人口増加や経済成長が堅調な海外不動産への投資に対する注目度が高まっています。東南アジアなどでは不動産価格の上昇が見込めることからキャピタルゲインを期待できるほか、中古でも建物価値が高い欧米不動産はスピード償却による節税効果が見込めます。

では実際、海外不動産投資を始めるにはいくら必要になるのでしょうか。この記事では海外不動産投資にかかる費用から、海外不動産投資では難しいとされるローンの利用方法、おすすめの投資対象国をご紹介しますので、参考にしてみてください。

1 海外不動産投資にかかるお金

日本で投資用不動産を購入する場合、投資ローンを組み、家賃収入で月々のローンを少しずつ返済していくというスキームが一般的です。一方、海外の不動産を購入する場合は、国内のようにローンを借りるのは容易ではないため、現金で購入するケースやローンを借りる場合も頭金を多く入れることが必要となってきます。

以下では、海外不動産投資を始めるにあたって、物件の価格や諸費用、ローンを借りる場合の頭金などについて詳しく見ていきたいと思います。

1-1 海外の物件価格

現在経済成長が続く新興国では、都心部を中心にコンドミニアムの建設ラッシュとなっているため、物件価格も高水準となってきており、以前よりキャピタルゲインを狙うことは難しくなってきています。

その一方で、まだ手頃な価格で購入できる国・エリアもあります。例えばカンボジアのコンドミニアム平均価格は㎡あたり1,400米ドル(約15万円)です。これは前年同期比で5%上昇した価格となります(2018年第3四半期 Global Property Guideより)。

ミッドレンジのコンドミニアムでは㎡あたり2,600米ドル(約28万円)、ハイエンドクラスでは3,250米ドル(約35万円)です。ハイエンドクラスとなれば、50㎡で2,000万円近くになりますが、ミドルレンジ以下のクラスであれば、1,000万円前後で購入できます。

1-2 ローンが組めるなら頭金を用意する

海外不動産をローンで購入できる場合は、頭金を用意することになります。日本での物件購入とは異なり、海外不動産の購入では100%融資が降りることはほとんど無いため、購入金額の数割程度の頭金が必要です。

なお、フィリピンのコンドミニアムのようにデベロッパーや売主の指定する支払い方法によっては、頭金を分割できる場合もあります。

1-3 購入時の諸費用

日本の不動産を購入する際は、中古物件なら仲介手数料が必要になります。このほかにローンの保証料や事務手数料、保険料や司法書士への報酬などさまざまな諸費用が発生します。一方、海外では国によって必要となる諸費用が違います。

例えばマレーシアで不動産を購入する場合、2019年現在、次のような諸費用が必要になります。

頭金
売買代金の10%ほど(ローンを組んでプレビルド物件を購入する場合)
印紙税
売買代金の1~3%(物件価格により異なる)
契約書作成費用
売買代金の1%程度
住宅ローン申請費用
ローン総額の0.4~1.0%程度
州政府合意取得費用
3万円前後


フィリピンの場合は、以下のような諸費用があります。

頭金
売買代金の10~30%ほど(ローンを組む場合)
印紙税
売買代金または市場価格の1.5%
公証費用
市場価格の1〜2%
地方譲渡税
売買代金または市場価格の0.5〜0.75%
登録費用
売買代金の約0.25%
エージェント料
売買代金の3~5%


ハワイの場合には、次のような諸費用がかかります。

エスクロー利用料
購入価格の1~2%ほど(エクスロー会社に支払う)
タイトル保険料
不動産売買や購入価格を保証し購入後の事故による損害に対しての支払いをするもの
住宅ローン手数料
借入額の2%前後(住宅ローンを利用する場合)


このように、国・地域によって諸費用の内容は異なるため、購入時にいくら用意すればいいのかを事前に調べておく必要があります。

2 海外不動産の種類と価格の目安

海外不動産を購入する場合、国によっては外国人である非居住者に対しては規制をかけていることがあります。投資用として購入できる不動産の種類は、主に「戸建て住宅」と「コンドミニアム」に分かれます。

2-1 戸建て住宅

土地付きの戸建て住宅は、非居住者でも土地の所有が認められている国のみで購入できます。なお東南アジアなどの新興国では外国人の土地所有は禁じられているため、欧米で購入することが多くなります。例えば世帯収入に対して割安とされるアメリカ中古住宅価格(中央値)は、27万7,700米ドル(約3,000万円)となります(National Association of Realtorより)。

また、日本人に人気が高いハワイ・ホノルルの住宅価格は2019年平均で76万7,500米ドル(約8,300万円)となっています(Honolulu Board of Realtorsより)。

2-2 コンドミニアム

コンドミニアムはたいていの国で購入できますが、住宅価格が上昇を続けている新興国の中には依然として安く購入できるエリアもあります。コンドミニアムはプレビルドと呼ばれる形式で新築物件を購入するスタイルになります。建設前に販売価格よりも安く購入でき、完成までに数年かかることがありますが、売却によりキャピタルゲインを狙えるのが特徴です。

フィリピンのコンドミニアム価格を見てみます。首都マニラの東南に位置するマカティ市CBD(中心業務地区)では2018年時点で㎡あたり平均4,371米ドル(約47万円)となっています(Global Property Guideより)。

プレビルドのコンドミニアムは物件代金を購入申し込み時に一括で支払えば5~10%の割引価格で取得できます。最初に頭金として20~50%を支払い、竣工時に残額を支払う場合には5%程度の割引率になります。

