アメリカ不動産は資産価値が高いものも多く、節税対策にもなることで人気があります。経済も堅調に推移し、人口増加や住宅価格の上昇も続いていることから、アメリカの不動産市場も活況が続いています。では、アメリカ不動産の価格相場は2019年7月現在でどの程度なのでしょうか。

この記事ではアメリカ不動産投資の特徴とメリット、物件や家賃の相場、運用におけるポイントを詳しく解説していきます。アメリカ不動産に興味がある方は参考にしてみてください。

1 アメリカ不動産の特徴とメリット

世界最大の経済大国であるアメリカの不動産市場は、外国人に対する規制が特に無く、参入しやすい環境が整備されています。人口は安定的に増加しているためキャピタルゲインが期待でき、収益性の高い物件も豊富です。

法人設立も容易なので合同会社(LLC)を設立すれば法人名義の銀行口座が開設でき、現地業者との取引もはかどります。

1-1 詳細な物件データを入手できる

アメリカ不動産の大きな特徴として、「透明性の高さ」が挙げられます。アメリカ不動産は情報開示が徹底されており、例えばzillowというアメリカの不動産検索サイトでは、物件に関する一般的な情報から過去の取引履歴まで、以下のような様々なデータが閲覧できます。

  • 築年数と改築年数
  • 課税評価額
  • 年間税額
  • 売り出し価格の履歴
  • 税務評価履歴
  • 頭金(%)、ローン金利、月額返済額
  • 推定家賃金額
  • 近隣の学校とそのグレード
  • 周辺の不動産相場の上昇率
  • 将来の推測される価格上昇率

zillowのデータは、MLS(Multiple Listing Service)という物件情報システムから個人情報を除いたものを、購入希望者などに公開しています。周辺相場の上昇率や、対象物件の推定される価格上昇率も記載されています。不動産を購入する前にどの程度のキャピタルゲインが見込めるのかをチェックできるので便利です。

海外不動産投資では様々なデータが必要になるため、情報収集で苦労することは少なくないのですが、このようにアメリカでは豊富な物件情報と取引記録をチェックして物件を選べるのは大きな武器になります。

1-2 学区によって不動産相場が違う

公開されている物件情報の中には、「近隣の学校とそのグレード」という指標があります。これは、アメリカの住宅価格を決定する要素の一つに「学区のレベル」があるためです。

学区(school district)によって教育に対する考え方や教職員の給料が各地域でバラバラで、人気の高い学区ほど所得の高い人が集まり治安も良いという傾向があります。「治安と教育はお金で買うもの」という考え方がアメリカ社会の中にはあります。

現地の不動産仲介会社が2016年に行った調査によると、格付けの高い公立学区と低い格付けの公立学区の境界周辺では、格付けが上位のエリアの住宅は全国平均価格よりも49%ほど高く、格付けの低い地区の住宅よりも77%ほど高い結果となりました。

zillowなどで資産価値の高い物件を探す際には、学区についてもチェックする必要があります。また、このようなデータは将来売却する際にも参考になります。さらに賃貸に出す時にも借り手は学区のレベルを参考にしますので、高い入居率や利回りが期待できる物件探しにも役立つでしょう。

1-3 中古市場が成熟している

アメリカでは中古不動産市場が成熟しています。国土交通省が平成25年6月に発表した「中古住宅流通促進・活用に関する研究会(参考資料)」によると、アメリカは世帯あたりの年間住み替え戸数が日本の3倍ほどに達するとしています。

日本1万世帯あたり123.3戸アメリカ1万世帯あたり372.7戸年金制度が日本ほど整っていないアメリカでは、私的年金づくりの方法として不動産投資に取り組むケースが多いのも要因です。結婚して子どもを作った後は学区の良いエリアで家を購入し、子どもが成人した後は引越しを繰り返すため、中古市場の流通量が多いわけです。

1-4 築年数にかかわらず資産価値が高い

アメリカ不動産の中古流通量が多いもう一つの理由として、「資産価値に対する考え方の違い」があります。日本の住宅は築年数を物件の査定上考慮しますが、アメリカの場合は築年数を考慮せず、建物の劣化や維持修繕の状況に応じて、鑑定士が建物の価値減少分を算出します。

