には様々な特色のある都市やエリアが存在しています。新興国のように「首都一択」という状況ではないからこそ、不動産投資を行う際にもミクロな視点でのデータ分析が必要になります。また、アメリカやヨーロッパに関しては日本との時差が大きいため、現地管理会社とのコミュニケーションが難しくなる場合もあります。可能であれば日系の不動産会社を賃貸管理会社に選ぶとよいでしょう。

海外不動産投資の賃貸で要注意のリスク

為替変動によって収益が目減りすることも

海外不動産投資の家賃収入は現地の通貨で受け取ることになるため、為替の変動によって実際の収益も5〜20%程度の影響を受けます。円高によって現地通貨の価値が下がれば、収益が目減りするリスクがあることを認識しておきましょう。逆に円安によって現地通貨の価値が上がれば、日本円に換金した際に収益が増えるので、一概にデメリットばかりではありませんが、海外不動産投資を行う際には、常に為替を意識して収益を見積もっておくことが大切です。

投資先の国でかかる税金を把握しておく

日本で不動産投資を行う際には様々な税金がかかりますが、海外不動産投資についても同様です。国ごとに税制が異なるため、国によっては非居住者に対する税率が高く設定されているケースもあるようです。賃貸の収益を最大化するためにも、投資先の国で家賃収入を得る際にかかる税金を事前に把握しておきましょう。また、税理士費用なども経費として考慮に入れておきたいところです。

新興国では市況の変化による影響が大きい

先進国よりも新興国の方が経済成長率や人口増加率が高く、不動産賃貸に向いていると説明しましたが、新興国であれば不動産投資が成功するとは限りません。新興国の不動産市場は、先進国など他の経済圏の資金需要や為替変動などにより、流入・流出する資金額が大きく変わり、様々な影響を受けることがあります。

たとえば、他の東南アジアの国々に先駆けて経済発展を遂げたタイの不動産価格は、1997年にタイを中心に発生したアジア通貨危機の影響を受け、1990年代後半から2000年代前半にかけて大きく下落しました。また、数年前のマレーシアでは、中国系の投資マネーが大量流入したことを背景に、不動産の乱開発が進行しました。結果、多くの不動産が売れ残る状況が発生し、大きな社会問題となったのです。このように新興国の不動産市場は、海外の市況変化による影響を受けやすい傾向があることにも留意しておきましょう。

まとめ

海外不動産の賃貸は、順調に運用できれば継続的なインカムゲインが得られる魅了的な投資手法となりますが、今回の記事で解説したように、賃貸に適した国やエリアを慎重に選ぶことが重要になります。また、現地に土地勘がない場合や言語の問題でコミュニケーションに壁があると感じた際には、無理をせずに信頼できる日系の不動産会社に賃貸管理を依頼するとよいでしょう。為替や税金、地政学的なリスクも踏まえた上で、あなたの投資にとって最適な国と物件を探してみてください。

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