2017-06-14
【専門家コラム】日本法人がモンゴル不動産を購入する際の注意点は?
- 海外不動産コラム
原口薫
原口法律事務所 所長
海外不動産ブームの中でも今、特に人気のあるアジア圏。その中でもモンゴルは豊富な天然資源を持つ資源大国であり、今注目のエリアです。そこで今回は、モンゴル不動産に精通する原口総合法律事務所の原口薫先生にお話をお伺いしました。本記事では日本法人を対象に、モンゴル不動産の法律に関する基本知識や、それを踏まえた事例と解決策を解説していきます。これから不動産価値が上昇する可能性を秘める地域であり、必見の情報です!
モンゴル不動産取得に関わる基本事項
Q: モンゴルで土地や建物を取得する際の基本的な権利について教えてください。
A: まず初めに、現在のモンゴル不動産所有に関する権利についてご説明します。権利は大きく「土地」と「建物」の二種類に分けられます。
【土地に関して】
モンゴルの土地は原則として国有であり、モンゴル国民も限定的にしか所有できません。よって外国人の取得できる権利は極めて制限されています。土地に関しては所有権、占有権、利用権の3つの権利があります。
(1)所有権: 合法的に土地を管理・処分することができる権利のこと。
→モンゴル国民のみに認められます。
(2)占有権:土地利用契約によって定められた土地の利用目的や条件などに基づき、土地を合法的に管理(占有・利用)する権利のこと。
→モンゴル市民、モンゴル企業のみに認められます。外国人や外国企業、及び外国資本を受け入れたモンゴル企業は認められません。
(3)利用権:土地の所有者や占有者との契約で定められた目的に基づき、合法的 に土地を利用する権利のこと。占有権に比較して、譲渡性がなく利用期間も短くなる。
→日本人や日本企業にも認められます。
【建物に関して】
所有権の取得、建物の一部についての区分所有、登記の全てが可能です。外国企業は通常の場合、建物を所有又は建設する前に土地利用権を取得し、建物に対する所有権を登記することになります。
Q: では日本法人がモンゴル不動産を取得する際はどんな権利が認められますか?
A: 土地の権利で日本法人が認められるのは利用権のみです。建物に関しては所有権の取得、建物の一部についての区分所有、登記の全てが可能になります。
このように、モンゴルで日本法人が不動産を取得する際には土地と建物で得られる権利が大きく異なるので注意が必要になります。
【事例】日本法人がモンゴル不動産を取得する際の注意点とその対策
Q: 実際に日本法人が不動産を取得する際に多い事例はどんなものでしょうか?
A: まず一つは、下記のような事例です。
【事例1】 所有者の国籍による権利の変化
モンゴル法人A(以下A)の所有していたマンション一棟を日本法人B(以下B)に売り渡しました。
Q: この取引によって、土地の権利はどう変化するでしょうか?
A: この事例では土地の権利が「占有権」から「利用権」に変化してしまいました。区分所有であればほとんど問題にはなりませんが、モンゴル人が所有していたマンション一棟を日本法人が所有すると、土地の権利が自動的に変化してしまうことがあります。占有権は期間が長く譲渡性がありますが、利用権の場合は一切認められません。保証に関しても占有権では50年だったものが、5年に短縮されます。つまり、より厳しい制約の中で所有することになってしまいます。
このような事態を避けるためにも、モンゴル人しか取得できないことを前提に、多くの場合は日本法人がモンゴル法人に出資し、モンゴル人が代表の合弁会社を設立して土地を購入あるいは占有権を取得し、その上の建物を建設します。しかし、その過程で次の様な事例が発生する場合があります。
【事例2】 モンゴル法人側の一方的な土地の売却
日本法人C(以下C)はモンゴルの中小企業D(以下D)に出資して、モンゴルが代表の合弁会社CDを設立しました。この合弁会社設立の目的はCがモンゴルの土地を利用するためでした。事実、Dは土地の利用権をCに拠出していました。しかし、ある時、この協力関係が崩れてしまいます。
Q: 何が起こったのでしょうか?
A: この事例では、DはCに内緒で、購入した土地を一方的に売却してしまいました。このように、最初は協力関係にあったはずのモンゴル人パートナーが一方的に土地を売却したり、お金を使ってしまうというのはよくあるご相談です。一度取られてしまった後に、取り返すには多くの時間と労力がかかります。よって合弁会社を設立して土地を所得した後の管理も注意が必要です。
Q: 土地を取得した後、管理人を日本人にして一方的な売却を防ぐことはできませんか?
A: 基本的にモンゴルの冬はマイナス40℃、夏は35℃と気候的に居住するには厳しい環境ですので、日本人による長期的な管理は困難です。また、現地の管理は基本的にモンゴル語でのやり取りになるため、言葉の壁があります。よって現地の語学堪能なモンゴル人を管理人として雇うのが通例です。これらを踏まえると信頼できるモンゴル人のパートナーを見つけることは上記リスクを回避する為には重要な対策であると言えます。
Q: 信頼できるパートナーを見分けるにはどうしたらよいでしょうか?
A: 結論から述べますと、どの程度その人物が信用できるのかは現地モンゴル人にしかわからないので、モンゴル人を通じて人や不動産の調査を行い、慎重に判断行うことになります。
例えば、モンゴルでは取引が1億円以上の場合、売主の同意がないと登記簿謄本がとれないので、相手との機密保持契約が必要になります。機密保持契約を結ぶ際に相手の人柄が信用できるか見極めるために予め信用の調査をします。特にモンゴルでは最近政権が交代し、それまで勢いのあった人が落ち目にあるため、そのような人から不動産を購入する際はさらに注意が必要です。
インタビューの中でもあったように、モンゴルの不動産購入や企業進出に関しては情報収集のみならず、信頼できるモンゴル人パートナーを見つけることが重要であると言えます。そのパートナーの判別には日本国内のモンゴルに精通した専門家に相談するのも選択肢の一つになるでしょう。
インタビュー話者:原口薫
事務所:原口総合法律事務所
経歴:中央大学法学部法律学科卒業
米国シカゴ大学ロースクール修士課程卒業
資格:平成元年 東京弁護士会登録
平成7年 ニューヨーク州弁護士登録
専門分野:国内企業の海外展開(モンゴルと中国)、海外企業の国内展開、
国境を跨ぐ相続、訴訟、仲裁その他の紛争解決、倒産、労働事件、刑事事件
一般企業法務、企業買収(M&A)、金融、不動産、独禁法、国際債権回収、著作権、