このようなアメリカ不動産中古市場の特徴から、住宅を購入した人は物件の資産価値の維持に努める傾向があります。そのため投資用として購入する物件は、築年数にかかわらず資産価値が落ちにくく、転売する際にはキャピタルゲインを狙うことも可能となります。

このほか日本の高額所得者はアメリカ不動産の資産価値の高さを利用して、節税対策のために木造築古物件を取得するケースもあります。耐用年数が過ぎた木造物件を運用すれば4年で減価償却できるため、課税所得を引き下げ、所得税を圧縮する効果が期待できます。

1-5 売主と買主の双方に不動産業者がつく

日本では1つの不動産会社が売主と買主の両方について、それぞれから仲介手数料を受け取るケースが一般的に見られますが、アメリカの場合は売主と買主の双方に別々の不動産会社が付く形になります。

またアメリカでは売主に瑕疵担保責任がないのも特徴です。買主側の責任主義という考え方が強いため、アメリカで中古の住宅を購入する場合には、不動産鑑定士やホームインスペクターに依頼して、購入を検討している物件について徹底的に調査する必要があります。

2 アメリカ不動産の価格相場

アメリカは州が違えば価格や税制も違うため、相場や利回りは購入を検討するエリアごとに調べることが大切です。

2-1 アメリカの不動産賃料は上昇傾向

アメリカは利下げ観測も出るなか、一部では長く続いた好景気も減速に向かうことが予測されていますが、不動産市場は変わらず強さを見せています。2019年6月のzillowの不動産市場レポートによると、アメリカにおける賃料の上昇率は次の通りです。

【平均賃料(前年同月比)】

アメリカ全体

3%上昇

ラスベガス

10%上昇

フェニックス

8.4%上昇

オーランド

7.4%上昇


住宅価格も2019年6月は前年同期比で5.2%上昇しており、前年対前々年比7.6%と比べると低下しているものの、堅調に上昇を続けています。

2-2 州ごとの平均住宅価格

zillowなどの不動産業者から集めた情報をもとに算出した、アメリカの主な州ごとの平均住宅価格データをご紹介します。


平均住宅価格

ミシガン州デトロイト

44,400ドル

オハイオ州クリーブランド

61,200ドル

ニューヨーク州ニューヨーク

307,800ドル

ニューヨーク州バッファロー

81,500ドル

ペンシルベニア州フィラデルフィア

144,600ドル

ウィスコンシン州ミルウォーキー

111,500ドル

テネシー州メンフィス

82,200ドル

イリノイ州シカゴ

221,000ドル

フロリダ州オーランド

175,700ドル

ミズーリ州カンザスシティ

127,400ドル

テキサス州ダラス

176,300ドル

ルイジアナ州ニューオーリンズ

174,600ドル

ジョージア州アトランタ

217,600ドル

フロリダ州マイアミ

306,000ドル

ネバダ州ラスベガス

239,500ドル

カリフォルニア州ロサンゼルス

658,500ドル

ハワイ州ホノルル

686,900ドル

ワシントン州シアトル

718,700ドル


上述の通りアメリカの不動産価格は上昇を続けており、特に世界中の投資家から注目を集めるリゾート地のハワイや、スタートアップ企業の台頭などでビジネス需要が急騰しているロサンゼルス・シアトルといった都市の住宅価格は非常に高い水準にあります。

2-3 今後のアメリカ不動産市場

アメリカ全体で見ると賃料の上昇率はわずかですが、住宅不足が続くことから住宅価格の上昇は今後も続くと予測されています。アメリカでの貸家世帯数は2005〜2016年の間に3,700〜4,500万人と、19.2%上昇しました。2030年までには数百万戸の新たな住宅が必要になると見られています(ManageCasaより)。

賃貸需要の増加が見込めるエリアを絞るには、アメリカ政府による人口動態調査のデータが参考になります。人口2万人以上の郡のなかで人口増加数の多い順に並べると以下の通りです(※7)。

