海外不動産投資はキャピタルゲインや所得税の節税対策になることから注目されています。しかし、所有している海外不動産を相続する場合、日本国内の不動産のように相続税対策になるのでしょうか。

この記事では、不動産投資が相続税対策になる仕組みから、海外不動産投資の相続税評価額、海外不動産が相続税対策になるのかについて詳しく解説していきます。海外不動産の購入を検討している方は参考にしてみてください。

※この記事は2019年8月時点の情報に基づいて作成しております。

1 相続税が海外不動産にも課される理由

日本に住んでいる方は、国内外を問わず生じた所得に対して課税されることになります。そのため海外に保有する不動産を相続した場合も相続税の課税対象となります。相続税率は取得金額によって変わり、1,000万円以下の場合は10%、6億円を超えた場合は55%(ただし7,200万円の控除適用あり)と累進課税方式になっています。

なお、現地でも相続税が課される場合がありますが、外国税額控除制度により現地で支払った相続税は、日本で支払う相続税から控除することができます。

1-1 相続税が課せられる国

海外不動産を購入する際には、現地で相続税を支払う必要があるのかどうかを確認しておくとも大切です。例えば東南アジアの人気投資先であるタイは、2016年2月1日から相続税制度を導入しました。

課税対象者として、タイ国内の財産を相続する外国人も含まれているため、非居住者が不動産を相続する場合には現地で課税されます。1億パーツを超えるぶんに関しては、課税対象資産を相続した際に相続人は10%の相続税を支払います。ただし相続人が直系の親族や子、孫の場合には5%になります。一方、フィリピン、マレーシア、カンボジアには相続税がありません。

節税対策として人気のアメリカでは遺産税という名称で課税されています。最高税率は40%ですが、基礎控除額が1,140万ドル(約12億円)あるので、あまり気にしないでも良いでしょう。ただし、州によっては独自の遺産税を課税しています。課税する州と基礎控除額は次の通りです(2019年8月時点:Investpediaより)。

州名

基礎控除額

コネチカット州

360万ドル(約3億7,800万円)

コロンビア特別区

568万ドル(約5億9,800万円)

ハワイ州

549万ドル(約5億7,800万円)

イリノイ州

400万ドル(約4億2,100万円)

メリーランド州

500万ドル(約5億2,700万円)

マサチューセッツ州

100万ドル(約1億540万円)

ミネソタ州

270万ドル(約2億8,400万円)

ニューヨーク州

574万ドル(約6億500万円)

オレゴン州

100万ドル(約1億540万円)


州に支払った遺産税は、日本での確定申告時に控除できます。現地で相続税が課税されなくても、日本ではきちんと申告して支払う必要があります。

2 海外不動産の相続税評価額とは

相続税は相続税評価額に対して課税されます。建物の価値を決める方法は日本と海外とで異なる場合もあるため、相続税評価額も変わることになります。

2-1 国内不動産の相続税評価額

日本国内の不動産を相続する場合、その相続税評価額は不動産を相続した時点での換金価値ではなく、国税庁が定める評価方式に従います。そして不動産は土地と建物に分けて、それぞれの評価額を出します。

土地の相続税評価額は、市街地であれば路線価方式で、それ以外の路線価が定められていない場所は倍率方式で計算します。倍率方式とは、その土地の固定資産税評価額に一定の倍率を掛けるものです。例えばマンションの場合、その物件が建つ土地の路線価にマンション全体の土地の面積を掛けて、あとは持分を割り出します。

一方、建物の相続税評価額は固定資産税評価額を使います。なお、建物を賃貸に出している場合(=貸家建付地)、財産評価額は70%に引き下げられます。これは、借家権割合と賃貸割合を乗じた価額を控除するためです。

賃貸をしていると、借り手に借家権(賃貸契約を更新する権利を有するというもので、不動産の所有者の独断で賃貸契約を解除することができない)が発生します。相続した不動産を賃貸している場合には、建物の取り壊しなどを自由にできないため、相続税評価額から一定額の控除ができるという仕組みです。

相続する不動産を全て賃貸していれば賃貸割合は100%になり、借家権割合は日本全国どこでも30%になります(2019年8月時点)。固定資産税評価額から30%を控除して、残りが課税対象となります。

2-2 減価償却期間が過ぎている建物の固定資産税評価額

減価償却期間が過ぎたからといって、その建物の固定資産税評価額はゼロになるわけではありません。総務省が定めている「固定資産評価基準」によると、建物の固定資産税評価額は、再建築する場合に必要な費用に対してどの程度経年劣化しているかという形で計算されます。

そしてその経年劣化を計算する際に、最低経年減点補正率というものを定めており、これが0.2となっています。そのため建物はどれほど劣化していても、新築時の2割未満には評価額は下がらない仕組みになっています。

2-3 海外不動産の相続税評価額

国税庁が定めるところによれば、海外の財産に関しては、基本的に国内の財産と同じように評価します。しかし、路線価や固定資産税評価額は、日本国内にある土地・建物を対象とした日本独自の計算方法となるため、海外の不動産には適用できないこともあります。

そこで国税庁は、国内と同様に評価できない場合、売買実例価額や専門家の評価に基づいて計算するよう求めています。具体的には、不動産鑑定士や不動産会社といった専門家に依頼して、海外不動産の公正市場価値(不動産の売り手と買い手が取引において合意する価格)を判断してもらうことになります。

3 海外不動産は相続対策になる?

