海外新興国の不動産投資は、日本国内よりも大きな収益が期待できることで人気があります。著しい経済成長を背景に不動産相場が上昇しており、物件を完成前に取得して高く転売すればキャピタルゲインが期待できます。ただし、新興国不動産には為替によって収益が増減したり、外国人に対する規制が急に強まったりと政治的・社会的な不安定要素がリスクになることもあります。
そこで、この記事では新興国における不動産投資のメリットとデメリットについて詳しく解説します。新興国の不動産投資を検討している方は参考にしてみてください。
1 新興国不動産投資のメリット
新興国では高い経済成長率を背景に、海外からの投資マネーの流入により不動産相場を押し上げられています。その結果、外国人が購入できるコンドミニアムの価格も上昇していることから、転売時にキャピタルゲイン(物件の売却により得られる利益)を狙うことができます。
1-1 日本よりキャピタルゲインを狙いやすい
特に新興国の不動産投資では、プレビルドという完成前の物件を安く購入して、完成後に転売する手法が人気です。コンドミニアムは完成までに数年かかるため、デベロッパーは建設資金を集める目的で事前販売を行います。
プレビルドのコンドミニアムを早い段階で購入すると、例えば10%以上の割引価格で取得できることがあります。現金で支払う場合、さらに割引率が高くなるケースもあります。また、新興国のコンドミニアムは後述するように比較的安く購入できるため、高利回りによるインカムゲイン(家賃収入)を狙うこともできます。
日本を含めた先進国の賃貸需要は人口減少を背景に低下傾向ですが、新興国の海外投資家が購入するコンドミニアムの賃貸需要は増加傾向にあります。借り手としてターゲットになるのは、高い家賃を支払える海外の駐在員や移住者になります。最近は世界からの企業進出などにより外国人居住者が増加しており、それが新興国の賃貸需要上昇にもつながっています。
・日本と新興国の賃貸利回り比較
日本(東京) | 2.66% (2017年) |
タイ(バンコク) | 5.13% (2019年) |
フィリピン(メトロマニラ) | 6.13% (2016年) |
マレーシア(クアラルンプール) | 3.72% (2017年) |
カンボジア(プノンペン) | 5.33% (2012年) |
ただし、一部の新興国や都市部では物件の過剰供給状態となっており、賃貸需要が見込めないようなエリアも出始めています。そのため、今後新興国で物件やエリアを選ぶ際は、人口流入や都市開発が見込めて、かつ低価格で取得できそうな場所を選ぶことがポイントになってくるでしょう。
1-2 少額投資が可能
新興国の不動産価格は都市部であっても日本と比較すれば安くなります。東南アジアを中心に新興国の不動産価格(1㎡当たり)を日本と比較すると次の通りです。
日本(東京) | 16,322ドル (2017年) |
タイ | 5,266ドル (2019年) |
フィリピン | 3,952ドル (2016年) |
マレーシア | 3,441ドル (2017年) |
カンボジア(プノンペン) | 2,913ドル (2012年) |
例えば、タイは不動産投資先として特に人気のある国なので、不動産相場もかなり上昇しています。一方、経済成長が著しいカンボジアは、価格の安さが大きな特徴となっています。
1-3 投資リスクの分散に繋がる
購入価格が安い新興国のコンドミニアムであれば、複数のエリアに分散して購入することが可能になります。国によって経済成長の度合いは異なり、今後の不動産相場も大きく変化する可能性はあります。
そこで複数の国に分散して不動産投資をすることで、後述するような為替リスクや価格下落リスクなども分散することができます。
2 新興国不動産投資のデメリット
新興国の不動産投資は、キャピタルゲインといったメリットばかりに注目するのではなく、下記のようなデメリットやリスクにも注意することが大切です。
2-1 融資を受けにくい
日本で投資用不動産を購入する場合、物件の収益性を主な担保として、金融機関から事業用ローンを借りることができます。一方、海外の不動産を購入する際は、国内の金融機関で融資をするところはほとんどないのが現状です。
一部の銀行や日本政策金融公庫で融資を受けることは可能ですが、担保となる国内の不動産を所有していたり、不動産投資の経験が必要になったりするなど、借り入れ条件は厳しくなります。また未完成物件のプレビルドコンドミニアムに対しては、通常、融資は下りません。
そのため、新興国のコンドミニアムを購入する場合、現金を用意するか、デベロッパーが提供する金利の高いインハウスローン(IHL)を借りることになります。ただし、インハウスローンは物件を建設している間にも支払いが発生するので、物件が完成して賃貸借が開始するまで手持ち資金で残金の支払いを負担する必要があります。
このほかにも税金の支払いや手数料が発生することがあるため、海外不動産投資では現金を多めに準備しておくことが大切です。
2-2 為替リスク
新興国の不動産を購入する際は現地通貨で支払うことになります。そのため、購入時の為替レートと収入を得た時点での為替レートの差によっては、為替差損が発生することがあります。他方、新興国は高い経済成長力を背景に金利も高く推移しています。そのため円に対して新興国通貨が高く推移して円安になれば、為替差益が発生する可能性もあります。
もっとも輸出産業を主な収益源とする新興国の経済成長は、先進国の経済に支えられている側面があります。アメリカで利下げ観測があるように、世界経済はこれから減速することが予測されています。そうなれば新興国にも影響が及び、通貨安につながる可能性もあるでしょう。