【2017年7月1日〜2018年7月1日までの人口増加数ランキング】

順位

地域

増加数

1位

アリゾナ州マリコパ郡

81,244人

2位

ネバダ州クラーク郡

48,337人

3位

テキサス州ハリス郡

34,460人

4位

テキサス州コリン郡

33,753人

5位

カリフォルニア州リバーサイド郡

33,534人

6位

ワシントン州キング郡

28,934人

7位

フロリダ州オレンジカウンティ郡

27,712人

8位

テキサス州タラント郡

27,463人

9位

テキサス州ベクサー郡

27,208人

10位

フロリダ州ヒルズボロ郡

26,773人


【同期間の人口増加率】

順位

地域

増加率

1位

ノースダコタ州ウィリアムズ郡

5.9%

2位

テキサス州コマル郡

5.4%

3位

テキサス州カウフマン郡

4.7%

4位

ノースカロライナ州ブランズウィック郡

4.6%

5位

フロリダ州ウォルトン郡

4.5%

6位

テキサス州ミッドランド郡

4.3%

7位

フロリダ州オセオラ郡

4.3%

8位

フロリダ州セントジョンズ郡

4.2%

9位

テキサス州フッド郡

4.1%

10位

ジョージア州ジャクソン郡

4.0%

アメリカ合衆国国税調査局の2019年4月発表データより)

地下鉄エリアで顕著な増加が見られるのは、テキサス州・フロリダ州・ユタ州で、仕事を求める人口流入の動きが活発化していることが要因です。一方、人口が減少しているエリアも少なからずあるため、物件選びの際は賃貸需要の増加が期待できるエリアを検討すると良いでしょう。

3 アメリカ不動産を運用する3つのポイント

アメリカ不動産投資で利益を出すためには何に注意すれば良いのか、ポイントをご紹介します。

3-1 成長が見込める地域で運用する

アメリカ不動産相場は年々上昇しているため、人気のある地域での購入は難しくなってきています。例えばロサンゼルスでの平均購入金額は7,000万円を超えています(2019年7月時点のレート1ドル=108円で換算)。ハワイのホノルルは約7,400万円、シアトルは約7,700万円になります。

またロサンゼルスやホノルルといった人気エリアは住宅価格の上昇率が賃料の上昇率を上回るので、賃貸利回りは低くなっています。しかしエリアを絞ることで利回りの高い物件を見つけることは可能です。

アパート、コンドミニアム、一戸建てなどの住宅形態のほか、物件個別の条件にも着目し、さらに人口増加による成長が見込める地域を優先的に検討することが大切です。

3-2 修理・修繕には迅速に対応する

アメリカ不動産投資で重要なのは、資産価値を高めるための維持管理です。賃借人から設備の不具合や故障の連絡があれば、迅速に修理手配などの対応をする必要があります。そのためには、オーナーの代わりにすぐ対応できる管理会社に物件を任せると便利です。

スムーズな連携が取れるような現地の管理会社を探すか、現地エージェントと提携する日本の不動産会社を通じて紹介してもらうと良いでしょう。

3-3 優秀なエージェントを確保する

出口戦略を含めてアメリカ不動産を購入するためには、優秀なエージェントが必要になります。エージェントは購入手続きに必要な全てを代行してくれるので、買主と売主が直接顔を合わせることなく、手続きは完了します。

支払いは第三者期間のエスクロー会社を通じて行うため、安全性が担保されています。売却する際も、物件価値を高めるためにエージェントの適切なアドバイスが役に立ちます。zillowなどのアメリカ大手ポータルサイトでは、エージェントも紹介しています。エージェントの評判や過去の実績、活動履歴などもチェックできます。

エージェント選びでポイントになるのは、「売却する物件のあるエリアに詳しいかどうか」「メールでの問い合わせに迅速に対応できるかどうか」などになります。

4 まとめ

アメリカ不動産投資はエリア選び・個別の物件選びが重要です。物件価格は上昇を続けていますが、人気エリアは利回りが低下しています。今後は、人口増加が顕著で市場の成長可能性が高く、賃貸需要の増加が見込めるエリアで物件を検討すると良いでしょう。

また出口戦略として利益を出すためには、利回りの確保に加えて資産価値を維持するためのメンテナンスと売却におけるエージェント探しがポイントになります。これらを念頭に置いて物件購入と賃貸運用を行うことが大切です。