さまざまな税金が課せられるなかで、どのように節税対策を行えばよいか悩まれている方も多いのではないでしょうか。また、老後やこれからのライフプランに向けた資金を準備するためにも、節税対策をしながら、資産運用を行うことが重要となってきます。

そこで、今回の記事では、個人で始められる所得税の節税対策10選を紹介します。不動産投資をはじめ、資産運用と同時に節税効果を得られる方法も解説するので、気になる方はぜひ参考にしてみてください。

所得税とは

所得税とは、個人に課せられる税金の1つです。毎年1月1日から12月31日までの1年間におけるすべての所得から、所得控除を差し引いた金額に対して一定の税率を適用したうえで算出されます。

所得税の仕組み

所得税の税率は、「超過累進税率」が採用されています。超過累進税率を簡単に説明すると、所得が高い人ほど、所得税が高くなる仕組みです。

個人所得税の税率(※1)

課税所得金額
税率
控除額
1,000円から1,949,000円まで
5%
0円
1,950,000円から3,299,000円まで
10%
97,500円
3,300,000円から6,949,000円まで
20%
427,500円
6,950,000円から8,999,000円まで
23%
636,000円
9,000,000円から17,999,000円まで
33%
1,536,000円
18,000,000円から39,999,000円まで
40%
2,796,000円
40,000,000円以上
45%
4,796,000円

また、サラリーマンの方は、毎月の給与から「源泉徴収」という形で所得税が天引きされます。徴収した所得税は税務署に納付されますが、毎年12月に年末調整を実施し、所得税額の細かい調整や、過不足が生じた際の追徴・還付を行います。

個人で始められる所得税の節税対策10選

所得税は、さまざまな方法で節税を行えます。個人で始められる節税対策10選を紹介するので1つ1つ確認していきましょう。

1.生命保険料控除

1つ目は、生命保険料による控除です。生命保険料の控除とは、生命保険料や介護保険料、個人年金保険料といった保険料全般を支払った際に、所得を控除する方法です。

2012年1月の生命保険料控除制度改正に伴い、それ以降に加入した場合は以下の計算方法が適用されます。1点注意しておきたいのは、生命保険料の控除限度額は、生命保険と介護保険、個人年金保険の3つを合わせて12万円までです。

2012年1月以降の生命保険料控除(※2)

年間の支払保険料控除額
2万円以下
支払保険料の全額
2万円超 4万円以下
支払保険料×1/2+1万円
4万円超 8万円以下
支払保険料等×1/4+2万円
8万円超
一律4万円

2.地震保険料控除

地震保険料の控除は、所得税を納付する納税者本人が地震保険や、旧長期損害保険契約の保険料を支払った際に適用される控除です。なお、地震保険・旧長期損害保険契約の両方を支払っている場合は、最大5万円の控除が適用されます。

・地震保険料(※3)

年間の支払保険料
控除額
5万円以下
支払金額の全額
5万円超
一律5万円

・旧長期損害保険

年間の支払保険料
控除額
1万円以下
支払金額の全額
1万円超 2万円以下
支払金額×1/2+5千円
2万円超
1.5万円

3.扶養控除

扶養控除は、子や親など控除対象の扶養親族がいる場合に適用されます。以下のすべての項目に該当する必要があります。

・その年の12月31日の時点で16歳以上であること

・配偶者以外の親族であること

・納税者と生計を一にしていること

・年間の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は103万円以下)であること

・青色申告者の事業専従者としてその年給料を受け取っていないこと、または、白色申告者の事業専従者でないこと

扶養控除額(※4)

課税所得金額
税率
控除額
一般の扶養親族
16歳以上の扶養親族
38万円
特定扶養親族
19歳以上23歳未満の扶養親族
63万円
老人扶養親族(同居老親等以外)
70歳以上で同居老親等に該当しない扶養親族
48万円
老人扶養親族(同居老親等)
70歳以上で同居老親等に該当する扶養親族
58万円

4.医療費控除

医療費控除とは、年間で10万円以上の医療費を支払った場合に適用される控除です。納税者本人だけでなく、生計をともにする配偶者や親族のために支払った医療費も控除の対象となります。

医療費控除は、「その年に支払った医療費-保険などの補填金額-10万円」で計算されます。なお、医療費の控除限度額は、最大200万円です。

また、医療費控除に該当する主な医療費は以下のとおりです。(※5)