そうなると円に対して新興国通貨は下落することも考えられるので、今後は円高に伴う為替差損のリスクにも注意が必要になります。
2-3 政治不安定リスク
新興国では不安定な政治情勢がリスクになる場合もあります。例えば2018年5月にはマレーシアで初の政権交代がありました。その結果、中国の「一帯一路」構想の一環として進められていた大規模な鉄道計画が一時中止に追い込まれたという経緯があります。
現在、マレーシア国内では投資環境の改善を望む声は多いですが、外資規制強化の流れに向かえば外国人の不動産購入にも規制がかかる可能性はあります。また、新興国は政権交代により経済が失速することもあり、世界から集まっている投資マネーも引き上げられれば、不動産相場も影響を受けることもあるでしょう。
そうなればキャピタルゲイン狙いで購入したコンドミニアムを希望の価格帯で売ることができず、損失につながる可能性もあります。
3 不動産投資で人気の新興国
新興国の中でも、不動産投資先として特に人気のある国をご紹介します。
3-1 カンボジア
カンボジアは持続的に経済発展を続けている国のひとつです。アジア開発銀行によれば経済成長予測値は2019年7.0%、2020年6.7%と高い数値を維持する見込みです。このような強い経済成長を背景に、カンボジアの不動産市場には世界中から投資マネーが流入しています。過去10年間でカンボジアへの外国投資は不動産を含めて800%増加しました。
なお、カンボジアの不動産取引では①ソフトタイトル、②ハードタイトルという2つの権利書が存在します。そのためコンドミニアムを購入する際には、売主が所有権に関する権利書をしっかりと持っているかどうかを確認することが大切です。
①ソフトタイトル | カンボジア不動産の約85%を占めるもので、地方自治体の役場でお金を払えば発行されるものです。占有権は主張できても、所有権を主張するものではない点に注意が必要です。 |
② ハードタイトル | 国土省の管轄下にある登記所に正式に登記されている権利です。 |
3-2 タイ
タイは経済回復と東南アジアのハブ的役割から輸出関連を中心に経済成長が続いています。不動産投資先としても平均賃貸利回り7%と高いのが特徴で、海外駐在員や移住者の増加による安定した賃貸需要があります。そして製造業・サービス業・観光業による経済発展が、さらなる不動産相場の上昇を期待させます。
なお、タイで不動産を賃貸する場合は、レンタル期間によって次の3つのケースに分かれています。それぞれのケースによって家賃相場が異なります。
- 長期レンタル:契約期間1年~3年
- 短期レンタル:契約期間1ヵ月~11ヵ月
- 休日レンタル:契約期間1週間~1ヵ月
タイで物件を選ぶ際はエリアごとの賃貸需要を調べてから購入するようにしましょう。また、新興国の不動産投資でネックとなるのが所有権の有無ですが、タイの不動産市場は地元の不動産ブローカーや法律事務所により適切な手続きを取ることで、しっかりとコンドミニアムの所有権を取得できます。
3-3 フィリピン
首都マニラのコンドミニアム価格は年間およそ10%前後上昇しています。賃貸でもマカティCBD、フォートボニファシオ、ロックウェルといった地域では上昇しており、マニラ首都圏における賃貸利回りは45㎡のコンドミニアムで約7%となっています。マニラ首都圏のなかでも注目のエリアは次の3つです。
マカティ
フィリピンの金融中心地として日本を含めた多国籍企業が集まるエリアです。富裕層向けのハイエンドコンドミニアムが多く、賃貸需要も見込めることから不動産投資先として人気があります。
ボニファシオ・グローバル・シティ
金融と商業の中心都市です。高級コンドミニアムやショッピングモールが多く、マカティよりも不動産相場はやや安いことで人気があります。
オルティガス
ビジネス地区であり、国際企業やホテル、商業モールが集まっています。さらにケソン市・パシグ市・マンダルヨン市に接しアクセスが良いことから、賃貸利回りの良さでも人気があります。
3-4 ベトナム
中間層の拡大が続くベトナムの実質GDP成長率は、2016〜2018年にかけて7%前後となります。一人当たり名目GDPは同期間で2,215ドル(約23万円)から2,590ドル(約27万円)へと大きく上昇しています。ベトナムは経済成長を背景に外資が流入し、今後も経済成長が期待されています。
ベトナム最大の都市ホーチミンでは人口増加が続き、労働局の統計によると2018年末までの労働許可を得た外国人は約4万8,000人にのぼるとされており、賃貸需要の増加も期待されています。
3-5 マレーシア
移住先としても人気の高いマレーシアは、不動産投資先としても人気があります。マレーシア最大の都市クアラルンプールは、住みやすい街として人口が増加しています。市内には数千種類のショッピングモールやレストラン、さらにインターナショナルスクールや観光スポットがあります。
なお、マレーシア政府が税制改正で100万リンギットを超える資産に対する印紙税を3%から4%へ引き上げたことにより(2019年1月1日以降)、不動産需要はわずかに減速しています。このように、マレーシアでは税制面に関する情報を随時仕入れる必要があるでしょう。
4 まとめ
経済成長を背景に世界中から投資マネーが流入している新興国の不動産投資は、今後もキャピタルゲインが見込めるでしょう。しかし世界経済の動向によっては経済成長の失速も考えられ、さらに為替の変動による影響にも注意が必要です。
新興国で不動産投資をする際は、このような細かい変化を常にチェックしながら、運用することが大切です。