不動産投資によって得られる利益には、継続的な家賃収入・物件の売却益・節税といったものがあります。しかし、税制改正によって、海外不動産投資においては大きな節税効果が見込めなくなっています。
海外不動産投資の節税効果が小さくなった背景や、今後の海外不動産投資に関する考え方などについて解説します。
海外不動産投資による節税のスキーム
海外不動産投資による節税は、日本および海外の不動産市場が持つ特徴の違いを利用して行われていました。海外不動産投資による節税の主な仕組みを解説します。
減価償却費の計上による所得圧縮
海外不動産投資による節税は、減価償却費を計上しつつ本業の給与所得などと損益通算することで行われていました。主に用いられたのはアメリカの築古木造住宅です。
日本在住の日本人が投資する場合は、アメリカ不動産投資の収支についても日本での確定申告が必要になります。アメリカ不動産の購入によって発生した減価償却費を、日本国内での給与所得などと合算して確定申告することで、課税対象所得の圧縮が可能でした。
不動産投資において、減価償却費を最大化できる物件は築22年以上経過した木造住宅です。日本では築22年を経過した木造住宅は不人気なので、賃貸運用の難易度が高いほか、節税が終わった後の売却も容易ではありません。
しかし、アメリカでは築古の木造住宅も多数流通しており、入居者付けも問題ありません。また、長期的に住宅価格が値上がりを続けるアメリカの不動産市場では、物件の売却益を狙うことも可能です。
そのほか、日本は国土が狭く土地の方が価値がある一方で、国土が広いアメリカでは地価が安く建物の価格が高くなります。減価償却費は建物部分についてしか計上できないため、節税狙いの不動産投資をするのであれば、建物価格が高い物件の購入が必要です。
総じてアメリカ不動産は日本での節税に有利な条件が多く揃っており、こうしたギャップを利用して、一時期、アメリカ不動産投資による節税は盛んに行われていました。
国税庁が海外不動産による節税を規制した背景
海外不動産投資による節税が規制されたのは、日本の富裕層がこぞって節税目的でアメリカ不動産投資を進めたことが背景にあります。
国が減価償却費の計上による節税スキームを認めている理由の1つは、日本国内にある築古住宅の購入促進です。しかし、投資マネーがアメリカへ流出する結果を招いたほか、富裕層による特権的な節税スキームが度々批判を浴びたことなども規制の原因と言えます。
税制改正大綱の内容
2019年末に閣議決定された税制改正大綱により、海外不動産投資による節税は、2021年の2月〜3月に実施する確定申告からできなくなることが明らかになりました。税制改正大綱のうち、節税の規制を指し示すのは以下の部分です。
租税特別措置等(国 税)
〔新設〕国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例を次のとおり創設する。(1)個人が、令和3年以後の各年において、国外中古建物から生ずる不動産所得を有する場合においてその年分の不動産所得の金額の計算上国外不動産所得の損失の金額があるときは、その国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は、所得税に関する法令の規定の適用については、生じなかったものとみなす。
※引用:令和2年度税制改正の大綱
「国外中古建物の不動産所得に係る」という部分が、海外不動産投資による節税を指し示しています。
「国外不動産所得の損失の金額のうち国外中古建物の償却費に相当する部分の金額は」とあることから、海外不動産投資の収支で計上できなくなるのは減価償却費のみです。賃貸管理費や修繕費など、賃貸運用の必要経費によって収支が赤字になった場合は、給与所得との損益通算も可能となります。
しかし、必要経費によって赤字が発生した場合は実際の支出を伴う損失となるため、効果をそれほど見込めません。また、海外不動産投資では減価償却費が発生しなかったものとみなされることから、物件を売却した際の売却益は圧縮されます。
今後、海外不動産投資では、中古物件を売却した場合の譲渡所得税が圧縮されることになります。なお、海外不動産投資による節税が規制されるのは個人による投資についてのみです。法人による海外不動産投資では、従来通り減価償却費を計上できます。
ただし、法人による海外不動産投資では法人税が課税されるほか、個人のように物件の長期保有に伴う譲渡所得税の圧縮ができません。法人で節税を狙う場合には、個人の場合とは違った戦略が必要です。
今後の海外不動産投資の考え方
節税が封じられた海外不動産投資では、今後どのように考えれば良いのか解説します。日本とは異なる背景を持った不動産市場で利益を狙えるのが、海外不動産投資が持つ最大の特徴です。
インカムゲインとキャピタルゲインの拡大が王道
不動産投資の目的としては、節税の他にも家賃収入によるインカムゲインと物件の売却益によるキャピタルゲインが挙げられます。大きな節税効果を見込めなくなった今後は、海外不動産投資ではインカムゲインとキャピタルゲインを狙うのが王道です。
日本では人口減少が始まっているエリアも多く、今後住宅需要の縮小が見込まれます。住宅需要が縮小していく中では、空室期間の長期化や物件価格の下落に要注意です。日本国内であっても、特に立地の見極めを怠ると損失を出してしまう可能性があります。
しかし、海外には日本と違って人口が増加している国も少なくありません。また、日本では少子高齢化が進んでいますが、海外には平均年齢が20代の国もたくさんあります。平均年齢が若い国では賃貸の家に住む就労者も多いため、空室率の低い投資を期待可能です。
海外には、日本と比較すると、インカムゲインとキャピタルゲインとをバランスよく狙えるエリアも多いものです。投資目的をこの2点に絞って物件を選ぶことが、海外不動産投資における今後のスタンダードと言えます。
国ごとの特徴
日本人も不動産投資をできる外国は少なくありません。どこの国で投資するのが最も利益を狙えるのか、あるいはリスクを抑制できるのか知りたいと考える人もいるのではないでしょうか。海外不動産投資の投資先は、アメリカなどの先進国と東南アジアを中心とした新興国とに分けられます。
先進国では不動産マーケットの法整備などが進んでいるため、急な規制変更などのリスクが小さいと言えます。
しかし、先進国では物件価格が高いエリアも多いため、全体的な利回りは低めです。その一方で、新興国では発展途上にあるものの物件価格が安いエリアが少なくありません。利回りが比較的高めで経済成長によるキャピタルゲインを狙いやすいのが、新興国の不動産に投資するメリットです。しかし、不動産マーケットが成熟しきっていない新興国では、外国人向けの急な規制変更や物件価格が乱高下するリスクなどに注意を要します。
海外不動産投資において投資先の国を選ぶ上では、抑制したいリスクや優先する利益などを明確にすることが重要です。
まとめ
海外不動産投資を利用した節税は、主に減価償却費を活用したスキームと、日本の不動産マーケットとは違った背景を持ったアメリカの不動産によって行われてきました。
しかし、海外不動産投資で減価償却費を計上できなくなった今後は、インカムゲインおよびキャピタルゲインを狙って物件を選ぶのが妥当と言えます。投資先の国を選ぶ上では、投資目的や抑制したいリスクを明確にすることが重要です。
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