令和2年税制改正大綱が、昨年の12月に発表されました。そこで、海外不動産投資を利用した、所得税の大幅な節税ができなくなる対策が講じられています。「海外不動産投資は節税対策になる」という言葉を、聞いたことがある人もいるかと思います。ここではなぜ、海外不動産投資が節税対策になっていたのか。そして、令和2年税制改正大綱よって、なぜ節税対策ができなくなったのかを解説していきます。

1 海外不動産による損益通算ができない

海外の中古不動産を購入して、減価償却費を経費として計上することで、黒字の所得から赤字の所得を控除するという損益通算。これが令和3年(2021年)以降の不動産所得からできなくなります。つまり、海外不動産投資によって行ってきた、大幅な節税対策ができなくなるのです。

2 耐用年数と減価償却費とは

確定申告では、購入した不動産の建物部分の耐用年数などから減価償却費を計算し、経費として計上することができます。つまり、年々建物の価値は下がっていくという前提のもとで、その下がった価値を経費として計上できるという仕組です。

日本では木造建物の法定耐用年数は22年と定められていますので、経費として計上できるので新築の木造建築を購入した場合、22年間は減価償却費を経費として計上できます。また、築22年を超えた木造建築でも減価償却費を計上することができます。そのためには、簡便法という計算式を使用して耐用年数を出していきます。

簡便法による築22年を超えた木造建物の耐用年数を出す計算式
22(法定耐用年数)×20%=4(小数点切り捨て)

築22年を超えた木造建築の耐用年数は、すべて4年となります。つまり、減価償却費を4年間は経費として計上できるのです。そして、このルールは海外不動産にも適用可能。その部分が所得税の節税対策に、大きく関わっているのです

3 減価償却費によって赤字にする

上記の計算式を当てはめて、5000万円の新築の木造建築と築22年を超えた木造建築の経費として計上できる減価償却費を出してみます。

新築の木造建築の場合
1÷22(耐用年数)=0.046(小数点4桁を切り上げ)
5000万円×0.046=230万円

 築22年を超えた木造建築の場合
1÷4(耐用年数)=0.25
5000万円×0.25=1250万円

新築の木造建築の場合は、22年間にわたり毎年230万円の減価償却費を経費として計上できるのに対し、築22年を超えた木造建築は4年間にわたり1250万円を計上できるのです。この築22年を超えた木造建築が年間500万円の純利益をあげたとしても、750万円の赤字として確定申告では扱うことができるのです。

4 損益通算で所得が少なくできる

例えば、年間1500万円の給与を受け取っている会社員がいるとして、その人が先程減価償却費を計算した、築22年を超えた木造建築を購入したとします。この木造建築は年間750万円の赤字ですので、1500万円の年収から750万円の赤字を引いた750万円分の税金を納めればよいことになります。ある所得が黒字でも他の所得が赤字だと、差し引き計算した額を合計所得額として申告できるのが損益通算になります。
逆に新築の木造建築をこの人が購入したら、1500万円の年収に270万円の不動産利益[500万円(年間の純利益)−230万円(減価償却費)]が加わって、1770万円分の税金を納めることになります。所得税の差が倍以上に変わっていきます。

5 海外不動産にも適用される

この減価償却費が日本の木造建築だけに適用されていれば問題はありません。なぜなら、新築が最も価値が高く、築年数が経てば経つほど建物の価値が下がる傾向にあるのが、日本の不動産市場だからです。しかし、減価償却費は海外の不動産にも適用されています。
アメリカなどでは日本よりもはるかに木造建物の寿命が長く、築22年を超えたとしても建物の価値や家賃が下がりにくい傾向にあります。その結果、22年の耐用年数を超えた海外の中古木造建築を購入した場合、4年という短期間でたくさんの減価償却費を経費として計上して、確定申告の際に所得を少なくできます。その後、減価償却費が計上できなくなる4年後に物件を売却しても、購入時と同等の価格で売ることが可能なのです。
海外不動産投資による節税は、日本の不動産市場とは逆の価値を持った海外の不動産市場を利用するからこそ可能にした、節税方法だったのです。

6 減価償却費が計上できなくなる

令和2年税制改正大綱が発表され、令和3年(2021年)から確定申告などで海外不動産の所得を計算する際には、建物の減価償却費を経費として計上できなくなります。これによって、海外の築22年を超えた木造建築で行っていたような損益通算ができなくなるのです。そのため、節税を目的した海外不動産投資が難しくなったのです。

7 まとめ

今後の海外不動産投資においては、これまでの様に節税対策に向いた物件を探すことができなくなります。そのため、将来不動産価値が上がり、キャピタルゲインが見込める物件。安定的に家賃収入などのインカムゲインが期待できる物件などが、より注目されることとなるでしょう。インターネットによって、海外不動産の情報を手に入れやすい状況になっています。しかし、キャピタルゲイン・インカムゲインを狙うには、より詳細な不動産情報が必要不可欠です。今回の税制改正大綱を、海外不動産の情報収集に力を入れるきっかけにしてみてはいかがでしょうか。

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