頭金も分割で支払う場合は、割引が無くなることもありますが、金利を支払う必要が無いため、ローンを組んで一括で支払うよりも総額の支払い負担は少なくなるといったメリットもあります。

3 価格が安いおすすめ投資対象国

欧米の不動産相場は高く、アジアでもシンガポールや香港も価格が高騰しています。しかし経済成長力が高い新興国の中にもまだ手頃な価格でコンドミニアムを購入できる国があります。

3-1 タイ

首都バンコクのコンドミニアム価格は、2019年5月時点で㎡当たり5,000米ドル前後(約54万円)となります。物件購入価格は35万米ドル(約3,800万円)ほどで、賃貸利回りは5%前後です(Global Property Guideより)。

タイには多くの投資マネーが流入し、不動産相場も上昇しています。利回りもさほど高くないので、なるべく現金で購入するのが良いでしょう。

3-2 フィリピン

マニラ首都圏では㎡あたり3,000~4,000米ドル(約32〜43万円)となります(Global Property Guideより)。45㎡で13万米ドル(約1400万円)ほど、80㎡で27万米ドル(約2900万円)ほどとなっています。賃貸利回りは7%前後です。

マニラの中でも治安の良い「イーストウッド・シティ」では、㎡当たり2,000米ドル(約21万円)ほど、50㎡のコンドミニアムで10万米ドル(約1000万円)ほどとなります。賃貸利回りは7%以上です。

フィリピンは海外不動産投資先として人気がありますが、メトロマニラなど中心部ではすでに価格は高騰しています。ただし、エリアを厳選すれば安く購入できるところも見つかります。

3-3 マレーシア

マレーシアの場合、2017年11月時点で首都クアラルンプールの販売価格は1ベッドルームで200,000~300,000米ドル(約2,100〜3,200万円)となっています。賃貸利回りは4%前後です。

不動産価格は年間で数%ずつの上昇と緩やかですが、購入単価も安いため不動産投資初心者の方でも購入しやすいエリアと言えます。

4 海外不動産購入でローンを利用する際の注意点

海外不動産購入でローンを組む方法はおもに2つあります。①現地の銀行から借りるか、②国内の金融機関を利用するかです。それぞれに注意点があるので解説していきます。

4-1 現地の銀行を利用する際の注意点

海外不動産を購入する際に住宅ローンが組める海外の銀行はいくつかありますが、金利が高く、頭金を購入金額の数割分ほど用意する必要があります。経済成長が著しく高金利となっている国で組むため、住宅ローン金利も高めの設定です。

また頭金が多い理由には、海外での不動産への融資が「ノンリコースローン」であることが挙げられます。ノンリコースローンとは、投資物件の収益から銀行が返済原資を回収するもので、担保価値が残債を下回らないように常に銀行がチェックします。

そのため、残債と担保価値の比率をできる限り低くするために、融資限度額は低く設定されます。その代わりに、返済が滞った場合でもローンの残債は残らずに物件を没収されるだけなので、利用者にとってはリスクが少ないという特徴があります。

海外不動産で融資を受けやすいHSBC銀行でマレーシアの不動産購入時に融資を受ける条件は、以下のようになっています。

  • マレーシアのHSBC銀行で口座を開設
  • 20万リンギット(約527万円)以上の預金をしてプレミアム会員になる
  • 融資限度額が物件購入金額の最大85%

他方、マレーシアの場合は、現地銀行でも非居住者である外国人が住宅ローンを利用することができます。ただし、融資限度額は購入価格あるいは評価額の低いほうに対して50%までとなります。支払いスケジュールは、頭金50%のうち、10%を売買契約時に、残りの40%を最初の工事完了通知時に支払う形となります。

なお、現地銀行でローンを組む場合は、為替による影響を受ける点にも注意します。ローンの契約を結んだ時点から円安に振れると、実質的な支払額が増えるリスクがあります。

4-2 国内の金融機関でローンを組む際の注意点

現状、日本で海外不動産の購入時にローンを組める金融機関は限られています。例えば「日本政策金融公庫」は海外不動産に対して融資をしていますが、その条件は厳しく設定されています。

基本的には「法人としてすでに不動産賃貸業を行っている」こと、「海外展開する必要性をきちんと理由付けできる」ことが条件です。そのため、初めて不動産投資を始めようと考えている個人の方が、日本政策金融公庫に海外不動産の融資を申し込むことはできません。

次に、海外不動産の購入に使えるローンを提供しているのが「オリックス銀行」です。こちらは国内で所有する不動産を担保として融資をする形となり、そのお金を海外不動産の購入資金に充てることができます。いわゆるフリーローンとしてお金を借りることになります。

なお、融資条件として「国内で担保にできる不動産を所有していること」と「物件の対象となるエリアが限定されていること」が課題になります。担保対象となるのは、首都圏・近畿圏・名古屋市・福岡市の居住用不動産です。

このように国内で海外不動産の購入時にローンを借りるのは難しいですが、不動産会社が開催しているセミナーに参加すると融資付けに関する相談に乗ってもらえることがあります。現金を多く用意するのは難しいという方は、検討してみると良いでしょう。

5 まとめ

海外不動産は新興国やアメリカの一部でも手頃な価格から購入可能です。ただし、いずれも現金を多めに用意する必要があるため、不足分をどのように調達するかがポイントになります。

現地銀行から借りる場合は為替の影響を受ける点について、国内金融機関から借りる場合は条件面をよく調べるようにしましょう。