・医師または歯科医師による診療、または治療の対価(ただし、健康診断の費用や医師等に対する謝礼金などは原則として含まれない。)

・治療、または療養に必要な医薬品の購入の対価(風邪をひいた場合の風邪薬などの購入代金は医療費となりますが、ビタミン剤などの病気の予防や健康増進のために用いられる医薬品の購入代金は医療費となりません。)

・病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、指定介護療養型医療施設、指定介護老人福祉施設、指定地域密着型介護老人福祉施設または助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価

5.セルフメディケーション税制

セルフメディケーション税制とは、OTC医薬品と呼ばれる対象の医薬品をドラッグストアや、薬局などで1万2000円以上購入した場合に適用される控除です。納税者本人だけでなく、配偶者・親族分の医薬品購入も控除の対象となります。

ただし、セルフメディケーション税制による控除を受けるためには、健康維持や疾病の予防に関する一定の取り組みを行っている必要があります。たとえば、定期的な健康診断や、予防接種、各検診などが該当します。

6.不動産投資

不動産投資も所得税の節税対策に効果的です。というのも、不動産投資に関する経費を計上することで、所得税の節税が可能となるためです。

主に以下の経費の計上が認められます。

・固定資産税

・都市計画税

・修繕費

・損害保険料

・減価償却費

・借入金金利

・管理料

・入居者募集のための広告費

・税理士の費用

・清掃、消耗品の購入費など

とくに、減価償却費は、物件タイプごとに法定耐用年数が定められており、不動産取得時に発生した費用を年数で分割しながら経費として計上できます。このように、長期的な節税効果を狙えるのが不動産投資のメリットです。

主な住居用建物の耐用年数(※6)

物件タイプ
法定耐用年数
木造建築
22年
木造モルタル造
20年
RC(鉄筋コンクリート造)
SRC(鉄骨鉄筋コンクリート造)
47年
レンガ造・石造・ブロック造
38年
重量鉄骨
34年(4mm以上の場合)
軽量鉄骨
27年(3mm超4mm以下の場合)

7.ふるさと納税

ふるさと納税とは、都道府県や市区町村など各自治体に寄付することで、所得税・住民税を控除できるものです。寄付をした2,000円以上の部分が所得税の控除対象で、ふるさと納税を行った年の所得税とふるさと納税を行った翌年度の住民税から控除されます。

ふるさと納税による控除限度額は、所得税率にもとづいて計算されるので、各個人の所得に応じて変化します。

8.NISA

NISAは、少額投資非課税制度のことで、毎年一定金額の範囲内で購入した金融商品から得られる利益が非課税になります。通常、株式の売買で利益が発生した場合、所得税が課せられますが、NISA専用の口座を使用すれば税金が課されなくなるというものです。

2023年1月現在、NISAには「一般NISA」と「つみたてNISA」の2種類があります。分散投資も可能で、資産運用のリスクを抑えるのにも適しています。

 
税率
控除額
利用対象者
日本居住で20歳以上
日本居住で20歳以上
非課税期間
5年
20年
非課税額上限
年間120万円
年間40万円
運用対象商品
株式投資信託、国内外の株式、国内外のETFなど
一部の投資信託、ETF

9.iDeCo

iDeCoとは、個人型確定拠出年金とも呼ばれており、60歳まで掛け金を積み立てていく制度です。運用益については、60歳以降に年金形式か、一時金として受け取るかのいずれかを選択できます。

また、iDeCoは控除額に上限が設定されていないほか、受け取った金額に関しても控除が適用されます。60歳まで引き出せないという点に気をつける必要がありますが、高い節税効果を狙える方法です。

10.事業法人化による会社設立

副業を行っているサラリーマンの方や、個人事業主として生計を立てている方は、自身の事業に関して法人化をした方が節税効果を狙える可能性があります。これは、給与額によっては個人の所得税よりも、法人税の方が最高税率が低くなる場合があり、税負担を抑えやすいためです。

ただし、法人化するタイミングを考慮しておかないと、逆に税負担が大きくなってしまう点に注意しましょう。

たとえば、サラリーマンの方が不動産投資の事業を法人化する場合、「サラリーマン大家で本業での給与所得が900万円以上かつ、所有物件が黒字化している」タイミングです。個人所得だと、900万円以上の給与所得がある場合、所得税率と住民税率は合わせて43%です。

