2017-08-21
海外不動産を購入する際に発生する税金について
- 海外不動産コラム
近年、投資目的や、所得税や相続税の節税目的などで海外に移住する過程などで海外不動産を購入する事例が増えているように見受けられます。
海外で不動産を購入した場合、その家賃収入や売却による収入などに対する税金は、どのようになっているのでしょうか。
海外不動産を購入した際の税務申告上の留意点
1.日本において確定申告が必要であること
2.1にもかかわらず、現地でも納税が必要となる可能性があること
3.日本と現地で二重課税を避けるために、外国税額控除や租税条約の規定を確認すべきであること
4.売却する際に日本の非居住者となっていた場合には、源泉徴収義務があること
が挙げられます。
1. 日本において確定申告が必要であること
日本において確定申告が必要であることについてですが、個人が日本の居住者に該当する場合、どこで所得が発生したかに関わらず、全ての所得が日本での課税対象となります。すなわち、日本で発生した所得である国内源泉所得、および日本国外で発生した所得である国外源泉所得の両方に対して税金が課されることとなります。この点、日本の非居住者に該当する個人においては、国外源泉所得に対しては例外を除き日本において税金は課されないのですが、日本の居住者は国外源泉所得に対しても日本で課税されます。ここで海外不動産からの賃料収入などがどれに該当するか、ですが、海外不動産は紛れもなく国外に存在している固定資産ですので、そこから発生する収入は国外源泉所得に該当します。
従って、日本の居住者の場合は日本の所得税の対象となり、確定申告が必要となります。一方で、日本の非居住者の場合は国外源泉所得ですので、日本において確定申告をする必要はございません。
ここで、居住者と非居住者の定義ですが、日本の所得税法では、「「居住者」とは、国内に「住所」を有し、又は、現在まで引き続き1年以上「居所」を有する個人をいい、「居住者」以外の個人を「非居住者」」としています。なお、海外赴任などで1年の過半数を海外で過ごすことになる方も、非居住者に該当するものとされています。
2. 1にも関わらず、現地でも納税が必要となる可能性があること
1で海外不動産から発生する所得に対して日本において課税されることにつき説明致しましたが、ここで同じ税金、つまり日本において課税される日本から見て国外源泉所得に該当する所得について、現地でも課税される可能性があることについて留意が必要です。海外で不動産を購入した際には、その不動産から発生した賃料や売却益が、その国で課税されるかを確認する必要があります。
例えば日本においては、日本の非居住者が日本に有している不動産から発生する賃料は、賃料支払い時に源泉徴収(源泉徴収税率20.42%)をする必要があります。つまり、日本の非居住者が有している日本国内の不動産から生じる賃料は、日本において課税対象となります。日本以外の国でも同様の扱いとなる可能性は十分に考えられます。
3. 日本と現地で二重課税を避けるために、外国税額控除や租税条約の規定を確認すべきであること
1と2で説明した通り、日本人が海外で不動産を有している場合、その収入は日本で課税対象であり、同時に、現地国においても課税対象となる可能性があります。では、海外不動産から発生した収入に対して、現地の国で所得税が課された場合、両方の国で、同じ所得に対して、二重で税金を払わないといけないのでしょうか。
結論としては、二重課税の排除は考えられており、外国税額控除や租税条約上の規定が設けられています。
外国税額控除とは、日本の居住者の海外不動産を考える場合には、現地国で既に支払っている税金を、日本の確定申告において税額控除(計算された税額から差し引くこと)をすることを言います。
ただし、外国税額控除は控除できる金額に限度が設けられているため、常に全ての税額を控除できるとは限りません。そこで、国境をまたぐ取引に関する税金に対しては、租税条約の規定を適用出来ることがあります。租税条約は正式名称を「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国と○○国との間の条約」などと言い、あくまで二国間の取り決めとなるため、全ての国で適用できるわけではありません。そのため不動産を取得した国と日本が租税条約を締結しているかの確認が必要ですが、租税条約において不動産収入についての規定がある場合、片方の国でそもそも税金が課されない、または、課されたとしても税率が低くなるなどの措置が講じられます。なお、租税条約の規定の適用を受けるためには、「租税条約に関する届出書」の提出が必要となります。
4. 売却する際に、日本の非居住者となっていた場合には、源泉徴収義務があること
海外不動産を所有している間の賃料収入等に関する税金については上記のとおりですが、海外不動産を売却する際にも留意が必要です。海外不動産を売却する時点で日本の非居住者になっていた場合で、当該不動産を日本人に売却する場合、その売却収入についても一定の場合を除き、購入者に源泉徴収義務が課されます。この税金は、売却益に対するものではなく、売却額に対して10.21%の税率が課されるため、税額が大きくなるので留意を要します。海外不動産売却時に日本の居住者であった場合には、日本で確定申告が必要であり、また上記賃料収入の場合同様に、現地国での税金についても注意する必要があります。
なお、個人ではなく日本の法人として海外不動産を取得した場合には、個人の場合と違い日本法人は常に日本の居住者に該当しますので、全ての所得が日本における課税対象となる結果、海外不動産からの賃料収入について日本で法人税が課されます。また、当該収入は現地国でも課税対象となる可能性がある点については個人の場合と同様であることから、外国税額控除や租税条約の規定を確認する必要があります。また、日本法人の名義で購入した海外不動産を途中で海外法人に譲渡するなどし、その海外法人が日本人に最終的に売却する場合にも、源泉徴収が必要となります。
著者:檜田和毅
事務所:檜田公認会計士事務所
著書:東南アジア進出企業のための 海外赴任・海外出張の労務と税務 早わかりガイド
経歴:
慶應義塾大学商学部卒業後、監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入社
上場企業の監査業務や、内部統制コンサルティング、財務助言業務などに従事
2011年に米国アリゾナ州のサンダーバード国際経営大学院にて、国際経営学のMBAを取得し、世界に広く人脈を構築
2013年より檜田公認会計士事務所(2016年より税理士法人ヒダ)にて、税務顧問に加え、個人及び法人の海外進出支援や海外子会社の会計顧問、事業再生、経営コンサルティングに携わる
MBA(サンダーバード国際経営大学院)、不動産証券化協会認定マスター
国際的な会計事務所ネットワークであるJPAInternationalの、日本におけるメンバーファーム