2021-02-08

コロナが2020年に海外不動産投資へ与えた影響は?各国の状況を比較

  • 海外不動産コラム

日本では2021年1月に2度目の緊急事態宣言が発出されるなど、コロナの影響が長期化しています。しかし、経済の落ち込みも報道されている一方で、住宅価格にはそれほど大きな変化が起きていません。不動産投資を検討されている人の中には、海外の不動産市場ではコロナの影響があるのか気になる人も多いのではないでしょうか。この記事では、アジアの各国を中心に、不動産価格指数と金利の動向からコロナが海外不動産投資に与えている影響を分析します。

日本の住宅市場動向

住宅価格指数と長期金利の動向分析から、コロナが日本の住宅市場に与えている影響を探ります。日本の住宅市場では、それほど大きな値動きは起きていないのが特徴的です。

日本の住宅価格推移

国土交通省が発表した不動産価格指数調査によると、日本におけるコロナ前後の住宅価格指数推移は以下グラフの通りです。

日本の住宅価格指数推移

※参照:国土交通省 報道発表資料 https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo05_hh_000001_00012.html

2019年10月以降1年間の動きを見ると、日本の住宅価格指数は111ポイント〜114ポイントの間で推移しています。最高値と最低値との差は2.7ポイントで、それほど大きな値動きがあるとは言えない状況です。なお、住宅種別に価格指数の動向を見ても、マンション・戸建住宅・住宅地ともにほとんど変化がありません。2020年における日本の不動産市場では、コロナの影響はそれほど出ていなかったと言えるでしょう。

日本の長期金利動向

つづいて、住宅ローンや不動産投資ローンに影響を与える長期金利の動向を確認してみます。長期金利の目安となる10年国債の金利動向は以下グラフの通りです。

10年国債※参照:財務省 国債金利情報 https://www.mof.go.jp/jgbs/reference/interest_rate/

グラフで見ると大きな上下動があるように見えますが、実際にはそれほど大きく動いているわけではありません。最高金利と最低金利との差は0.03%です。コロナの感染拡大が始まって以降、日本銀行は金融緩和政策の維持を続けています。

2020年6月の記者会見で、日本銀行の黒田総裁は2022年度でも金利引き上げは難しいとの見解を示しており、金融緩和政策はまだ当面続く見通しです。

※参照:日本銀行 https://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2020/kk200617a.htm/

金融緩和政策が継続されているため、住宅ローン金利および不動産投資ローンの金利は低水準を維持しています。コロナの前後で住宅価格に変化が起こらないのは、低水準のローン金利が不動産価格を下支えしているためとも考えられるでしょう。

しかし、2021年1月には一部地域で2度目の緊急事態宣言が発令されるなど、コロナの収束時期は不透明な状況です。コロナの日本経済に対する影響が深まる中で、不動産価格の推移には注意を要します。

マレーシアの住宅市場動向

つづいてマレーシアの住宅価格指数と金利の動向を分析します。マレーシアでは住宅価格の値動きが安定に向かっている状況です。

マレーシアの住宅価格推移

マレーシアの国立不動産情報センターが発表した統計によると、マレーシアにおけるコロナ前後の住宅価格指数動向は以下グラフの通りです。

※参照:マレーシア国立不動産情報センター https://napic.jpph.gov.my/portal/web/guest/key-statistics

マレーシアの住宅市場でも、コロナ前後で大幅な値動きは起きていません。2019年第2四半期以降の1年間で、最高値と最低値との差は2.1ポイントにとどまっています。なお、対前年比の価格指数増減幅を見ると、コンドミニアム・テラスハウスなど各タイプとも右肩下がりです。マレーシアでは、住宅価格の推移が落ち着いて来ていると言えます。

※引用:マレーシア国立不動産情報センター https://napic.jpph.gov.my/portal/web/guest/key-statistics

また、マレーシアでは住宅の供給過剰が社会問題化していました。2020年第3四半期におけるマレーシア全体の住宅供給数は50,176ユニットとなっており、前年同期比で約19%減少しています。2017年以降は供給数・着工数ともに減少を続けており、マレーシアでは住宅の需給バランス改善が続いている状況です。

マレーシアの金利推移

マレーシアの中央銀行が発表している金利の推移は以下グラフの通りとなっています。

※参照:マレーシア中央銀行 https://www.bnm.gov.my/interest-rates-volumes

2020年2月以降段階的な利下げが始まっており、8月以降は金利1.75%で固定されています。2021年1月に入っても1.71%〜1.75%の間で推移しており、大幅な変更はありません。なお、2020年初頭時点の金利は3.00%だったので、8ヶ月間で1.25%引き下げられたことになります。

