2019年に発表された税制改正大綱により、2023年に実施する確定申告から、個人は海外不動産投資による節税ができなくなりました。しかし、法人の税金対策としては、海外不動産投資は有効です。海外不動産投資による節税の仕組みや、他の節税方法との比較などについて解説します。

法人は海外不動産投資による節税が可能

税制改正によって個人の海外不動産投資による節税はできなくなりましたが、法人についてはまだ節税が可能です。

個人は2023年の確定申告から節税が不可能に

従来、主にアメリカ不動産を中心とした海外不動産投資は、富裕層による節税として利用されていました。しかし、令和2年度税制改正大綱によって、個人は2023年に実施される確定申告から、海外不動産投資による節税はできなくなりました。その一方で、法人については規制の対象外となっているため、法人名義で海外不動産を購入した場合は、これまで通り節税が可能です。

海外不動産投資による節税の仕組み

海外不動産投資による節税の仕組みについて解説します。カギとなるポイントは、実際の支出を伴わない減価償却費を経費として計上することです。

減価償却費の計上がポイント

海外不動産投資による節税は、決算にて減価償却費を計上するのがポイントです。減価償却費とは、建物部分の経年劣化による損失を、税務上の経費として計上できる費用のことを指します。減価償却費は税務上の費用であり、実際の支出を伴わないものです。

なお、減価償却費が発生するのは建物部分についてだけです。土地については減価償却費が発生しません。不動産を購入すると、建物部分の価格を法定耐用年数で割り戻すことで減価償却費を計上できます。

法定耐用年数は建物の用途と構造ごとに決められているもので、国税庁のホームページにて確認可能です。なお、減価償却費を最も大きく計上できるのは、築22年を過ぎた木造住宅です。

例えば個人が築23年の木造戸建住宅を購入すると、単年度の減価償却費は以下のように計算します。なお、法人の場合も減価償却費の計算自体は個人と同じです。

◯例:3,000万円(建物:2,400万円・土地:600万円)の築23年木造住宅を購入した場合

・減価償却年数の計算(22年-23年) + 22年 × 0.2 = 4.4年 → 4年に切り下げ
・1年あたり減価償却費の計算2,400万円 ÷ 4年 = 600万円

減価償却年数の計算方法は(法定耐用年数 - 経過済みの年数)+ 経過済みの年数 × 0.2 です。なお、0.2を乗ずる経過済みの年数については、例えば築30年が経過していても22年で計算します。例えば年収700万円のサラリーマンが上記の物件を購入すると、4年間は減価償却費の600万円を損益通算可能です。このため、確定申告をすれば、年収100万円として所得税と住民税が課税されます。

法人の場合は法人税を繰り延べられる

個人の場合は所得税と住民税を節税できますが、法人の場合は法人税を節税可能です。減価償却費が発生後10年以内であれば、任意のタイミングで減価償却費を計上可能です。あらかじめ大きな売り上げが発生するタイミングがわかっているのであれば、タイミングを合わせて減価償却費を計上することで、法人税を抑制できます。

ただし、法人が減価償却費を計上した場合は、純粋な節税ではなく税金の繰り延べとなる点に要注意です。個人が不動産を売却すると、物件の売却益に対して譲渡所得税が課税されます。

個人が不動産を5年以上保有すると譲渡所得税の税率は下がりますが、法人の場合は物件の売却益にも法人税が課税されるため、税率が下がりません。減価償却費の計上によって節税しても、物件を売却した時に支払う法人税で相殺となります。法人の場合は、純粋な節税ではなく税金を支払うタイミングをずらす効果があるという点に要注意です。

アメリカ不動産投資が節税に向いている理由

木造の築古住宅を活用することを考慮すれば、アメリカ不動産投資は最適な節税方法です。アメリカの住宅市場が持つ特徴や、他の節税方法との比較などについて解説します。

アメリカ不動産は建物価格が高い

減価償却費は建物の価格についてしか発生しないため、不動産投資で多額の減価償却費を計上するためには、建物価格が高い物件を購入する必要があります。しかし、日本は国土が広くないため、建物の価格があまり高くありません。

また、すでに解説した通り、税務効果が最も大きいのは木造の築古住宅ですが、日本の木造築古住宅は流動性が低いのが難点です。減価償却費を計上し終わった後の売却が困難になります。

その一方で、アメリカは国土が広いため、一部の都心エリアを除いて地価の割合が日本ほど高くありません。アメリカの不動産市場には建物価格が高い物件も多数流通しています。

アメリカでは中古物件が大量に流通している

そのほか、日本と比較するとアメリカでは新築住宅の供給が少ない点も、節税対策としては有利です。アメリカでは中古住宅の流通割合が高い上に、築数十年を経過した物件でも入居者が入ります。

アメリカでは、同じ住宅を何度もリフォーム・リノベーションして住み続けるのが一般的です。また、アメリカでは日本のように「終の住処」という考え方がありません。今住んでいる家よりも条件の良い家が見つかれば、アメリカ人は引越しを繰り返します。

アメリカ不動産投資は他の節税対策よりも優れている

法人の節税対策として有効な手段はアメリカ不動産投資だけではありません。ほかにも、航空機のオペレーティングリースや、生命保険の活用などといった節税対策があります。しかし、税効果やリスクを考慮すると、アメリカ不動産投資は他の手法よりも有効です。

例えばオペレーティングリースは、航空機の所有権を共有することで航空機の減価償却費を計上する節税方法です。しかし、2021年時点ではコロナ禍で人の移動が止まっており、航空機の所有権を共有する航空会社が経営破綻に追い込まれる可能性も否定できません。

また、オペレーティングリースはローンを利用できない点もデメリットです。アメリカ不動産投資では、物件評価額の50%までは融資を受けられます。

そのほか、生命保険の活用についてもローンは利用できない上に、そもそも従業員数が多くなければ節税効果は薄れてしまいます。中小企業にとっては特に、アメリカ不動産投資の方が大きな節税効果を期待可能です。

まとめ

海外不動産投資による節税は減価償却費の計上がポイントとなります。また、節税効果を最大化するためには、住宅マーケットが持つ特徴からアメリカ不動産投資が最適です。なお、アメリカ不動産投資はリスクやローンの利用可否を考慮すると、その他の節税方法よりも優れています。しかし、法人によるアメリカ不動産投資は税金の繰り延べであり、個人と同様の節税効果は生まれない点に要注意です。

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