一方で、法人実効税率は、最大でも34.59%であるため、給与所得900万円以上の税率(所得税率+住民税率)よりも低くなります。所得税の節税効果を得るためにも、法人化のタイミングを間違えないように気をつける必要があります、

所得税の節税対策で注意すること

所得税の節税対策を行ううえで、注意しておきたい点があります。節税を意識するあまり損失が出ないようにすることや、確定申告時のポイントなどを押さえておきましょう。

節税効果を無限に得ることはできない

所得税の節税対策では、無限に節税効果を得ることはできません。上述したとおり、各控除では上限額が設定されています。

仮に、上限額が存在するのにも関わらず続けたところで、節税効果を得られなくなります。とくに、不動産投資における減価償却を活用した節税対策に関しては、耐用年数を終えると、所得税が大きく増えてしまう可能性があります。

損失が出る恐れがある

節税効果を得られなくなるだけでなく、損失が発生してしまうことも考慮しなければなりません。たとえば、減価償却期間が終了することで、税務上では黒字化し、より多くの所得税が発生する可能性があります。

また、給与所得と合算されることから、想定外の所得税を納めなければならない事態に発展しかねません。結果として、キャッシュフローが悪化し、デッドクロスと呼ばれる融資の元金返済が減価償却費よりも多い状態になってしまいます。

定期的に経費や控除を見直す

定期的に、現状における経費や控除の数字を見直してみることも大切です。見逃している経費・控除があれば、さらなる所得税の節税効果を狙える可能性があります。

とくに、不動産投資であれば、物件を内覧するときの交通費や、ローンの金利なども経費として計上可能です。漏れがないように、お金の支出を今一度確かめるようにしましょう。

確定申告時に青色申告を使用する

所得税を可能な限り抑えるために、確定申告では青色申告を使うことも忘れないようにしましょう。確定申告では、白色申告と青色申告の2種類があり、青色申告は帳簿付けが細かく求められる分、最大65万円の控除を受けられます。

また、青色申告で確定申告を行うと、赤字が出た場合に翌年の所得から差し引いて計上が可能です。作成に手間がかかってしまいますが、メリットも多いので青色申告の活用を推奨します。

資産運用と所得税節税対策に適した不動産の選び方

不動産投資は、所得税の節税対策に効果的であるほか、資産運用にも適しています。最後に、さまざまな物件タイプがあるなかで、どのような物件であれば節税効果や資産運用を効率的に行えるのかを紹介します。

土地価格の割合が低い不動産

1つ目は、土地価格の割合が低い不動産です。これは、減価償却を考えたときに、建物部分は含まれるものの、土地部分は含まれないためです。

たとえば、合計5000万円の不動産A(土地3000万円・建物2000万円)と、B(土地2000万円・建物3000万円)があったとします。このとき、不動産Bの方が、建物部分に関する減価償却が効くため、より節税効果を狙える可能性が高まります。ただし、土地価格の割合が低い不動産は、エリア的に人気が高くないこともあるので、バランスに注意しながら選びましょう。

中古の不動産

次に、中古の不動産です。中古物件は、新築物件よりも耐用年数が短く、1年間ごとの減価償却費が大きくなります。

つまり、中古物件を購入することで、年間の経費を大きくし、節税効果を高められるわけです。とはいえ、古すぎる物件だと、修繕費やメンテナンス費用も発生するので、節税効果以上に費用がかさむ可能性にも気をつけましょう。

区分マンション・アパート

一棟まるごとマンションやアパートを購入するよりも、区分マンションやアパートを購入した方が所得税の節税効果を高められる可能性があります。というのも、上述したとおり、一棟まるごと不動産を購入すると、不動産価格に土地価格が含まれるので、建物価格の割合が低くなりやすいためです。

土地価格の割合は、物件にもよりますが、一棟アパート、一棟マンション、区分マンション・アパートの順に低くなります。減価償却による節税効果を高めるには、建物価格の割合が高い物件タイプを購入しましょう。

まとめ

所得税の節税対策は多種多様で、個人で始められる対策も多くあります。とくに、不動産投資は、節税効果を高めつつ、将来に向けた資産運用にも適した節税対策の1つです。

とはいえ、すべての物件が節税対策や資産運用に適しているわけではありません。不動産の種類を見極めることや、不動産仲介会社にも相談しながら、節税対策と資産運用を行いましょう。

※1:所得税の税率

※2:生命保険料控除

※3:地震保険料控除

※4:扶養控除

※5:医療費控除

※6:主な減価償却資産の耐用年数表