マレーシアも日本と同様に住宅価格が安定しているため、金利の引き下げが不動産市場の安定に寄与していると考えられます。

タイの住宅市場動向

つづいてタイの住宅価格指数および金利の動向を分析します。タイでは、住宅市場全体では少し値上がり傾向があるものの、物件タイプ別の値動きには要注意です。

タイの住宅価格推移

タイの中央銀行が発表している統計によると、タイの住宅価格指数は以下グラフのように推移しています。


※参照:タイ中央銀行 https://www.bot.or.th/App/BTWS_STAT/statistics/ReportPage.aspx?reportID=680&language=eng

タイでは2019年第4四半期以降、少しずつ住宅価格が上がってきました。2019年10月の住宅価格指数は144.9で、2020年9月は150.5となっているため、1年間で約5ポイント上がっています。

なお、動きを細かく見ていくと、2020年2月以降は比較的安定している状況です。タイの住宅市場でも、コロナによる大きな値崩れなどは見受けられません。しかし、コンドミニアムの値動きを見ると注意が必要です。タイのコンドミニアム価格指数は、2020年6月から少しずつ下落しています。2020年6 月の価格指数は190.2でしたが、2020年11月には176.7まで数値を下げており、下半期だけで約13ポイント下落しました。

前年比率を見ても、2020年9月まではプラスで推移してきましたが、10月と11月はマイナスになっています。なお、2020年11月の前年比率はマイナス3%です。タイでは、地価と土地付き戸建などは2020年も値上がりしましたが、コンドミニアムだけが値下がりしています。

タイの金利推移

タイの中央銀行が発表している金利の推移は以下グラフの通りです。


※参照:タイ中央銀行 https://www.bot.or.th/App/BTWS_STAT/statistics/ReportPage.aspx?reportID=905&language=eng

タイでもマレーシアと同様に段階的な利下げが行われており、2020年下半期は金利がほぼ固定されています。2020年1月時点の金利は1.24%でしたが、6月以降は0.49%前後となりました。利下げが始まったのは2月5日であり、2月以降は住宅価格指数も150前後で安定しています。タイでは、金利の引き下げによって住宅価格が少しだけ上がった状況です。

フィリピンの住宅市場動向

最後に、フィリピンの住宅価格指数および金利の動向を分析します。フィリピンでは、他の国と比較すると値動きが大きい点に要注意です。

フィリピンの住宅価格推移

フィリピンの中央銀行が四半期ごとに発表している統計によると、フィリピンの住宅価格指数動向は以下グラフの通りです。

※参照:フィリピン中央銀行 https://www.bsp.gov.ph/SitePages/Statistics/Prices.aspx?TabId=7

フィリピンでは2020年第2四半期に大きく住宅価格が上昇しました。しかし、第3四半期には2019年末と同水準まで急降下しています。急上昇の反発で下落したものとも考えられますが、今後の価格推移には要注意です。

なお、フィリピンの住宅価格指数は、2019年第2四半期から第3四半期にかけても約10ポイント急上昇しています。フィリピンの住宅市場では、他の国と比較して急な値動きが起こりやすいです。また、フィリピンでは国全体の不動産価格が首都圏のコンドミニアム価格に引っ張られる傾向が強いと言えます。過去の値動きを見ると、首都圏でコンドミニアムが値上がりすると、フィリピン全体の不動産価格も値上がりする傾向がうかがえます。

その一方で、首都圏以外のエリアにおけるコンドミニアムは、コロナの前後でもほとんど値動きがありません。フィリピンで物件価格が大幅に変動するリスクを避けたいのであれば、首都圏のコンドミニアムに投資するのは避けるほうが安全です。

フィリピンの金利推移

フィリピンではコロナの前後で以下のように金利が推移しています。


※参照:フィリピン中央銀行 https://www.bsp.gov.ph/SitePages/Statistics/Financial%20System%20Accounts.aspx?TabId=14

金利の月平均推移を見ると、フィリピンでは2020年5月から大きく金利が引き下げられています。8月までは段階的に引き下げられており、9月以降は安定している状況です。なお、2020年1月時点の金利は3.58%でしたが、11月には1.46%となっています。フィリピンでは、コロナの前後で約2.1%金利が引き下げられました。

フィリピンでは金利の引き下げ時期と住宅価格の上昇時期が一致しています。しかし、他の国とは違い、フィリピンの住宅価格は安定していません。一方で、リサーチ会社のColliers Internationalが発表したレポートによると、フィリピンではコンドミニアムの建設工事が遅れており、当面の住宅供給数は減少する見通しです。

住宅供給の減少が再び住宅価格を押し上げるかどうか、今後のフィリピン不動産市場では、その動向に要注意です。

※参照:Colliers International

まとめ

日本を除くアジアの各国では金利が引き下げられており、住宅ローンの金利も低下しています。しかし、不動産価格の動きについては、国や物件のタイプによって様々です。例えば、タイではコンドミニアムが2020年の秋以降に大きく値下がりしています。また、フィリピンでは四半期ごとの値動きが大きいです。コロナの収束時期も見通しがつかない2021年初頭時点では、国や物件タイプごとに値動きを確認しながら投資先を選ぶことが重要になります。