国内不動産が相続税対策になるのは、相続税評価額が時価よりも低くなるからです。現金をそのまま相続するよりも不動産に換えたほうが、相続税は安くなります。

土地は基本的に路線価を評価額とし、時価の70~80%程度の額になります。また、建物の相続税評価額は固定資産税評価額をそのまま適用し、不動産をすべて賃貸に出していれば、土地と建物の両方の相続税評価額から30%の控除をすることができます。これが、国内不動産が相続税対策になる理由です。

3-1 海外不動産はあくまでも時価で評価される

しかし、海外不動産の場合は路線価や固定資産税評価額がないため、時価での評価となります。この時価は、実際に売却に出した場合に買い手との価格合意ができると判断される価格が目安になります。売り出し価格や希望価格ではありません。

日本では賃借人の賃貸契約を更新する権利を保障する借地借家法に配慮して、不動産を賃貸に出している場合に、相続税評価額は30%控除できるようになっています。

そのため賃貸に出している海外不動産に対しても、国内と同じように相続税評価額から一定の割合で控除できればある程度の節税効果を望めますが、海外不動産投資として人気の東南アジアやアメリカでは、そのような賃借人の権利を保障するような法律はありません。

賃貸をしている国内不動産のように、土地と建物の相続税評価額から一定額の控除をすることができないため、時価評価額に対して相続税が課せられることになります。海外不動産では相続税対策としての節税効果は望めないと言えるでしょう。

3-2 むしろ相続税が大きくなる可能性にも注意

海外不動産の時価が購入時よりも相続時に上昇していれば、予想外に相続税が大きくなりうることにも留意しておきましょう。購入してから年数が経てば建物も劣化するため、時価は下がるのではないかという考え方もありますが、実際には新興国の投資用不動産は値上がりによるキャピタルゲイン狙いで購入されるケースが多いほどです。

人口増加や都市開発が予定されたエリアにあれば、購入時よりも評価額が上昇する可能性は高くなります。実際に、東南アジアの新興国におけるコンドミニアムは、まだ価格が上昇しています。また、節税対策として人気のアメリカも不動産相場は上昇しています。人口増加が続いている上、新築物件が少ないというのも理由です。経済が安定して拡大していることも背景にあります。

さらにアメリカの不動産は、建物のメンテナンスがしっかりしているため、日本のように経年劣化で評価額が大きく下がるということもありません。このように相続税について物件購入時の時価で想定していると、予想外に税金の支払いが多くなる可能性にも注意しましょう。

3-3 海外不動産の相続税評価額を少しでも下げたい場合

海外不動産の相続税評価額を少しでも下げたい場合には以下の方法があります。アメリカでは相続税や贈与税に絡む不動産の評価額に対して、政府機関のIRS(アメリカ合衆国国内歳入庁)が監視しています。周辺相場よりも不当に安い評価額を設定していないかをチェックする機関です。

なお、周辺相場については、相続税の対象となっている不動産のメンテナンス状態等によって単純比較することはできないため、アメリカでは不動産の評価方法として次のようなものがあります。

①コスト・アプローチ法
対象となる不動産と同じものを建設するのにどの程度のコストがかかるのかという計算方法
②インカム・アプローチ法
賃貸に出して得られるインカムゲインから不動産の価値を算出する方法
③マーケット・アプローチ法
第三者取引データなどに基づいた評価方法


海外不動産の相続税評価額について、日本の国税庁は「専門家の意見を参考にして評価額を決定すること」としていますが、上記のいずれかの方法により専門家が計算し、提出された金額を相続税評価額とすることも可能です。3つの方法の中から最も評価額の低い金額を適用すれば、相続税の引き下げを期待できます。

3-4 相続税対策にはならないが別の節税効果はある

海外不動産を相続税対策として活用するのは難しいですが、代わりに日本の不動産にはない様々な特徴があります。不動産相場の値上がりによるキャピタルゲインや、所得税・住民税の節税効果が高いことなどです。

相続税対策として不動産を購入する場合は国内不動産を検討し、値上がり益や資産価値の高い不動産で所得税圧縮などを狙う場合は海外不動産を検討するなど、上手に使い分けることが大切です。

4 まとめ

海外不動産の相続税評価額を計算する際、日本の路線価や固定資産税評価額が適用できない場合は、時価により決まることになります。時価は売買実例価額や専門家の評価によるため、相続税評価額の引き下げを期待することはできません。

しかし、海外不動産には国内不動産を保有するよりも高い収益が期待できるメリットもあるため、相続することになったとしても結果的に国内不動産よりも収益が得られるのであれば、海外不動産の購入を検討する価値はあると言えるでしょう。